デキメン列伝 第1回 上山竜治

“デキる”のみをものさしに、今後の舞台界を担っていくであろう、注目株の若手俳優をピックアップ。彼らが「デキメン(=デキる男優)」である理由、そして、隠れた本音をロング・インタビューで探る!

【第1回】 上山竜治  RYUJI KAMIYAMA

この道を与えていただいたんだなという、そんな感覚なんです


Writer’s view

第一回目で早くも、真打ち的なデキメンの登場です。来春開幕のミュージカル「レ・ミゼラブル」の革命に燃えるリーダー、アンジョルラス役(トリプルキャスト)に決まった上山竜治さん。初めて帝国劇場の舞台を踏む彼ですが、14歳でアイドルとしてデビュー、17歳の初舞台で芝居に出会います。「レミゼ」製作発表では、70人以上のキャストの中心に立ち、「民衆の歌」などの歌唱を披露。その姿からも感じられた俳優としての華、センターたる存在感――それを培った裏には挫折と、少年時代からの秘めた思いがあったのです。

取材・文/武田吏都

 

――「レ・ミゼラブル」のアンジョルラス役は、上山さんのみ製作発表の場での発表というサプライズももちろんですが、上山さんがああした大型ミュージカルのオーディションを受けていたことにも驚きがありました。会見でも「(自分がこういう作品に出るのは)おこがましいと思っていた」と発言していましたが、ご本人が本格的な目標として定めているように私は感じていなかったので。もっと言うと、ストレートプレイ志向が強い方なのかなと思っていたのです。

上山 真正面からミュージカル志向ではないというか、そういうところは確かにあります。俗に言う、ミュージカルのいきなり歌いだす感にちょっと恥ずかしさや違和感みたいなものはありながら、それをどうやったらなくせるんだろうってことはずっと考えていました。英語だったら抑揚があって発声法も違うし、日常的に歌っているような、歌と台詞の境がない感覚で観られると思うんです。でも日本語は口を開かなくてもしゃべれるような平坦な発音で、そうして台詞をしゃべっている中で、どうやって歌につなげられるのかなあと。これまたおこがましいんですけど、日本のミュージカルって基本的にちょっとハンデのあるところから始まっているのかなとも思っていました。なので、ロンドンやブロードウェイとかラスベガスにも観に行って、違和感がある・ないの差はどこだろう?って考えたりして。だから好きなんでしょうね、ミュージカルが。好きだからこそ、じっくり突き詰めて考えなきゃと思ったんですよね。

 

――ミュージカルへの出演経験は豊富ですが、出る立場としてもそうした葛藤を抱えていた?

上山 もちろんありましたね。だから自分がどうすれば違和感なくできるんだろうっていうところは、作品に向き合うごとに毎回勝負でした。こうして境目をなくせばいいのかって思えたのが、鈴木裕美さんとの出会い。最初はストレートプレイの「宝塚BOYS」(‘13)だったんですけど、今年ミュージカル「ブラック メリーポピンズ」(’14)でも演出していただきました。裕美さんがいつもおっしゃるのは、そのキャラクターの感情が高ぶって、普通じゃない感情があふれ出る瞬間に歌いだすんだと。例えば「ふざけんな!」っていう叫びが歌になるみたいな。やっぱりそこまで気持ちを高ぶらせて、伏線や準備みたいなものがお芝居の中でしっかりと出来ていれば、つなぎ目なく違和感がないんだろうなって。あの時期に自分の中でミュージカルへの価値観に光が見えてきた感がありましたね。

「ブラック メリーポピンズ」(’14)

 ――「レミゼ」のオーディションでも新たな気づきがあったのだとか。

上山 やっぱりミュージカルの歌ってちゃんとしっかり歌わなきゃいけないってイメージがあって、そこで自分の気持ちとの葛藤がすごくあったりしたんです。でも「レミゼ」のオーディションで演出家の方に見ていただいたとき、「そんなに歌わなくていい。もっとお芝居でやってくれ」というようなことを言われて、とにかくお芝居を重視してくれて。それまで僕はやっぱりメロディとかピッチとかをすごく気にしていたんですけど、そこも気にしなくていいと言ってくれて、そうすると逆にそれらが安定してきたりもして。「あ、こういうやり方でいいんだ」って気づいたし、いっぱい引き出してもらって、こういう演出家と一緒にやりたいって思ったのが、「レミゼ」に出たいと思った最初のきっかけでしたね。

 

――オーディションに応募した段階ではなかったんですね(笑)。

上山 応募の段階では、「絶対やりたい!」ってよりは、自分がどこまで通用するのか、どこまで挑戦できるかっていうのが一番でした。

――東宝の大型ミュージカルのオーディションを受けたのは今回が初めて?

