女優・声優として活躍する生田輝が脚本・演出・出演を務める舞台『月夜の人形』が、2025年11月1日(土)~3日(月・祝) まで、神奈川県・横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホールで上演される。生田が2023年に執筆した朗読劇をベースに舞台用に書き下ろした作品で、舞台化にあたり、キャストに土屋神葉、七木奏音、小山百代、真野拓実、小泉萌香といった実力派が集結した。初日に向けて稽古が進む中、作品に対する想いや手応えについて、生田にインタビューを行った。
――上演に対する意気込みを教えてください。
基本は役者をやっていますが、大学時代に脚本や演出も勉強していて、その頃から脚本と演出をやってみたいという夢がありました。プロデューサーの徳田さんは大学の同級生で、私が書いた脚本を読んでもらった時に「面白いね」と言ってくれて舞台公演に至りました。その時は「舞台が作れるんだ!」と思っていましたが、今は作る責任の大きさを改めて感じています。各セクションのスタッフと役者が一生懸命作ってくれていて、それをお客様が楽しみに待ってくださっている。「演劇っていいな」、「見に来てよかった」と思っていただけるような作品づくりをしています。
――2023年に朗読劇として上演した作品がベースになっていると伺っています。当時の思い出や手応えはいかがでしたか?
朗読の時は、女優の富田麻帆さんとの合同イベント内での上演でした。30分程度のコンパクトな作品だったので、まずは物語を言葉で伝えることに力を入れていました。お客様からすると朗読劇というより物語の読み聞かせのような感覚だったと思いますが、それはそれで上質な時間を楽しんでいただけたと思っています。
――今回は舞台用に書き下ろした脚本ということですが、舞台化する上でこだわった部分はどこでしょうか。
舞台化にあたって、キャラクターが2人増えました。主人公の幼馴染の妹が増え、幼馴染3人の物語を膨らませたのが1つ。あとは、私が演じる“作者”という役が大きな違いです。この物語を描いた人という立ち位置でストーリーテラーのような登場をするんですが、作者にも苦悩やドラマがある。私が初めて舞台の脚本を書くことと重なるような見え方をすると思います。あとは、30分の物語を舞台にする上で、月の女神様がどうして願いを叶えてくれたのかといった部分も膨らませました。ファンタジーだけど、リアルな人間ドラマがある物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
――お気に入りのシーンや注目ポイントを教えてください。
朗読劇の時とはキャストが全員違いますし、それぞれの役者に当て書きをしているので、朗読を見たことがある方にとっても初めて見る作品になっていると思います。
好きなシーンは全部。でも、幼馴染3人のシーンはとても可愛いです。主人公のトニが抱える悩みに寄り添う幼馴染2人の優しさ、2人の優しさを感じながらも応えられない自分に対する葛藤など、絶妙なバランスで成り立っている3人の友情が愛おしいです。
人形のイリスは、女神の魔法で月夜の晩だけ話ができるようになる。人形の彼女と孤独なトニ少年が徐々に心を通わせる関係性も愛おしいし、そんな彼らを見守る女神のルーナも、難しい役どころだけど小泉萌香さんがとても素敵に演じてくれています。小泉さんとは全知全能の神様がなぜ人間を助けているかなどのディスカッションを重ねていて、舞台上で「本当に女神様がいる!」と感じるシーンがたくさんあります。どのシーンかは言いませんが、お客様にも「本当に女神様かも」と思っていただけると思います!
――小泉さんのお話が出たので、他のキャストの皆さんについても印象を教えてください。
兄妹を演じる真野拓実くんと小山百代ちゃんはキャスティングの時点で可愛い兄妹だと感じていましたが、演じてくれたのを見たら本当に可愛かったです。真野くんは一生懸命なまっすぐさがあり、百代ちゃんは自分の中に芯がある。種類の違うまっすぐさを持つ二人が兄妹を演じるとすごくしっくりくきます。裕福な家の子という設定ですが2人とも品があって。真野くんは立ち居振る舞いに少し苦戦していましたが、参考になる映画などを共有したらすぐにお芝居がかわりました。すごく吸収が早いです。
トニくんを演じる土屋神葉くんとイリス役の七木奏音さんは、すごく空気感が似ている。二人ともほわっとしていて、無理せずキャラクターに寄り添っていると感じます。イリスは人形役なので、車椅子に乗っていて動けないし表情も動かせない。稽古の段階では一度感情を出してみて、徐々に削ることをしています。七木さんは昔から知っている女優さんで、お芝居が好きですごくストイック。人形を演じる上でたくさん考えて表現してくれています。最近では言葉の端々や間の取り方などから感情が伝わる繊細なお芝居をしてくれていて、本当に素晴らしいです。
主人公はずっと出ずっぱりで大変ですが、作品の軸としていてくれる。周囲を巻き込む力があると感じます。トニ少年はエネルギーを発散するタイプじゃないけど、神葉くんが持っている主人公力に助けられています。このまま彼らしくいてくれたらなと思っています。私も想像していなかったトニがたくさん出てくるので、信頼して任せています。あと、アンサンブルの二人がすごく頑張っています。世界を作るのに欠かせない存在なので、8人で作っている芝居ですね。

――演出や美術の構想やこだわりはいかがですか?
