
数多くの2.5次元作品を手掛ける三浦 香氏が企画し、脚本・作詞・演出も担当するオリジナル作品「Multi-Unit Apartment」が8月に上演される。恋をすることが入居条件だというアパート・Multi-Unit Apartmentに住む8人の女と、彼女たちの前に現れる1人のイケメン庭師によって繰り広げられる、恋あり秘密あり復讐ありのショーステージだ。キャストには、木津つばさを筆頭に持田悠生、SHIN、前田隆太朗、皇希、原 貴和、福島海太、加藤良輔、井阪郁巳と2.5次元作品を中心に活躍する実力派が名を連ねる。今回は、稽古場レポート及び三浦氏へのインタビューをお届けする。
稽古場で生まれるリアルが観客の共感に、稽古場レポート
取材開始時、稽古場では物語の序盤の芝居パートが組み上げられていた。都会に憧れて田舎からやってきたココ(木津つばさ)が、初めて「Multi-Unit Apartment」にやってくるシーン。アパート内にはひときわ目を引く真っ赤なソファーが置かれ、キービジュアルから感じた“おしゃれも恋も全力で楽しむ女の子たちの賑やかな日常”がそこにはあるのだろうと、想像力を掻き立てられた。
しかし、待っていたのは想像よりも何倍も賑やかでハイテンションな彼女たちの日常だった。このシーンでは、ココと意気投合して彼女をアパートに連れてきたリリアン(原 貴和)や、初対面から歯に衣着せぬ物言いでココに畳み掛けるゾーイ(福島海太)、笑顔は天使ながらとんでもない野望を抱くエンジェル(SHIN)が登場。自己紹介もそこそこに話題が二転三転しながら進んでいくガールズトークに気圧されていると、さらにエンジェルの上司であるイザベラ(加藤良輔)が取り巻きの部下を引き連れて帰宅し、文字通りドタバタな展開へ。コミカルなシーンも多く、見学していた他のキャストからも笑い声が度々あがっていた。


脚本・作詞・演出を手掛ける三浦氏は演出卓ではなくステージ側に腰を据え、細かくシーンを区切りながら、「このセリフを受けてもっと大きく、躍動的にリアクションしてみて」「そこのオフ芝居(メインのセリフの背後での芝居)は遠慮しすぎずもっとやっていい」と、芝居のイメージを体全体を使って伝えていく。
今回、芝居のカギとなるのが、ほとんどの登場人物が女性という点だろう。オールメールキャストだが、彼らが演じるのは女装した男性ではなく、正真正銘の女性。そのため、本番を想定して、スカートやパンプスを身につけて稽古に臨んでるキャストの姿も見られた。三浦氏は、例えばロングスカートのさばき方や、セール中の女性アパレル店員の接客態度。さらに、彼氏が迎えにきたことを周りにさり気なく自慢する女の子の心境……といった、女性なら「あるある、わかる」と共感できる仕草や感情を、実演を交えながら丁寧に伝えていたのが印象的。男性が考える想像上の女性像ではなく、リアルな女性を演じてもらいたい。そんな三浦氏の熱量が感じられた。それと同時に、彼らが演じる女性が魅力的であればあるほど、それはそのまま本作の面白さに繋がるのだろうと、三浦氏の言葉に応じてどんどん魅力的な女性に近づくキャスト陣の様子に本番への期待が高まった。


メインキャストの中では、唯一男性役となるのが、井阪郁巳演じるオスカーだ。オスカーは誰もが振り向くイケメン庭師だが、しかし本当の顔は恋愛詐欺師という役柄。ハンナ(皇希)が働くランジェリーショップにオスカーが訪れるシーンでは、女性を骨抜きにする恋愛詐欺師としての立ち居振る舞いを、三浦氏と井阪が話し合いながら固めていった。恋愛詐欺師であるオスカーが女性ごとに変えるアプローチの仕方も、注目してみると面白いかもしれない。
この日は、序盤で全キャストが登場するナンバーと、そこから続く数シーンを見学したが、とにかくパワフルの一言に尽きる。話しだしたら止まらない放課後のガールズトークのように、はたまた恋バナに愚痴にと話題が尽きない華金の女子会のように。ときどき毒を吐きながらも全力で生きるガール&レディたちの生命力が稽古場にみなぎっていた。
インフルエンサーのビビ(持田悠生)や、アパートの管理人のアヴァ(前田隆太朗)の個性も前述したシーンで見え隠れしていたが、本編ではどう大暴れするのか楽しみだ。


