劇団おぼんろ第17回本公演『ビョードロ~月色の森で抱きよせて』公演レポート&末原拓馬 初日コメント

2019.02.15

劇団おぼんろ第17回本公演『ビョードロ~月色の森で抱きよせて』が2/14(木)、東京・新宿FACEにて開幕した。

2013年に初演が行われ、動員数2000人を突破、クチコミサイト数週間連続1位を獲得し話題を呼んだ本作。再演となる今回は、ムーヴメントアクターを招き、アクロバットや体の柔軟性をみせるコントーション、バトントワーリングなどサーカスの要素を盛り込み、“物語×サーカス×ダンス”を融合させた作品となっている。

 

劇場に入ると、中央のステージを取り囲むように客席が配置され、段ボールを使用した装飾があちこちに施されている。ひとたび公演が始まると語り部(俳優)は参加者(観客)の前後、左右、時には上下を縦横無尽に動き回り、物語を紡いでいく。語り部の息遣いが間近で聞こえ、体温さえも伝わる迫力に胸が高鳴る。さらに、目の前で繰り広げられるムーヴメントアクターによる圧巻のパフォーマンスが視覚的な演出効果を増幅させる。迫力満点のこの近さこそが、まさに“おぼんろ”の舞台の真骨頂だ。

冒頭、ステージに登場した末原が参加者に向かって語りかけ、様々なものを想像させる。劇場中の照明が落とされ、聴覚だけが頼りの研ぎ澄まされた空間で想像力を働かせると、目の前に自然と物語の光景が広がり、一気に物語の世界へと引き込まれる。

物語は、鬱蒼とした森の奥底に住まう民ビョードロを中心に進行する。彼らは、「病原菌(クグル)」を作り出す技術を持っており、何百年もの間、忌み嫌われてきた存在であった。その一方で、作られた病原菌は細菌兵器として人間たちの戦争や政治に利用されてきた。

ある時、恐れをなした人間の手によって火が放たれ、ビョードロたちは家族や友人を失った。その中で生き残った2人のビョードロ、タクモ(末原拓馬)とユスカ(鎌苅健太)は、街に暮らすお金持ち、代々”シーラン”の家柄のお嬢さまリペン(黒沢ともよ)と出会い楽しい日々を送っていた。しかし、そのことがリペンの父・ジュペン(さひがしジュンペイ)にばれてしまい、タクモとユスカはジュペンの依頼を受けて「病原菌」を作ることになる。ジョウキゲン(わかばやしめぐみ)と名付けられた病原菌は、無邪気に意気込み、自分を造り出したビョードロを喜ばせるため、より凶悪な病原菌になろうとし続ける。手を触れればどんなものでも苦痛を伴わせて殺してしまうジョウキゲンは、次第に、自分がある願いを抱いていることに気づく。それは、絶対に絶対に叶えられてはならない願いなのだった。舞台と客席の隔たりがないからこそ、喜びや苛立ち、葛藤、悲しみ…それぞれの登場人物の心情の変化がダイレクトに伝わってくる。時には思わず微笑んでしまうような温かい気持ちになり、時には胸が締め付けられるほど哀しく苦しい気持ちになり、最後のタクモとジョウキゲンのシーンでは思わず涙がこぼれる。

この作品は演劇でしか味わうことができない様々な体験を与えてくれる。語り部と参加者が隔てなく一体となる感覚を五感をフルに活用して体感していただきたい。
日常を忘れ、おぼんろが紡ぎ出す美しく、切ない、そして温かい物語の世界に浸ってみてはいかがだろうか。

初日終演後、作・演出そして自らも出演する主宰の末原拓馬に話を聞いた。

――初日を終えての感想をお聞かせください。

末原「これまでの稽古と同じことをやっているはずなのに、見える景色が全く違うんだなと感じました。情景が見えるまでイメージを膨らませて作品を作っていますが、他の人が抱いているイメージや感情が移るのか、参加者と一緒に見ると景色が変わるなと思いました。今回は、新しい挑戦もあり、怖い部分もありましたが、本当に大事なものを変えないために、変わろうと思って挑戦したことが、うまくいってよかったなと思います」

――ムーヴメントアクターの方々のパフォーマンスも素晴らしかったですね。

末原「日本トップの方々が出演してくださり、すごく刺激的でした。僕らがお芝居をするうえでも大事にしていることですが、肉体が躍動する形というのはやはり素敵だなと思いました」

――今作で語り部として出演された鎌苅さん、黒沢さんについてはいかがですか。

末原「すごくよかったです!新しい感性が入ってきて、いい刺激になりました。相手が違えばまた新しいものができるっというのは恋愛に似ているのかなと思いました。今後もいろんな俳優さんとやることによって進化を続けていきたいです」

――最後にお客様に向けてメッセージをお願いいたします。

末原「この作品は、始まったらあっという間に終わってしまう、打ち上げ花火のような作品だなと思っています。終わってしまうのは、とても寂しいですが、その時、その瞬間、同じ場所にいた人達が、後々「あの時同じ場所にいたんだね」と語り合えるような仲間になってほしいなと思います。ぜひ思い切って観に来てください」

 

公演は、2/17(日)まで東京・新宿FACEにて上演。

取材・文/ローソンチケット
写真/MASA