た組 『綿子はもつれる』|安達祐実 インタビュー

加藤さんの作品ならではの衝撃に打ちのめされてほしいです

「ドードーが落下する」が第67回岸田國士戯曲賞を受賞した演出家・加藤拓也が率いる、劇団た組による演劇作品『綿子はもつれる』が5月17日(水)に東京・東京芸術劇場で開幕する。タイトルにもあるように、綿子をはじめとした周囲の人間関係は“もつれ”て複雑だ。ぎこちない夫婦の会話と、継母に対して心を開かない息子との関係。不倫相手にも妻がいて、綿子はどこにいても居心地が悪そうだ。さらに時間軸は夫婦のシーンは未来に向かう進行方向で、不倫相手とのシーンはインスタグラムで下にスクロールして過去の投稿を眺めるように過去に向かって進行する。もつれて複雑に絡まる人間関係はどうしたら元に戻るのか。本作で10年ぶりに演劇作品で主人公「綿子」を演じるのは俳優・安達祐実だ。


「加藤さんの作品に出演するのは3度目で、免疫がついているつもりでしたが、脚本を読んでびっくりしてしまって。加藤さんというのは、私が理解できるような人ではないのだなと改めて感じましたね。どういう人生を送ってきたらこんな本が書けるのか、思わず聞いてしまいました(笑)」

複雑な人間関係に、リアルな日常会話の応酬。『綿子はもつれる』では、本心では思っていないのに、思わず勢いで言ってしまい、気持ちがすれ違うというような、誰にでも起こりそうな生々しいやりとりが散りばめられ、胸が苦しくなる瞬間が何度も訪れる。


「綿子はどこにでもいる普通の人。だけど、自分から不安定なほうに進んでいる部分もあります。幸せになりたくて生きているけれど、噛み合わなくてうまくいかない。夫婦ですれ違うけれど、顔に出さずに取り繕いながら生きている。綿子は霧の中にいるような感じなのだろうなと思います。立場は違うけれど、そういう危うさは共感できます」

夫婦関係、親子関係がもつれてしまうのはなぜなのだろうか。


「私自身、10代の頃はまっすぐに生きていきたいと思っていて、いつだって正しくありたいと思っていました。でも、やっぱり人生はそうはいかなくて、嘘をつくときもあるし、いつの間にか自分が思っていた正しさとは違う生き方になっています。それを“ほどく”ためには、どこまで戻ればいいのかはわからない。例えば夫、妻、子、という家族の形だけ説明すればシンプルだけど、心の中はそれぞれ絡まりながら生きています」

絡まった糸はどうほどけばいいのか。そもそもほどく必要はあるのか。ラストは衝撃的で、観劇後はずっしりとした不思議な感覚に包まれるはずだ。


「一日、プールで泳いだあとのような疲労感で、全身が疲れる感じに近いと思います。演者も舞台を観ている人たちも、人の心が壊れる音が聞こえると思います。そして心が乱れる瞬間は、すごいぐちゃぐちゃになっていると思います。加藤さんの作品は、それを楽しみに来てくださる方も多いので、決して爽快ではないけれど、この衝撃を受けて打ちのめされてほしいです」

インタビュー&文/野口理恵

【プロフィール】

安達祐実
■アダチ ユミ
大ヒットドラマ『家なき子』をはじめ、子役時代から数多くのテレビドラマや映画、舞台に出演する人気俳優。