上山 6、7年前に1回だけ。そのときは「歌は関係なくお芝居で攻めてやろう、俺はお芝居しかできないし」っていうような感覚だったんですけど、もう全然ダメでした。

 

――それから結構な年月を経た後に、今回自ら応募するという行動に至った一番の理由はなんだったのでしょう?

上山 やっぱり“挑戦”っていうのが一番大きいんですけど。ただきっかけとしては……ものすごく根本から話すと、アイドルだった17歳の自分を拾ってくれて、俳優へのレールを敷いてくれたのが宮本亜門さんなんですね。

 

――スティーブン・ソンドハイム作詞・作曲×宮本亜門演出のミュージカル「INTO THE WOODS」(’04)のジャック役が上山さんの初舞台。4人組アイドルグループ「RUN&GUN」の一員だった上山さんが、オーディションで亜門さんに選ばれて出演されたんですよね。

上山 あの作品は人前でお芝居をする、舞台の楽しさを教えてくれたんですが、同時に僕にとって、歌へのトラウマみたいなものを感じてしまった作品でもあるんですよね。まあソンドハイムに17歳で向き合って、「なんだ、これは!」と(笑)。ワケわからないままに終わってしまい、俺はもう歌をやっちゃいけないんだって17歳のときに思ったんです。

「INTO THE WOODS」(‘04)
撮影/谷古宇正彦  写真提供/新国立劇場

――その「INTO THE WOODS」を拝見してますが、そんな風におっしゃるような出来ではなかったですよ? 17歳の上山さんの名誉のために付け加えます(笑)。

上山 そうですかねえ。……あるとき、亜門さんが僕に一切ダメ出しをしなくなったんですよ。同じオーディションで選ばれた同じ年の神田沙也加さんが僕とペアみたいな役で出てて、彼女とか他のキャストのことはすごく褒めるんですけど。でも僕には何も言わずに伸ばしていく方法を採ったって、後から亜門さんはドキュメンタリー番組の中でおっしゃってて、だから愛情ではあったんですけど、17歳の僕としてはすごくショックで。僕はもう歌やミュージカルはやっちゃいけないと思ったりしながらも、亜門さんに「もう1回一緒にやろう」って言わしてやろうみたいな気持ちで、10年間ずっと頑張ってきたところがあります。それが、10年後に「メリリー・ウィー・ロール・アロング」(‘13)という同じくソンドハイムのミュージカルで呼んでもらったのが結構大きかったかもしれないですね。それもオーディションでした。挨拶のときも「『INTO THE WOODS』でお世話になりました」とか言わずに、はじめまして、ぐらいの感じで「カミヤマリュウジです。よろしくお願いします」から始めましたね。

 

――そして出演した「メリリー~」では亜門さんと何か印象的なエピソードはありましたか?

上山 「10年間、ほんとに大変な思いをして頑張ってきたんだね」って。そして、「もう1回必ずやろうね」って言っていただいたのが本当に大きかったです。泣きながら帰りましたもん。それらのことがあってトラウマみたいなものを克服できたんですね、きっと。今言ったようなことで、「宮本亜門、くそくらえ!」みたいな気持ちを(笑)エネルギーにしてきたような10年間なんですけど、同時に、芝居未経験だった僕に俳優へのレールを敷いてくれた亜門さんへの感謝はずっと常にありましたね。

 

――つまり「レミゼ」は、17歳以来の傷のようなものが癒えて新たな自信となった上での挑戦ということになりますね。役についてですが、最初からアンジョルラス志望でオーディションを受けた?

上山 そうです。その場で「マリウスの曲も歌ってみて」っていうのはありましたが、僕としてはアンジョルラス以外考えていなかったですね。22、3歳のときにロンドンで観てからずっと憧れの役ではあったので。「ABCカフェ」という曲の中の ♪ラマルクの死~ というアンジョルラスが歌うフレーズがあるんですが、あそこが作品全体としてもストーリーががらっと変わる、大きな渦巻きがぶわっと広がっていくような瞬間なんですよ。そこを司る大事な役どころという点に惹かれました。

上山アンジョルラス衣装写真、初公開!

