黒木華・勝地涼・鈴木浩介 出演「NORA」上演決定

2026.03.19

撮影:阿久津知宏

近代劇の“古典”が今を生きる我々の物語に。
ヨーロッパ各国の演劇フェスティバルで活躍する演出家のティモフェイ・クリャービンが手掛ける『人形の家』。
そのキーアイテムは……「スマホ」?

タイトルの『NORA』は傑作古典と名高い『人形の家』(原題:The Doll House 作:ヘンリック・イプセン)の主人公「ノラ」の名前に由来しています。1879年ノルウェーで生まれたイプセンの『人形の家』は「父権的な家庭からの脱却」や「女性の自立」を描いた先駆的な作品で、現代のトロフィーワイフ的な扱いを受けるノラがあることをきっかけに夫・ヘルメルの元から離れていく物語だ。(注…トロフィーワイフ/Trophy wife:社会的、経済的に成功した男性が自らのステータスを誇示するために結婚した若く容姿端麗な女性を指す)

19世紀末の初演から今日まで世界各国で上演されている『人形の家』を大胆に現代風にアレンジした演出で魅せるのはヨーロッパで最も注目を集める演出家のティモフェイ・クリャービン。抒情的でありながら、人間の深奥にぐさりと切りこむシャープな演出は世界中の演劇ファンを虜にしており、彼が演出した『三人姉妹』(作:アントン・チェーホフ)は全編が手話で演じられ、上演されるやいなや注目を集め、ロシアで最も権威ある演劇賞を受賞し、ヨーロッパ各国の芸術祭で大きな話題となった。東京芸術劇場は2019年に『三人姉妹』を東京芸術祭にてプレイハウスで上演し、そのストイックな演出は見る側に大きな衝撃と感動を与えた。

この度、すでに各国で大評判である彼の代表作『NORA』を日本人の俳優と共に上演することが決定した。“古典”と呼ばれるこの会話劇をクリャービンは大胆にメッセンジャーやフェイスタイムというSNSでテキストを送り合う“今ならでは”のコミュニケーションで表現することが決まった。セリフの8割は物語の登場人物たちが手元のスマートフォンを用いてやりとりされる。登場人物らが打つスマホの画面はリアルタイムで舞台上にあるスクリーンに映し出される。
私たちのスマホに届くメッセージはどういう状況で相手から送られてきたのか。普段は決して見ることが出来ない「相手側の生活」を垣間見た時に、『人形の家』=『NORA』は今を生きる我々の物語だと思うかもしれない。

主人公・ノラ役には黒木華、さらに名実兼ね揃えた豪華キャストが作り上げる日本版『NORA』

タイトルロールであり主人公のノラを演じるのはドラマ・舞台・映画とジャンルを問わず活躍する黒木華。2014年に、映画『小さいおうち』で第64回ベルリン国際映画祭・最優秀女優賞(銀熊賞)を日本人歴代最年少(当時23歳)で受賞。NHK大河ドラマ『光る君へ』(2024)において宮中という男性中心社会で強くしなやかに生きた源倫子を演じた彼女が演じる新たなノラ(NORA)にご期待が高まる!

さらに、ノラの人生を翻弄するキャラクターは人気も実力も兼ね揃えた役者の出演が決まった。銀行の頭取にまで上り詰めるも妻をお人形扱いする残念な夫ヘルメルを演じる勝地涼、みじめな境遇から抜け出すために足掻くもうまくいかないノラの友人クリスティーンを瀧内公美、さらに、とある秘密を武器にネチネチと執拗にノラを追い詰めるクログスタを鈴木浩介が演じる。

2026年度より岡田利規を芸術監督(舞台芸術部門)に迎える東京芸術劇場が2026年度にお届けする古典作品『NORA』に期待したい。

上演決定に伴い、スタッフ&出演者からコメントが届いた。

コメント

岡田利規(芸術監督)

現在わたしたちの内面・心・魂をなにより映し出しているのは、なんといってもわたしたち自身のスマートフォンの画面。ですから、近代劇の古典中の古典、イプセンの『人形の家』を現代化するために、登場人物たちのスマートフォンを窃視し、画面上のやりとりを見せるという手法を駆使して物語を示していくティモフェイ・クリャービン氏の演出アイデアは、鮮やかであるばかりか、このうえなく真っ当です。古典を、現代を生きる私たちのためのものとして用いる。その最良の例のひとつとなるだろう『NORA』が、みなさまを挑発します。

Roman DOLZHANSKIY/ロマン・ドルジャンスキー(ドラマターグ)

