自分がどこにいるのか、“揺らぎ”を楽しんでほしい
加藤拓也が台湾の四把椅子劇團と組んだ国際共同制作『どうも不安な様子』。現実とVRの世界が幾重にも交錯する複雑な物語構造と、日本語と台湾中国語が飛び交う舞台に、茉莉役で出演する夏帆はどう向き合っているのか、話を訊いた。
日本語と台湾中国語が飛び交う
――まずは今回の舞台『どうも不安な様子』の脚本を読んだ感想を聞かせてください
最初に脚本を読んだとき、物語の構造が全部は理解できなかったというか、現実と記憶と幻想が曖昧になっていく感じが面白いなと思いました。場面が変わるたびに、いまどこにいるのかがわからなくなるような感覚があって。物語をただ受動的に受け取るだけではなくて、見に来るお客さんも「この出来事はどういうことなんだろう」と頭の中で構築しながら、能動的に入っていける脚本だと思いました。
――今回は台湾の四把椅子劇團と国際共同制作になります。字幕で見せながら舞台上では違う言語が飛び交う舞台になりますが、どのように稽古されているのでしょうか?
2025年の11月に2週間ほどプレ稽古で台湾に行ってきました。ただ、そのときは本格的なお芝居の稽古というよりも、まずは日本語と台湾中国語でのお芝居に慣れることと、物語の骨組みをみんなで共有する時間でした。「こういう舞台ですよ」という全体像をキャストやスタッフ全員で確認した感じですね。本格的な稽古はこれからなので、どんな舞台になるのかドキドキしています。
――加藤拓也さんの作品にはこれまでも出演されていますよね
そうですね。加藤さんの脚本は、登場人物の心情や人となりが、台詞や関係性のなかからじわじわと浮き彫りになっていく感じがあります。今回もそれがとても面白いなと思っています。加藤さんはとても丁寧に本読みをされる方で、まず「この物語はこういうテーマがあります」という話をしてくださってから、読み始めます。
今回は台湾の俳優さんもいるので、本読みをしながら文化の違いについて話し合いながら、その場で脚本を直したりもしました。加藤さんの演出にはいつも驚きがあって、今回もどんな世界観を作り上げるのかとても楽しみです。
現実世界とVR世界が交錯する世界
――物語の構造が複雑ですよね
そうですよね、何を話してもネタバレになってしまいそうで(笑)。でも、脚本を読んで迷子になる感覚は、きっとお客さんも同じように体験されると思うので、その揺らぎごと楽しんでいただけたらと思います。
――AIで自分自身をつくるというお話しがでてきます。自分らしさとは何かを考えることはありますか?
「自分をどういう定義で説明できるのか」って、難しいですよね。自分だけではなくて、他者から見た自分もあると思うし。記憶だったり、いろんな要素が合わさってひとりの人間ができているわけじゃないですか。そんななかでAIで人間を作り出すことの倫理観はどこにあるのだろうかという話は本読みのときにみんなで話したりしていました。人それぞれ倫理観も違いますし、AIとの向き合い方はこれから本腰を入れて考えていかなくてはならないことだと思います。
――他の俳優さんたちとはどんなことを話しながら稽古されていますか?
台湾キャストの方とはお互いの言語を教えあったり、あとはもう「とにかく頑張ろうね」と励まし合っています(笑)。やっぱり日本語と台湾中国語という二言語でやり取りするのが大変で、私自身も経験したことがないし、みんなもそう。加藤さんのセリフで二つの言語を飛び交わせるというのが本当に難しくて、稽古のたびに緊張感があります。前回のプレ稽古は本番が控えていなかったので、台湾で舞台を制作できることにただただ浮き足だっていたのですが、いまは本番直前ということもあり、そうはいってられないなと(笑)。不安ももちろんありますが、いつもと違う環境でお芝居できることを楽しみたいと思っています。
――VRを体験したことはありますか?
台湾でみんなでVR体験をしに行きました。台湾の制作の方の知り合いがVR作品を作っていて、ヘッドセットをつけて、VRの中でいろいろな場所に行ったり、実際の役者さんがお芝居しているパフォーマンスを体験するという内容でした。
実際に体験してみると、VRの世界だとわかっていても、だんだんそれが現実に思えてきて。小さい小屋のなかに入れられたのですが、それがすごく怖くて。実際に自分がその場所にいるわけではないとわかっていても、本当に放り込まれたような感覚になるんです。変な汗が出てきて体が反応してしまう。視覚の情報だけなのに気持ちが動くということに驚きましたね。VRの中にずっといると、どちらが現実かわからなくなってしまうというのは、本当にあるかもしれないと改めて思いました。
――今回の舞台の世界観と同じような体験を、実際にされたのですね
本当にそうなんです。いままではSFの世界の話だったものが、もうすぐそこまで来ている。そう思うと、今回の脚本が描いているテーマが、遠い未来の話ではなくて、もうすでに私たちが考えなくてはいけない身近な話になっているということを、改めて感じましたね。
――最後にこれから舞台を観るみなさんへメッセージをお願いします
加藤さんが『見たことない舞台にしましょう』と仰っていたのですが、もうその言葉に尽きると思います。驚きや遊びのある舞台になりそうで、私もわくわくしています。今回はスタッフも台湾の方なので、舞台美術もぜひ楽しみにしていただきたいです。台湾から公演がスタートしますが、日本での公演も5月に始まります。ぜひ、劇場に遊びに来ていただけたら嬉しいです。
インタビュー・文/野口理恵