写真提供/東宝演劇部

――キャラクターという点ではどうですか? 私は上山さんの生来のリーダー気質や、時にクレイジーなまでの(笑)爆発力がアンジョルラスにぴったりだなと感じているのですが。

上山 周りからはそのリーダー気質とか、革命家っぽいよね、みたいなことは(笑)すごく言っていただきますね。やっぱり小さい頃から責任みたいなものを背負わせてもらってきたっていうのが大きいと思います。育った環境が母子家庭で僕しか男がいなかったから、家庭にいても自分が父親っていうか、引っ張っていかなきゃならないような部分はすごくあったんで。そしてRUN&GUNとしても14歳ぐらいから、最年少だったんですけどリーダーをやっていて、自分の中で重荷になるぐらい、責任みたいなものをムダに背負ってここまで来ました(笑)。キャラクターを掘り下げるのはまだまだこれからですが、今のところはヒーローにならず、人間くさいアンジョルラスでいたいなと思っていますね。

 

――「レ・ミゼラブル」は、上山さんにとってどんな思いのある作品ですか?

上山 5、6年前にロンドンで観たんですけど、向こうでは最前列は3000~4000円ぐらいで安く観られるんですよね。それで一番前で観たら、すーごく感動して。作品の内容が素晴らしかったことはもとより、芝居も自然でしたし、歌も“歌い上げる”のではなく、芝居の一部となっていた。俳優がその役として、まさにそこに存在している、ということを感じられたことが一番の感動でした。最初に言ったようないろんな違和感がなく、魔法にかけられたような感覚に陥って。ここを目指せばいいんだなって思いました。

――目標を“ミュージカル”というジャンルに定めたということ?

上山 いいえ。ミュージカルをやるならああいったものを目指さなきゃいけないっていう指針ができたということです。僕は正直言ってブロードウェイより、断然ロンドン・ミュージカルが好きなんですけど、ロンドンでミュージカルを観ると、ストレートプレイを観た感覚になるんですよね。第一前提として自分は芝居の人間だと思っているし、芝居をずっと極めていきたいと思っています。その延長上にミュージカルがあるだけで、ミュージカルとストレートプレイを別物とはしていないですね。

 

――先日の製作発表で、カンパニー全員の中心に立っての歌唱披露(「ABCカフェ」~「民衆の歌」)がありました。あの場で新キャストとして発表されていきなり先頭に立って歌うという経験はいかがでしたか?

上山 ものすごく緊張しました。でもああいう場を与えていただいてほんとに有難かったです。個人練習はもちろんしていたんですが、全員と合わせるのは1回だけでした。でも周りのキャストの方たちは、「なんかわかんないことあったら聞いてねー」って感じですごく優しくて。歌い終わって、自分が今できることは全部やれたかなと思いました。いいところも悪いところも全て出せたというか。いや、全て出せたから、いいところも悪いところもはっきりしたという方が正しいかも。もちろん今すぐ本番の舞台に立てるような状態ではないですし、真摯に謙虚に、特に歌をコツコツしっかりとやっていかなきゃなと思っています。

 

 

製作発表(11月17日)歌唱披露動画 「ABCカフェ」~「民衆の歌」

 

――大役をつかみながら、まるで浮き足立っていない印象なのですが。

上山 はい、全然です。僕自身は受かってからも平常心で、思っていた以上に周り、特に母親が一番喜んでくれました(笑)。それで、「あ、ほんとにすごいことなんだなあ」というような感じで。「よっしゃー!」っていうよりは、この道に選ばれたというか、この道を与えていただいたんだなという、そんな感覚なんです。

 

――今年は上山さんにとって激動の年でした。RUN&GUN卒業に伴う事務所移籍、同じタイミングで改名(竜司→竜治)、そしてアンジョルラス役の獲得。特に14歳から所属していたグループからの卒業は非常に大きな出来事だったと思います。

上山 「INTO THE WOODS」で最初にお芝居に出会ってから、僕の中でアイドルコンプレックスが大きくなって、役者1本でやりたいという気持ちが強くなってきて。他のメンバーにもリーダー権限という感じで、「個人個人が役者をベースにやっていこう。それしか道はない!」と言い続けていましたね。それぞれが土台のようなものを作らずにただ人気を追い続けていては、その時々の環境の変化に、ただただ翻弄されるだけになるから。取り巻く環境がいろいろ変わっていった中で、自分が信じられるものはなんだろうって思ったとき、僕にとってそれは“芝居”で役者になることだったし、グループとしても役者グループにしていくことがベストだって思いました。

 

――8月末の上山さんの卒業イベント「4人組」でメンバーの宮下(雄也)さんが「(グループに)おっても続けられるやろと思った」と言ってましたよね。同じ気持ちのファンも多かったのではないかと思うのですが、やはり“アイドル”やグループの一員でなくなることは、上山さんにとって重要なことだった?

