楽劇『フィガロ』開幕レポート

2026.01.14

1月18日(日)まで東京・東京芸術劇場 シアターウエストにて、楽劇『フィガロ』が上演中だ。

オペラの原作となったボーマルシェの戯曲「フィガロの結婚」と「セビリアの理髪師」をもとに、荻田浩一による上演台本・演出で、モーツァルト、そしてロッシーニによるオペラの名曲を織り交ぜた作品となる本作。主演のフィガロを演じるのは矢田悠祐、フィガロとの応酬を繰り広げるアルマヴィーヴァ伯爵は山本一慶が演じる。

そしてフィガロの婚約者・スザンナ役に皆本麻帆、伯爵夫人ロジーナ役に朝月希和、伯爵家の小姓・ケルビーノ役に谷山知宏、ロジーナの音楽教師ドン・バジリオ役に柴原直樹、フィガロに恨みを持つドン・バルトロ役には駒田一、そして伯爵家の女執事マルチェリーナ役は霧矢大夢が務める。新春に相応しい華やかな顔ぶれとなり、どのような作品に仕上がるか、期待が高まる。

このたび初日に先立ち、舞台挨拶と公開ゲネプロが開催された。舞台挨拶には、矢田、山本、皆本、朝月、谷山、柴原、駒田、霧矢が登壇。初日を目前に控え矢田は「荻田さんの作品に出演させていただくのは8作目ぐらいになるかと思いますが、今回はコメディです。これまでにないポップな作品ですし、フィガロも今まであまりやったことがないタイプの役ですから、個人的にとても楽しみです」と意気込みを語った。

物語の見どころを問われると矢田は「皆本さんが演じるスザンナとの浮かれ具合ですね(笑)。以前、麻帆ちゃんとは荻田さんが演出された『ハムレット』で共演していますが、その時はハムレットとオフィーリア役でした。今回は真逆のキャラクターですし幸せになれるか見守ってほしいです」と笑顔をみせた。となりで矢田の話をニコニコ聞いている皆本の姿も印象的だった。

和気あいあいとした中、舞台挨拶の最後はキャストを代表して矢田が「2026年の幕開けに見ていただく作品としてすごく良いものになっています。オペラが原作ですが、肩の力を抜いて観られる作品ですので、気を張らずに気楽に観てください」と締めた。

ここからはゲネプロの模様をレポートしよう。

アルマヴィーヴァ伯爵のもとで使用人として働くフィガロと伯爵夫人ロジーナの小間使いとして働くスザンナは、結婚を約束している仲良しカップル。貧しいながらも幸せを謳歌していたが、浮気者として知られているアルマヴィーヴァ伯爵が、スザンナに色目を使うようになったことに気をもんでいる。
結婚後は屋敷に住むように言われている2人だが、穏やかな新婚生活を送りたいと考え、アルマヴィーヴァ伯爵家の女中頭・マルチェリーナから借金をして、家を借りることになる。こうした結婚に向けた一連の流れが、周囲を巻き込んだドタバタ劇になっていく…。

さまざまな人物が入り乱れ、次から次へと新たな出来事が起きるが、実はフィガロとスザンナのある1日を描いた作品だ。途中、アルマヴィーヴァ伯爵とロジーナが結婚した馴れ初めが回想シーンで登場するが、基本的に結婚に向けて濃密な1日を送るフィガロたちの様子を描いている。

フィガロを演じる矢田は、明るくはつらつとした青年で、セビリアで理髪師として働いていたものの、さまざまな仕事を経験してきた「なんでも屋」だ。幼い頃に両親からはぐれて以来、身元が分からない浮浪児として苦労してきたバックグラウンドがあるが、それを感じさせない天性の明るさがある。矢田はダークな部分を抱えた人物を演じると魅力を発揮する役者だと思っていたが、今回のフィガロで新たな魅力を見せつけてくれた。躍動感のある元気な役がここまで似合うとは…と驚く。

明るく能天気なプレイボーイ・アルマヴィーヴァ伯爵を演じる山本は、水を得た魚のように生き生きとしている。山本は数々のコメディ作品で実績があるだけに、細かい動き一つで笑いがとれてしまうが、スザンナに横恋慕する自分を棚に上げ、妻のロジーナが浮気をしているのでは…とあたふたする姿を面白おかしく演じている。プライベートでも仲の良い矢田とのやり取りも多く、さすがのコンビネーションをみせている。