演劇の基盤は、俳優が戯曲中のせりふをイントネーションや声のボリューム、表情を変えながら交互にやりとりすることだが、今では急激に古めかしいものになってきている。その答えは簡単で世界が変わっている、もとい、人々がコミュニケーションを取る方法がものすごいスピードで変化しているからである。この15年の間にWhatsApp, Instagram, Viber, TikTok、その他様々なメッセージをやりとりするSNSが表れ、そして発展したことが根本的に関連している。コミュニケーションは今では多くのレベルで、しかも全く違うフォーマットで行うことが出来る。
恐らくこのコミュニケーションツールの発展は個々の国で、それぞれのやり方で広がっていることだけれども、世界的な流行であることは明らかだ。SNSはただのコミュニケーションのツールではなく、世の中の雰囲気を作り上げたり、意図的に操作したり、何かを規制したり、または、政治的な立場を表したりするツールでもある。会話の手段が変わり、言語も変わり、使う言葉も変わった。
今は電話をしたり直接会ったりせずに、完全にテキスト上でのやりとりばかりをしている。楽で、双方向のコミュニケーションじゃなく、それゆえに安心だと思うからだ。テキストでのやりとりは日々の生活から切り離せない。
劇場文化は否応なく人生とは切り離せない。だが今日、往々にして劇場が「どんな物語」を上演しているかはさほど重要ではない。最も重要なことは「どんな風」に語られているか、私たちはヘンリック・イプセンによって150年前に書かれたストーリー(『人形の家』)を現代ならではのコミュニケーション言語で上演することを決めた。ヴァーチャルリアリティー(仮想現実)上で繰り広げられる生活は実際の生活と裏表一体で、大抵は完全に一致しなければ、全く相反することもない。最も正確に描かれた「その人の人物画」はスマートフォンの画面に現れる。

【原文】
The theatrical matrix in which actors take turns delivering the lines of a play with different intonations, at different volumes, and with different expressions is increasingly beginning to seem archaic today. Simply because the world is changing – and the ways people communicate are changing very fast. Over the past fifteen years, these changes have been primarily connected with the emergence and development of social networks, WhatsApp, Instagram, Viber, TikTok, various messengers, and so on. Communication is now possible on many levels and in completely different forms.
Perhaps this process unfolds differently in different countries, but the global trend is obvious. Social networks have become not only a means of communication, but also organizers, instruments of manipulation, regulators of public mood, and political platforms. Speech is changing, language is changing, vocabulary is changing. Today, we truly text more often than we call or meet in person – it is easier this way, there is no direct contact, and therefore it feels safer.
This has become an integral part of everyday life.
Theatre cannot help but respond to life. In general, today in theatre it is not so important what story is being told. What matters most is how it is told. We decided to tell a story written by Henrik Ibsen a century and a half ago in the language of contemporary communication – when life unfolding in virtual reality overlaps with real life and most often does not coincide with it or even contradicts it. And when the most accurate portrait of a person turns out to be the screen of their smartphone.

ティモフェイ・クリャービン(演出)

画面を通じてのオーディションから本物の俳優さんに実際にお目にかかることができて、とてもとても嬉しいです。
皆さんとは画面越しにお互いにコミュニケーションをしていたんですが、この作品の『NORA』の登場人物も同じで、最初は画面越しにコミュニケーションをとるんですけども最後は直接の会話になっていきます。
素晴らしい演劇作品を作ることができるのではないかと今から心待ちにしています。
(今までヨーロッパ二か国で上演していますが)皆さん興味深く受け止めてくださいました。演劇方法としては(スマホを使うのは)稀有な表現方法だと思います。
ステージ上ではいろいろな場面が展開されつつも、お客様は彼らが何を伝えたいか文字を読まなければいけなくなります。
キャストの皆さんは演じるだけでなく(スマホを入力しなければいけないので)新しい挑戦をしていただくことになります。
世界初演したのは6年前になりますが6年経った今、携帯がどんどん生活の中で大きくなっていて、私たちはデジタル世界にのめり込んでいます。私自身の携帯にもアプリが増えましたが生活がよりデジタル化しているので、初演よりさらに興味深く観ていただけるのではないかと思います。

2年前に日本でワークショップを10日間行い、たくさんの日本人の俳優さんとお会いしました。アーティストは国が違うから変わるということはなく、演劇人はひとつの民族として括れるのではないかと思っています。演劇人に国境はなく、演劇が好きで演劇に打ち込む人は共通してクレイジーです(笑)。
私は自分の直感に忠実な演出家で、その直感に今まで裏切られたことがありません。
自分が演出する作品の登場人物を選ぶときは、合理的、理知的判断ではなく、この俳優とお互いに理解し合えるか、そして一緒に面白い仕事ができるかということを直感で選びます。
外見や演劇の経験などではなく、それは心で感じるものです。
稽古は仕事ではなく私にとって人生の一部です。約7週間同じ俳優と共に過ごすことになるので俳優の方々も稽古を通して私の人生の一部になります。
だからこそ皆さん良い人であってほしい(笑)。
オンラインのオーディションを通して今回のキャストの皆さんとは面白い作品を作れると感じました。

黒木華(ノラ役)

