
写真左から)山本沙羅、鍛治本大樹、林貴子、成井豊
演劇集団キャラメルボックスの劇団創立40周年を記念した記念公演『トルネイド 北条雷太の終わらない旅』が12月に大阪、新潟、東京にて上演される。本作の主人公・北条雷太は、脚本・演出の成井豊が「最も愛する主人公」と語る人物だ。1995年に『レインディアエクスプレス』、2003年に『彗星はいつも一人』のタイトルで上演された北条雷太の物語が、『トルネイド 北条雷太の終わらない旅』のタイトルで22年ぶりに再演される。主人公の北条を演じる鍛治本大樹、朝倉ナオを演じる林貴子、酒井しずえを演じる山本沙羅、そして成井に本作にかける思いを聞いた。
――夏の2本立て公演に続く40周年記念公演です。まずは意気込みをお聞かせください
山本 40周年はイベントもできたし、記念公演として夏には2本立てで上演できました。そして本作も控えています。私が入団してからあまりイベントなどが行われていなかったのですが、この1年は劇団員としてとても楽しい1年になっています。そんな1年の締めくくりにむけて気を引き締めて頑張ります。
林 お客様にとっても、劇団員にとっても、クリスマス公演って特別なものなので、40周年ではありますが、いつも通り誠意を持ってお届けしたいなと思っています。
鍛治本 やっぱり劇団にとってクリスマス公演は特別なものです。この作品もクリスマス色はあるような、ないような……。いや、あるのかな(笑)。1年に1度、誰かのことを思う気持ちに溢れている作品だと思いますので、皆さんと素敵なクリスマスが過ごせたらと今から楽しみです。
成井 クリスマス公演って第5回公演の『子の刻キッド』の初日がクリスマスだったから、クリスマス公演って無理やり銘打って始めただけで。それがこんなに続いちゃったんですよね(笑)。クリスマスらしい題材の作品を作ってきたなかで、この「トルネイド」の初演はトナカイをテーマにしようと思って『レインディアエクスプレス』というタイトルにしたのに、トナカイが出てこなかったんですよ。
一同 (笑)。
成井 だから再演のときにタイトルを変えて、アイテムをクリスマスケーキにしたんです。だから、クリスマス色、ありますよ。
鍛治本 そうですね、ありました(笑)。
成井 そして今回、3回目の上演に挑戦します。


――この作品を40周年記念公演として上演しようというのは、成井さんの中では以前から決まってらっしゃったのでしょうか?
成井 そうですね。40周年記念公演(1)では、1番好きな脚本である『さよならノーチラス号』をやったので、記念公演(2)は1番好きな主人公の芝居をやろうと思っていました。本当にこの主人公の北条雷太という男が大好きで。今回、再演にあたって書き直しがかなりあるかなと思ってタイトルを変えたのですが、あんまり変更点がなくて(笑)。でも、「トルネイド」というタイトル、かっこいいよね。僕はすごく気に入っています。
――そんな大好きな北条雷太に鍛治本さんを起用された思いとは?
成井 多分、彼にとってはすごく挑戦になるんじゃないかと思います。もう、入団して20年弱経っているわけですが、出会ったときは本当にしょうもなかった。
鍛治本 アハハハ。
成井 最初は声も全然出ないし、動きもあまり良くないし、今思えば欠点だらけの俳優だなと思ったんですが、今はすっかり成長して、本当に、本当にいい俳優になったんですよ。
鍛治本 いやいやいや。
成井 でも、だからこそ、新たな面の発掘をして、さらにいい役者になってほしいなと思って。多分、こういう役はやったことないよね?
鍛治本 ないですね。
成井 190歳の武士ですよ。やったことがあるわけないです(笑)。キャラクター的にもこういう役はやっていないですけれど、勝算があるから抜擢しました。きっと鍛治本ならやり遂げてくれるんじゃないか、鍛治本がこういう役をやると面白いんじゃないか。そう思っています。
――鍛治本さんは配役を聞いてどう思われましたか?
鍛治本 前回まで西川浩幸さんがやっていた役ということで、劇団員として大きなプレッシャーを感じています。先日、再演の映像を観たのですが、北条が何を思って行動しているのか、まだ掴みきれていない状態で。改めて、やったことがない役だというのを感じました。今までそういうことってあまりなかったので、今は未知数ですごくワクワクしています。