スザンナを演じる皆本は、コロコロ変わる表情がかわいらしい。フィガロが好きでたまらず、それを隠そうとしないキュートさがある一方で、アルマヴィーヴァ伯爵に言い寄られて心の底から迷惑そうな表情をする。そのギャップが魅力的で、かつ芯の強い女性を思わせる。ステージをところ狭しと動きまわるパワーにも注目だ。

伯爵夫人ロジーナを演じる朝月は、可憐なドレスに身を包みながらもアルマヴィーヴァ伯爵の心が自分に向いていないことを嘆き悲しむ。普通であれば、夫の心が離れてしまうと卑屈になってしまうが、ロジーナはそういうところがない。誰に対しても優しく接する女神のような存在だ。時折夫の浮気癖を思い出し怒るところがあるものの、クスッと笑ってしまうかわいらしさがある。長い手を大きく広げながら演じる朝月にコメディエンヌの素質を見た。さらに独唱では透明感溢れる美しい歌声と、情感豊かな表現力が心に深く響く。

ケルビーノ役の谷山は、独特の声が印象的だ。舞台挨拶でマルチェリーナ役の霧矢が「私が今まで会ったことがないタイプの俳優さん」と絶賛していたとおり、舞台に登場すると強烈な存在感がある。彼が歌う曲はオペラ『フィガロの結婚』でもよく知られているナンバーからのバリエーションである点にも注目したい。

ロジーナの音楽教師ドン・バジリオ役の柴原は、お金を渡されたら自分の考えをコロッと変えてしまうお調子者。スザンナの従兄弟として、結婚を邪魔する態度を取る。登場人物の中では少しだけ嫌われ者の要素がある人物ではあるが、なぜか憎めない。それは柴原の柔らかい雰囲気がなせるわざだろう。のびやかで爽やかな歌声に今後の活躍を期待してしまう。

そしてドン・バルトロ役の駒田は、さすがの迫力だ。かつてロジーナとの結婚をフィガロに阻止され恨みに思っている彼は、復讐をするべくフィガロの前に姿を現すが、登場から面白い。エキセントリックな役なので、終始顔を真っ赤にしながらの熱演から目が離せない。稽古場で出し切ったという体当たりのバルトロはぜひ劇場で。

マルチェリーナ役の霧矢は、しっとりとした大人の女性と思いきや、結婚に浮かれるスザンナにやきもちを焼くなど、女性にありがちな2面性を高い演技力で見せた。宝塚時代から演技に定評のある彼女だが、霧矢が演じるマルチェリーナの説得力のあること!終盤驚きの事実が判明するが、その際の変わり身の早さがとても上手い。さらにバルトロとの大人のカップル感も見どころ。

今作で特筆したいのは、音楽監督・編曲・歌唱指導の福井小百合が手掛けた楽曲の数々だ。
荻田の意向もあり、福井はオペラをそのまま演奏するのではなくオリジナルのメロディーを加えた個性的な楽曲に仕上げた。一つひとつが素晴らしく、作品を美しく彩っている。

中でも矢田が歌う楽曲『セビリアの理髪師』より「町の何でも屋」からのバリエーションは、複雑なリズムで非常に難易度が高い。舞台を動き回りながら歌いこなす矢田に驚きを隠せないし、かなり聴き応えがあるので期待してほしい。

「音楽劇なので、ミュージカルほどは歌っていない」と演出を手掛けた荻田は語っているが、登場人物それぞれが歌う楽曲はどれも印象に残る名曲ばかりだ。福井のピアノ、佐藤誠のギターの生演奏で繰り広げられる舞台は、とても贅沢な空間。ぜひ音楽にも集中して耳を傾けてほしい。公演は東京・東京芸術劇場シアターウエストにて1月18日(日)まで。

初日を迎えて

フィガロ:矢田悠祐
僕は荻田さん演出作品に、数えると8作目になりますが、今までとはちょっと違うコメディでポップな作品は初めてです。演出をしていただく度、毎回新しい景色を見ることができて、今回もそういう作品の1つになればいいなと、もうそうなってきていますね。今までやったことがない役柄なので、個人的にも楽しみにしております。

≪見どころについて≫
スザンナとの浮かれ具合。以前に皆本さんと共演した時は、ハムレットとオフィーリアだったので真逆な役どころです。あたたかく見守ってください。

≪メッセージ≫
1年の幕開けに観ていただく作品として、肩の力を抜いて観られる、すごくホンワカしたポップな音楽劇になっていると思います。あんまり気を張らずに気軽に観に来ていただければと思います。