こうしてやっとティモフェイさんと実際に会えたことが嬉しいですし、共演の方たちとこれからどんな旅路になるのかすごく楽しみにしています。
『人形の家』という有名な作品を現代の人が観るときに、一番とっつきやすいというか、切っては切れない存在になっているスマホを使う演出は面白いなと思いました。スマホはそれぞれの人生や生活が詰まっているもので、プライベートなものでありながら、他者との生活にも密接にかかわるものなので、それが演劇の中で現れた時にどう見えるのか、自分で演じていて発見することもあると思うので、すごく楽しみです。
画面越しにでも(ティモフェイさんに)やりたいなという気持ちが伝わったんだなと思うと嬉しいです。思いが通じましたね。リモートでお話した時よりもっと面白いと思ってもらえるように頑張ります。私はフリック入力ができなくて、打ち方は問わないと聞いたので、(瀧内)公美ちゃんに今日こういうことがあったよというのをこのあと早打ちで送ろうかなと思っています。
本当に面白い作品になると感じているので、ティモフェイさんとここにいる共演者たち、ここにいない方たちとも一緒にどんなものができるのかすごくワクワクしています。ぜひ劇場に観に来てほしいです。
(3月14日の誕生日を前に抱負を一言)30歳を超えてからちょっと体力が心配なので、健康に気をつけて頑張ります。

勝地涼(ヘルメル役)

イプセンの『人形の家』は、ずっと一緒に家族として過ごしていてもお互いのことが分からず、思いを伝えてもどんどん心が離れていってしまうという物語です。それを現代に置き換えた時に、スマホがあることでいつでも連絡が取れたり、遠くにいても顔が見えたりするにも関わらず、結局は思いが伝わっていなかったりする部分がある。スマホがすごく身近で便利なものになっていますが、本当に大切なものはやっぱり違うところにあって、相手を思いやるって何なのかということをすごく考えました。フリック入力はできないのですが、ガラケーに関してはノールックで打てるくらい配置も覚えているので、フリックじゃなければ早く押せる自信があります(笑)。
(鈴木)浩介さんとはドラマでも舞台でも共演していて、瀧内(公美)さんとは以前夫婦役をやらせてもらいました。黒木さんと作品でご一緒するのは初めてですが、意外とみなさんとつながりがありますね。昨年末ぐらいにリモートでティモフェイさんとお会いする機会があり、そこでセリフを言ったり、お話をしたりして。お芝居の話というよりは、どちらかというと結構他愛もない話をしたので、どうして受かったのか手ごたえがなくて。今日お会いするまで不安もあったんですが、先ほどこの作品についてのお話を聞いてものすごくワクワクしましたし、自分の役を自分たちで作っていくという感じの舞台になると思うので、今からすごく楽しみです。

鈴木浩介(クログスタ役)

スマートフォンで文字を打ち込んで皆さんに見ていただくという演出を聞いて、一瞬台詞を覚えなくていいのかなと思ったのですが、実際にリアルタイムでお客さんを飽きさせないようにものすごい速度で打ってくれということを今日言われまして。52歳にして急激に早打ちに挑戦して、と。今までメールはどんなに急がず入れたとしても、打ち間違いが増えてきた年齢ですので、ちゃんとセリフを伝えて、ものすごい速度で会話をしていくことに、自分自身、今、絶望しております(笑)。
ただ、演劇の基本は、思っているセリフの後ろにあるセリフ、書いてある言葉の裏にあることをどういうふうに思って伝えるかで、お客さんに楽しんでいただける肝だと思っております。スマホを使ってそれを演出で表現できるという発想が素晴らしいなと思いますし、ある意味ノンバーバルで字を読めばどの国の人たちでも成立するという、世界に通用するフォーマットを作られていて、かなりすごい演出を考えついたんだなと感じました。
黒木(華)さんとは以前舞台で共演しましたが、コロナで初日を迎えることが出来なくて。今回初日を迎えたらもう何年か越しの初日になるのですごく楽しみです。よく知った顔の、そしてすごく信頼している役者さんたちとご一緒できることはもちろん、外国の演出家の方とご一緒するのが初めてなので、通訳を介しての演出がどういう経験になるのかすごくワクワクしていますし、すごくしっかりとした信念をお持ちの演出家さんなので、そこにしっかりと自分自身も精一杯ついていきたいなと思っております。

チケットに関する詳細は、決まり次第ローチケ(webサイト)内でお知らせいたします。

あらすじ

主人公・ノラは弁護士の夫・ヘルメルと仲睦まじく暮らしていた。献身的に家族と夫を支えるノラと「可愛いわが妻」と優しく妻を扱うヘルメルの間には子供もいて、誰から見ても理想的な生活を送っていた。クリスマスイブ、年明けから信託銀行の頭取として着任予定のヘルメルの元に彼の古くからの友人であるクログスタが訪れる。ヘルメルの部下になるはずだったクログスタは、実は周りからの評判が悪く、ヘルメルの頭取就任とともに解雇される運命にあった。代わりにクログスタのポジションに就くのはノラの友人で旦那を失ったクリスティーンだった。

撮影:阿久津知宏