――成井さんがそれほどまでに北条雷太に惹かれる理由とは?
成井 初演の脚本を書いたのがもう大昔なのであまり覚えてないんですが、多分発想の原点は高橋留美子さんの『人魚シリーズ』だと思うんですよ。人魚の肉を食べて不老不死になった漁師の話で、そこで「不老不死って面白いな」と考え始めたんだと思います。もう1つは、映画『フォレスト・ガンプ』。全然『人魚シリーズ』とは違いますけど(笑)、『フォレスト・ガンプ』が映画ベスト3に入るくらい大好きで、あの映画を観たおかげで、「1人の男の半生を描くって面白いな」と思うようになって、不老不死の幕末の武士の半生を書いてみた。書いてみたらやっぱり面白かったんですよね。
なので、なぜ雷太が好きかというと、大元にフォレスト・ガンプという男がいて、ひたすら愚直なんですよ。それがいい。いい言い方をすれば、この上なく誠実です。別の見方をすればバカで不器用。だけど、彼はそうとしか生きられないし、曲げられない。自分が妥協して楽に生きちゃう人間だからこそ、ひたすらに愚直な雷太に憧れるんだと思います。この作品で雷太がやることって、ほぼ無駄なんですよ(笑)。その愚直さがたまらなく好きなんです。
――林さんと山本さんが演じる役についても教えてください。お二人は配役を聞いていかがでしたか?
林 私は朝倉ナオというおばあちゃんの役をやるんですが、年齢設定が80歳で。初演、再演では大先輩である坂口理恵さんが演じてらっしゃったということで、最初に配役を聞いたときにはものすごくプレッシャーを感じました。でも、なかなかおばあちゃんの役をやることもないので、楽しみでもあります。ナオの相棒となる女性を(山本)沙羅ちゃんが演じるんですが、親子ではない女の子と仲良く2人で話すという関係性が面白そうだなと思うので、楽しみながら演じられればいいなと思っています。

山本 相棒の酒井しずえです(笑)。キャラメルボックスの作品でよく登場する、お客さんと同じ目線で物語を理解していくポジションの役に、今回初めて就かせていただきます。お客さんとしてキャラメルボックスの作品を観てきた身として、プレッシャーも感じているのですが、相棒役の(林)貴子さんが夏の公演でそのポジションをすごく楽しそうに演じられていたので、すごく心強いですし、私も楽しみたいなと思っています。

――先ほど、鍛治本さん起用への思いをお聞きしましたが、お二人の配役への思いについてもお聞かせください
成井 朝倉ナオは80歳なんだけど、後半の回想シーンで20歳になるんですよ。そこのバランスという意味で、アラフォーの林がナオにはぴったりで。きっと80歳の演技もできるし、20歳の演技もできるんじゃないかなという、そういう期待ですね。
山本はパイプ役は初めてと言っていましたが、厳密に言えば成井硝子店(成井とその家族による劇団)の公演で、そのポジションをやってもらったことがあって。それから、ナッポスプロデュースの舞台「ぼくのメジャースプーン」でも、岡田達也とコンビでそういう役をやってもらったんだよね。それをやるとすごく生きるんですよ、山本って。初挑戦というよりも得意技だと思っているので、それをキャラメルで初めて披露してもらう形になると思っています。
――40周年の節目のタイミングということで、改めて皆さんが思う劇団の好きなところや魅力を語っていただけたらと
山本 2本立てで上演した夏公演のうち1本を久々に客席から観ましたが、「これがキャラメルボックスだよな!」と感じて。うまく言語化できないんですが、すごく温かいんですよね。それは自分が学生時代に観ていたときから変わっていなくて、この夏にも体感できたことが嬉しくって。きっと、ずっと変わっていないキャラメルボックスの魅力みたいなものが根底にあって、それは来て体感していただかないと分からないものなのかなと思います。
鍛治本 僕はスポーツが好きなんですが、キャラメルボックスにはプロのスポーツチームだったり、甲子園だったりを応援するような感覚があるなと、お客さんとして観ているときに思ったんですよね。劇団員それぞれの成長を見守りながら、一緒に年を重ねていける。そういう過程を共有できるのが劇団の魅力だし、キャラメルボックスはそれが色濃く出ているなと思っています。今回も新人2人がデビューするんですが、本公演の初舞台って人生に一度きりなので、それをお客さんと一緒に共有できるのが楽しみです。
林 一生懸命に心の汗をかいているお芝居が大好きで、私も高校生の頃からずっと劇団のファンだったんです。決め手になったのは『クロノス』で、観終わった後に席から立てないくらい衝撃を受けて。主人公の一生懸命なところがたまらなく好きで、その一生懸命さというのは劇団の魅力でもあるのかなと思っています。劇団員としてお芝居をする今も、あのときの衝撃がずっと忘れられずにいるので、そういうパワーを届けたいなと思っています。
――40年間の中で変わらない部分や、劇団としてのターニングポイントを、成井さんはどう捉えていますか?
成井 社会人サークルとして85年に劇団を作ったときは、プロになるなんて毛ほども考えていなかった。そこから、なし崩し的にプロを目指すことになったのですが、そもそもキャラメルボックスはどんなお芝居を作るのか、ということも模索中でした。ターニングポイントと同時に劇団のカラーが決定的になったのは、94年だったかなと思います。『ディアーフレンズ,ジェントルハーツ』の主演予定だった上川隆也にドラマが決まって、3ヶ月前に出演できなくなっちゃったんですよね。そこで今井義博を主役に抜擢せざるを得なくなった。そうするとやっぱり、すごく成長するし、面白かったんですよ。
当時、鴻上尚史さんが“劇団10年限界説”というのを唱えていて。要は、劇団を立ち上げて10年経って売れてくると、トップの劇団員がテレビや映画に移ってしまうから、その劇団は潰れるというもので。今井を抜擢した当時が、劇団9年目。まさに限界が来ていたところでした。でも、今井を抜擢したことで、次から次へと主役が生まれてくれれば、誰がいつ卒業しても全然問題ないんだなと気づけた。そして、94年に劇団員が40人いたら40人全員が主役ができる劇団にしていこうと決めて、そこでキャラメルボックスのカラーが決まりましたね。
今年は優勝しましたが、阪神タイガースは優勝できなくてもファンが離れない。それってチームが好きだからでしょう。キャラメルも劇団として応援してもらえるお芝居を作っていこうと考えて続けてきました。