アルマヴィーヴァ伯爵:山本一慶
皆さんにお届けできることをすごく楽しみにしていました。240年前のオペラの原作ということで固いお芝居と思いがちですが、何の知識もなく楽しんでいただけるコメディ作品になっています。劇場で皆さんを笑いに誘えたらと思っています。

≪見どころについて≫
僕は一途ではなく、愛を叫び続けております。いろんな方に向けてのたくさんの愛を楽しんでいただきたいと思います。

スザンナ:皆本麻帆
いよいよお客様の前で上演できるということで、すごくワクワクしております。
お客さまがどんな風にリアクションや受け取り方をしてくださるのか、お稽古場で皆さんのシーンを見ていて私自身どのシーンもすごく楽しくて、ここにお客様が入ったらもっと楽しくなっていくのではないかと、とても楽しみです。劇場でお待ちしております。

≪見どころについて≫
見どころは本当にありすぎるので迷います。私は霧矢さんのマルチェリーナと駒田さんのドン・バルトロのベテランカップルのシーンが大好きです。

ロジーナ:朝月希和
私が当初思っていたよりとてもコメディ要素の強い作品に仕上がっています。きっとご覧になった皆さんがクスッっと笑っていただけるところが多々あると思っておりますが、どうなるのかなというドキドキもあります。随所にモーツァルトとロッシーニのとても美しい音楽が散りばめられておりますので、そこも楽しんでいただけるように千秋楽まで努めてまいりたいと思います。

≪見どころについて≫
お稽古で拝見していて、私はおひとりおひとりにお気に入りポイントがあります。皆さまもご覧になると、登場人物それぞれのあそこ好きだなっていうポイントをいっぱい見つけてもらえるはずです。そこが見どころです!

ドン・バジリオ:柴原直樹
新年の幕開けにふさわしい楽しいコメディ作品になっています。今回、僕はキャストの中では最年少ですが、皆さん本当に素晴らしくて面白くて強烈で負けないように頑張ります。

≪見どころについて≫
ドン・バジリオはみんなからうっすら嫌われている人で、もちろん普段の皆さんはすごく優しいです。たくさん名前を呼んでもらえるので、みなさんにもドン・バジリオを覚えていただけるように印象に残るように頑張ります。

ケルビーノ:谷山知宏
楽劇『フィガロ』というだけあって、稽古場に入る時に歌を歌いながら入っていました。お客さまも観たあと歌を口ずさんで帰っていただけるような、楽しい気分をお持ち帰りいただけたらと思います。お待ちしております。

≪見どころについて≫
この作品は『フィガロの結婚』と『セビリアの理髪師』2つをドッキングしたお話で、セビリアが過去の回想として入ってくる疾走感が楽しくて好きです。そういう物語の壮大なスピード感を楽しんでいただきたいと思います。

ドン・バルトロ:駒田一
約1ヶ月以上稽古してきて、もう初日なんだなって思います。稽古場でやることをやって僕なりには出し切ったつもりです。出して出して出して(演出の)荻田さんにかなり削られてシンプルになって、結果的にそれが僕の目標だったので満足しています。これを初日からバーンとぶつけて、たまに舞台上で血管が切れそうで顔が真っ赤になる瞬間があるんですけど、その時は指を差して笑ってやってください。

≪見どころについて≫
この8人のチームワークはとてもいいです。見どころは本当にたくさんありますが、普通の人があんまりいない、ちょっとどこか変わってる、言ってる本人がそうなんですけど、荻田マジックとして演出家の荻田さんはよくまとめたなって思います。休憩なしのあっという間の上演時間なので、どこをとっても面白いんじゃないかと思います。

マルチェリーナ:霧矢大夢
衣装をご覧の通り、とてもカラフルなコメディ作品です。モーツァルトとロッシーニのすごく素敵で華やかな音楽が散りばめられておりますので、これを観ていただけたら2026年、良い1年を過ごせそうな作品であると自負しております。皆様にそう思っていただけるように、精一杯努めたいと思います。

≪見どころについて≫
全てが見どころと言いたいところですが、私個人としては今回初共演の谷山さんがすごく独特なキャラクターをお持ちで、この作品の中でも個性的です。本来、谷山さんが演じるケルビーノ役は女性の方が少年役としてお小姓を演じる役ですが、今まで私が見てきたミュージカル俳優さんたちには絶対出せないキャラクターと歌声と個性をお持ちです。
ケルビーノが歌う曲は『フィガロの結婚』の中でもすごく有名な曲で、私の中では今回の共演者の中でピカイチ強い印象なので、お客さまの反応が楽しみです。

舞台写真

カメラ/山副圭吾(C)2026.楽劇『フィガロ』

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