本作はショーステージの形で描かれるとあって、音楽やダンスも見どころだろう。序盤のシーンではポップでキュートで華やかな女の子たちの世界が、TAKA氏や青海 伶氏が手掛けた音楽、REXによる振付によって描き出された。ここから8人の女たちの“復讐ショー”へとどうつながっていくのか。魅力的な女の子たちが織りなすエネルギッシュなガールズショーの幕開けを、楽しみに待ちたい。
稽古の合間には、本作を企画した脚本・作詞・演出を手掛ける三浦 香氏にインタビュー。企画のきっかけや、男性キャスト陣が女性を演じる意味などを伺った。本作がより楽しみになるヒントを受け取ってみてほしい。
「一緒に暴れてほしい」三浦 香氏インタビュー
――今回はオリジナル作品となります。本作の出発点となったモチーフや、描きたかった女性像などを教えてください。
中高6年間を女子校で過ごしたので、女の子に囲まれて生活していたんです。なので、女の子の本音というか、キラキラしているだけじゃない腹黒さみたいなものを描いてみたいという気持ちがずっとありました。アメリカのドラマ「デスパレートな妻たち」を観たこともきっかけの一つで、こういう作品にチャレンジしたいと思っていたものが、今回叶った形となります。
――女の子たちの物語を男性キャストでやろうと思ったのはなぜでしょうか。
自分が失恋して復讐するとしたら……と考えたときに出た答えが、「男よりもかっこよくなりたい」だったんです(笑)。それを具現化するためには、かっこよくなった時に本当の男性だったら説得力があるな、と。それを軸に考えていって、じゃあ男性に女性を演じてもらった方が早いかなと考えました。


――先ほどの稽古でも、三浦さんが女性の仕草などを伝えている姿が印象的でした。女装ではなく女性を演じる彼らに、ほかにはどんな言葉をかけていますか。
女の子って友達同士でもよく腕を組んだり抱きついたりするじゃないですか。なので、「もっとボディタッチして」というのはよく言っていますね。女の子特有の感情の起伏というのも、なかなか理解するのが難しいみたいで(苦笑)。そこは今も説明して伝えているところです。
あとは、「男子が思っている女の子像と現実はけっこう違う部分もあるよ」ということも話しています。ありのままの“女の子あるある”を伝えて、「ショックです」と言われることもあるんですが(笑)、細かな部分でリアリティが欠けていると、観ている女の子には男性が演じている感じが伝わってしまうと思うんです。キャストが持っている女の子像が少しキレイすぎるので、申し訳ないなと思いながらも、それを壊す作業もしています。
――登場人物それぞれのキャラクターが非常に濃く、かつ生き生きと描かれています。キャラクター作りの際に意識したこと、大事にした“軸”のようなものはありますか?
これまで自分の周りにいた人たちをモチーフにしている部分もありますが、全員すごくクセがあるんだけど、みんな「自分は普通だ」と思っているんですよね。大人しくて優しく見えるけど一番怒らせちゃいけない人や、生意気だけどすぐ泣いちゃう人とか。女の子の持つギャップを具現化して、お客様にも一緒に共感してもらえたらなと思いながら作っています。もし観ていて一つでも共感できるところがあれば、彼女たちの仲間に入れると思います。


――本作は客席と距離が近い品川プリンスホテル クラブeXでの上演です。演出の上でも、その近さというのは意識していらっしゃいますか。
せっかくの距離感なので、お客様を巻き込みたいし、声も出してほしいし、コール&レスポンスもしてもらいたいです。オールドアメリカに寄せた盛り上がれる楽曲もありますし、めちゃくちゃ泣ける楽曲もあります。ラストには男性に変装した姿でのショーステージもあるので、こちらはぜひペンライトを振って盛り上がってほしいです。女の子にとっては、共感できたり反面教師にしたりしながらストレス発散ができる作品に。男の子にとっては、女の子って怖いって思ってもらえる作品になったらいいなと思っています。
――最後に、公演を楽しみにしているお客様へのメッセージをお願いします。
私にとっては、久々に女心で暴れられる作品です。いろいろな思いをぶつけた歌詞や、彼らの努力の結晶を楽しみながら、そしてときには失恋の思い出を思い返しながら、一緒に爆発してもらえたら嬉しいです。
取材・撮影・文/双海しお