初めてのことすぎて、プロの皆さんに助言をいただきながら進めています。スタッフの皆さんが私にとってのルーナ。願いを叶えてくれる神様・女神様のようで、プロの力を感じます。
演出のこだわりとしては、月明かりが重要になってくるので、いろいろな明かりを作っていただいています。夜だけじゃなく朝や夕方など時間経過も多いので、情報をお客様に伝える方法を各セクションと一緒に作っていますね。
美術も、平山(正太郎)さんが脚本を読んだインスピレーションで、操り人形の操作板のイメージと、赤レンガ倉庫の劇場の雰囲気を活かしたものを作っていただいています。場面転換が多いので難しいんですが、舞台監督の竹内(彩)さんのアイデアによっていい感じに進んでいます。 たくさんのルーナが支えてくださっている舞台を、皆さんも魔法を掛けられたような気持ちで見ていただけたら嬉しいです!
――脚本、演出、出演全て行う大変さ、楽しさなどはいかがでしょう。
想像の100倍大変です。脚本・演出をやって出演もされる方がよくいらっしゃるので、無邪気にやってみようと思ったんですが、本当にすごい人たちなんだと痛感しました。
演出は皆さんに助けていただきながら。役者のみんなには演技指導というよりもお客さん目線で提案してディスカッションしています。
脚本は、実は最初の本読みではすごく長かったんです。元々朗読だったものを膨らませた結果、役者がいて表情や動きをつけてくれるところを言葉で描きすぎていて。そこでカットしたら、今度は短くしすぎて(笑)。バランスを考えて整える作業が始まって、ようやく今の形になりました。稽古中に脚本の修正をすることも多かったんですが、みんな嫌な顔ひとつせず真摯に応えてくれたので、みんなの力で完成した脚本だと思います。脚本が完成し、演出も終わりかけているので、あとは役者としての自分を深掘りしていこうと思っています。
――お稽古の手応え、稽古場エピソードについても教えてください。
手応えはすごくあります。役者が全員素晴らしくて、どんどん役を深めて新鮮なキャラクターを見せてくれます。荒通しの時点でクオリティが高く、物語の全体像を役者・スタッフみんなと共有できました。あとはどんどんブラッシュアップしていく段階です。今の時点でも完成しているけど、初日に向けて上がっていく一方だと思いますね。
稽古場エピソードとしては、女神のルーナと人形のイリスが人間について話すシーンがあって。人ならざるものが愛について語るシーンのディスカッション中、女神役の小泉さんが泣き出してしまって。私の言い方がキツかったのかと思って焦ったんですが、「神様の気持ちになったら悲しくて……」と言い出して(笑)。人形役の七木さんもイリスに感情移入して泣き出してしまって。すごく感受性豊かな二人が人じゃないものを演じて、愛について語るのが面白いと思います。
神は愛を知っているし創造主ではあるけど、無性の愛を与えるだけで、もらえるかというとわからない。人形は愛を知らないし、知っても魔法が解けたら人形に戻ってしまう。人ならざるものだから感じる愛の悲しさなども描いています。
全編を通して全てのキャラクターが色々な愛を持っていて、それぞれの愛を繊細に描いているので、人である観客の皆さんが見たときにどう感じてくれるか楽しみです。
――楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
派手な演出がある舞台ではなく、静かに物語を紡いでいきます。私としては、夜寝る前に読む絵本のような作品にしたいと思っています。絵本といっても大人向けで、でもわかりやすいストーリーです。舞台をあまり見たことがない方、派手な作品が好きな方にも一度触れてほしい、「演劇」らしくて見やすい作品にしました。演劇は人生の潤いになると胸を張って言えるので、ぜひ一歩目を踏み出してほしいです。見に来てくださる予定の方は、忙しい日常の中で一瞬夢を観に来るような感覚で足を運んでくださったら嬉しいです。
取材・文・写真/吉田 沙奈