上山 そうですね、うん。やっぱり僕は、2つのものは得られないと思っているので。
メンバーへの気持ちや愛情は、今でも何も変わらないです。家族みたいな存在だし、本当に感謝してるし。だからこそ、RUN&GUNとしてあそこにいたときには出来ないことを、やっぱり今の俺はやっていかないといけないと思っています。大きなステージで、メンバーといつか共演したいですね。

 

――激動の年の締めくくりとして、現所属事務所キューブの若手男優たちによるライブイベント「PRINCE LIVE~2014 Xmas~」出演が控えています。上山さんが舞台に立つのは8月の「ミリオンダラー・ヒストリー」以来なので、ファンもお待ちかねですね。

上山 完全に狙ってるっていうか、ちょっとふざけたタイトルですけど(笑)、客席のプリンセスたちを楽しませるために僕らプリンスたちが舞い踊ります!(笑) けしてナルシスト的なことじゃなくて、プリンセスたちのためにプリンスになるべく頑張ります、という意味合い。魅力や得意なこともみんなバラバラだから、毎日の稽古が刺激的です。僕は一番後輩ですが、年齢的には一番先輩なので、いい具合に若手の枠をはみ出してお客さんに楽しんでもらいたいですね。実はいち早く、「レミゼ」の曲も少し歌う予定です!

 

  デキメン‘s view

Q.「イケメン」というフレーズに感じることは?
今ドラマでいろんな方と共演させていただいているんですけど、例えば向井理くんとか、顔が小さくて背が高くてほんとカッコよくて、僕からすると別次元の人みたいな感じですね。

Q.「デキメン」が思う「デキメン」
山田孝之くん。フットワーク軽くいろんなお仕事をしていて唯一無二。ああいう存在になりたい。

Q.あなたが考える「いい俳優」とは?
僕的な解釈ですが、“俳優”という字は「非人間であって優れている」と書きます。いい俳優とは……光と陰の両方を兼ね備えて、その両方をコントロールし、さらにそれを自由に表現できる人ですかね。自分はまだまだ勉強中です。

 

  マネージャーから見た「上山竜治」

アイドルとして14歳でデビューし、この芸能界で幾多の哀歓を経験してきた上山ですが、大きな決意のもと、いま新たな一歩を”俳優”として踏み出すために1からのスタートを切りました。殺陣、乗馬、ダンス、歌ほか様々な技術やライセンスを取得したりと、役者にまつわる物事に対して何事にも一生懸命取り組み、努力することを怠らない熱心な俳優です。
小器用な俳優ではなく、一つ一つの役を掘り下げて作り込み、納得できるところまで役と自分との擦り合わせをしていく、“役を生きる”役者になってほしい。彼はそれができる数少ない俳優だと、私は思っております。

(株式会社キューブ 担当マネージャー)

 


Profile
上山竜治 かみやま・りゅうじ
1986年9月10日生まれ、東京都出身。O型。2000年よりダンスユニット、D.A.N.Kで活動し、2001年に4人組ユニット、RUN&GUNを結成(`14年に卒業)。03年、主演映画「ROUTE58」より俳優活動を開始し、04年、ミュージカル「INTO THE WOODS」で初舞台。幅広いスキルを生かしてストレートプレイ、ミュージカル問わず、舞台を中心に活躍中。現在、ドラマ「信長協奏曲」(CX)に竹中重矩役で出演中
【代表作】舞台 「ブラック メリーポピンズ」(’14年)、「冒険者たち〜The Gamba 9〜」主演(`13)、「L’OPERA ROCK MOZART」(’13年)、「エア・ギア vs.BACCHUS Super Range Remix」主演(`07年)
ドラマ 「押忍!!ふんどし部!」シーズン1・2(tvk) アニメ 「新テニスの王子様」(TX) ほか
【HP】http://www.cubeinc.co.jp/
【ブログ】「竜眼」http://profile.ameba.jp/ryuji-kamiyama/