――成井さんが思い描く今後のキャラメルボックスや、作家としての未来について教えてください
成井 今年64歳になるんですが、ゴールが見えてきた中で、まだまだ再演したい作品が結構ある。まさに本作もそうです。この先は、きっと再演する度にそれが最後の再演になると思うので、新作だろうが再演だろうが、1本1本が本当に大切になっていくと思います。今、オリジナルの脚本を69本書いているんですよ。100本は無理でもできるだけ多く書いて、もっと上手くなりたい。「さよなら~」が1番好きだと言っていますが、あれは40歳手前で書いた作品なので、それってどうなのかなと(苦笑)。64歳になる今こそ代表作を書きたいと思っています。
――22年ぶりの再演となります。過去に観たという方、そして今回初めて観劇する方に向けて、楽しんでほしいポイントを教えてください
林 楽しみな点でいうと、今回デビューする新人が2人いるんです。長年、劇団員としてやってきたメンバーもいますし、その新旧そろったメンバーでお届けしているというところも注目してほしいなと思っています。
山本 40周年ということで、1年を通してたくさんの劇団員が出演しているんですが、加えて、今回はダブルキャストと日替わりゲストも発表されました。前回、日替わりゲストがあった公演では、毎日稽古場にいろんな人が来て、うるさいくらい賑やかで(笑)。個性もバラバラな人たちが同じ役を担ってやってきますので、お客様も1度と言わず何度でも足を運んで、お祭りに参加していただけたらと思います。
鍛治本 成井さんだけでなく、劇団員からも「北条雷太が最も好き」という声を聞いています。初めてこの作品に触れる方は、北条という男や物語をフラットに楽しんでいただいて。また、久々に北条雷太に会えることが楽しみという方は、僕と一緒に北条雷太と再び会うまでの旅を楽しむ一員になっていただけたらと思います。
――最後に、2025年の今、この作品を上演することへの思いやお客様へのメッセージをお聞かせください
成井 作っているときは考えていませんが、作り終わってみると伝えたいメッセージが、不思議といつの間にかあるんですよね。本作でいうと、やっぱり“北条の生き方”に関心を持ってほしい。笑うだけじゃなくて、応援したり、愛したりしてもらえたらいいなと考えますね。北条雷太は死ねない男で、もう1人、死が近づいている新聞記者の男を出しています。その死ねない男と死んでしまう男の対比というのも、テーマの1つだと思います。それによって、いかに死ぬか、いかに生きるか、が見えてくるんじゃないかな。
結局、自分が関心があるのが、「いかに死ぬか、いかに生きるか」なんですよね。とくに後者に関心があって、愚直に生きることによって得られる幸せってきっとあるし、それによって周りが得られる幸せもある。私はこの作品から、そういう愚直の素晴らしさを感じています。今の時代、コスパがいいとか悪いとか、やたらと効率を重視するじゃないですか。何を言ってるんだと。コスパを度外視した方が幸せになれるかもしれない。そういったことを、今のお客さんたちに観てほしいです。

取材・文・撮影/双海 しお