劇団アレン座10周年記念興行として上演される舞台「探偵東堂解の事件録-大正浪漫探偵譚-」。今回で3度目の上演となる本作を引っ提げ、劇団初の全国ツアーに挑む。
タイトルロールの東堂解を演じるのは、2022年に劇団に加入した竹中凌平。劇団主宰の來河侑希、劇団員の栗田学武に加え、山木透、吉田翔吾、石原知哉、行光孝綺、吉田邑樹、高田淳(X-QUEST)といった顔ぶれが揃った。
今回は初日まであと半月と迫った稽古場を取材。作・演出の鈴木茉美(劇団アレン座)のもと綿密に組み上げられていく稽古の様子とともに、劇団主宰の來河、本作主演を務める竹中へのミニインタビューをお届けする。
稽古場レポート
稽古期間は半ばを過ぎ、この日は2周目の稽古の終盤。主人公・東堂が、事件の犯人を推理すべく、寝台列車という密室空間に居合わせた面々に1人ずつ話を聞いていくというシーンの稽古が進められた。
來河が「演劇好きをキャスティングした」と語る面々は、稽古開始前、台本に目を通したり、談笑しながらストレッチをしたり。壁にはコーヒーチケット購入者からの応援メッセージが張り出されており、それを読んでパワーをもらうキャストの姿も。ほどよい緊張感が漂いつつも、居心地の良い空気感が稽古場を満たしていた。
稽古開始時間になると、作・演出の鈴木氏の「後半のシーンに時間を使いたいので、とくに前半は集中していきましょう」のひと声で、場の空気が引き締まる。
見学した数十分のシーンだけでも膨大なセリフを披露したのは、東堂役の竹中凌平。変わり者と言われる東堂のひょうひょうとした語り口と、脳内で常人には考えもつかない推理を展開しているであろう表情に目を引かれた。
最初の西木林蔵役の栗田学武との掛け合いが一通り終わると、鈴木氏が声をかける。「この時点で、東堂のなかで西木への疑いは何パーセントくらい?」「その推理を裏付けるものってなんだろう?」。鈴木氏は、役の心情を徹底的に言語化して整理していく。
こういったやりとりを、シーンが進む度に全員とかわしていく鈴木氏。それに呼応して、役者陣は自分が演じたい人物像を、より具体的な形でアウトプットし、芝居に落とし込んでいく。まだ答えが掴めない様子を見せる者や、別のアプローチを試す者も。初日ではどんな人物像が立ち上がるのか、密度の濃い稽古の様子に期待が高まる。
東堂が次々と乗客の話を聞くこの一連のシーンで、鈴木氏は東堂の意識の移り変わりといった細かな部分まで丁寧に作り上げていた。「このセリフが耳に入ってきた時点で、東堂の意識はこっちに持っていたい」といった言葉を受け、竹中がその意図を咀嚼し、即座に応じていく。ときには「手応えはまだないです」と赤裸々に明かし、稽古場に笑い声が響く場面も。こうした率直なやりとりの積み重ねから、竹中ならではの東堂像ができあがりつつあることが感じられた。
続いて、東堂の友人・北原進役の吉田翔吾ら、良家の子息を演じる面々が、それぞれ東堂の取り調べを受けていく。彼らが立ち位置に入ると、その表情には気品と、大正時代を生きる男子の風格が宿る。ここまでの稽古で、役が確かに役者の身体に馴染んできたことが感じられた。
ある殺人事件が起きた後の重要なシーンとあって、鈴木氏からそれぞれに細かな指示や質問が飛ぶ。なかでも犯人役を演じる人物には、どういうふうに嘘をつくタイプなのか、どういった気持ちで東堂の質問に答えているのか――セリフひとつひとつに対し、感情のありかを固めていくようなやりとりが続いた。こうしたディスカッションの繰り返しが、ワンシチュエーションで繰り広げられる密室殺人事件の途切れない緊張感を生み出しているのだろう。
緻密な演出と役者陣の熱量が交わることで、密室という限られた空間で繰り広げられる心理戦が、鮮やかに立ち上がっていく。初日まで半月を切った稽古場は、確かな手応えに満ちていた。
來河侑希&竹中凌平ミニインタビュー
――稽古の手応えはいかがですか?
竹中 セリフが多いのでとにかくミスをしないことを意識していたのですが、それを(鈴木)茉美さんに見抜かれまして(苦笑)。つい先日、いろいろ指摘をもらったばかりなので、それを踏まえて自分なりに挑戦しているところです。もっと無責任に演じる、というのが今の課題ですね。
來河 僕は前回はプロデューサーとして携わっていて、9年前の初演の際は西木役を演じていました。ここまで全公演を観てきたので、全体図が見えている。その分、今のところは客観的に演じられているのかなと思います。
――異なる配役・キャストでの3度目の上演となります。お二人が今回演じる東堂、青柳の見どころを教えてください。
竹中 僕の東堂は茉美さんいわく、「すごくふてぶてしい」らしくて(笑)。そんなつもりはないんですが、それが僕の東堂の見どころなのかな。
來河 自分なりの青柳という部分で、時代考証を大事にしたいなと。明治末期の人物として青柳を表現すること、また劇団初の全国ツアーということで、ハプニング性を持たせた青柳を演じられたらなと思っています。
――劇団10周年への思いをお聞かせください。
竹中 僕は所属してからは約3年ですが、彼と出会ってからは10年近く経っていて。なので、すごく感慨深いですね。事あるごとに「來河さん、よかったですね」って言っています。
來河 よく車の中で言ってるよね(笑)。
竹中 そうそう(笑)。演劇はまずは観てもらわないと始まらないので、こうして全国ツアーができるほど多くの人に観てもらえた。それが大きいなと思います。
來河 多くの方が入りやすい作品ということで、この作品を全国ツアーに選びました。はじめましてのお客さんにとっても、僕らの劇団が居心地がよくて安心できる場所だと感じてもらえたらいいなと。本作を通して寝台列車に乗ったような体験と、そして列車とともに全国をまわるような感覚を味わってもらえたらという思いがあります。“演劇+旅”のような形で、普段とは違う場所で演劇を観るという体験に挑戦していただけたら嬉しいです。
竹中 今回は40公演ちかくありますが、全公演、新鮮にお客様に届けたいと思いますので、ぜひ楽しみに、劇場に足を運んでくれたら嬉しいです。









取材・文・撮影/双海しお
