ゲイ夫婦の家へ元恋人の母親が突然あらわれる。
三ツ矢雄二主宰によるLGBTをテーマにしたシアターが始動!
――今回、“LGBT THEATER”を立ち上げたきっかけを教えてください。
三ツ矢「僕は別にカミングアウトしたつもりはなかったんだけど、たまたまテレビで〈どっちかと言うとゲイです〉って答えたら、それがカミングアウトになっちゃって」
原田「どっちかといえば(笑)」
三ツ矢「ええ。そこからLGBTの団体の方たちから講演の話を頂いたり、エイズに関するイベントへのお誘いを頂いたりして、そういうボランティアで一生懸命活動されている方たちを見て、僕が何をできるかといったらお芝居だけなので、年に一本でもいいからLGBTをテーマにした制作をやってみようと」
――劇団というわけではなくて、三ツ矢さんがプロデュースするお芝居を上演していくグループということでしょうか?
三ツ矢「そうですね。劇団員を固定せず、テーマや演目によって毎回、メンバーを集めてやっていこうと思っています。日本ではゲイが出てくる作品というと、道化師やオネエ的なものが多いですけど、深刻に考えている人もたくさんいます。例えば、家でオネエの言動でゲラゲラ笑っているお母さんが、自分の息子がカミングアウトしたらどんな反応を起こすんだろうとか……。アメリカにはそういう問題に向き合った作品もたくさんあるので、それを掘り起こして、ちゃんとLGBTについて考えようと思ってはじめました」
――第一回公演に選ばれたのは、『蜘蛛女のキス』や『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(共にミュージカル版)の脚本家であるテレンス・マクナリーによる『MOTHERS AND SONS』です。ブロードウェイに見に行かれたとか?
三ツ矢「ストーリーは、子どもがいる男同士の夫婦が幸せに暮らしているところに、かつての恋人のお母さんが訪ねてくるところからはじまります。元恋人はエイズで亡くなって何年も経っているのに、お母さんはなぜ来たのか? が物語が進むうちに解き明かされていくんですけど、終わったあとの余韻が凄くてカーテンコールでホロッと泣いてしまいました。物語の途中で泣くんじゃなくて、カーテンコールで泣いたんですね。それくらいラストシーンの余韻が凄かった。
お母さん役の女優さんが素晴らしくて。日本人でこれをやれるのは原田美枝子さんしかいないと美枝子さんにお願いしました」
原田「日本では、私くらいの年齢になると、優しいお母さんか、家族を見守るおばあちゃんみたいな役ばかりになるんですけど、生きているとそれだけじゃないと常に思うわけですね。いろんな女の人がいて、いろいろな考えがあるのだけど、なかなかそういう気持ちを演じられる役がないんです。そんなときに読ませていただいた、『MOTHERS AND SONS』の台本は、いろいろな切り口があってとても面白くて、やらせていただきたいなと思いました」
――母親を通して、LGBTだけじゃなく、家族や社会の在り方も考えさせられるのがとても素晴らしいと思いました。
三ツ矢「ニューヨークに行ってゲイをオープンにして、あげくエイズで死んでしまった息子。お母さんとしてはその状況が受け入れられない。元恋人にカチンと来たり、疑問に思ったり。お芝居を通して、人間関係には血の繋がりがなくてもいい関係があるんだってことが見えてくればいいなと。人はひとりだからこそ、誰かを愛そうと思うし、優しくできることが伝えられればと思っています」
――LGBTについては、ようやく日本でも認知が広がってきましたが、まだまだ誤解も多いです。
原田「私にとってLGBTの世界は未知の世界なので、三ツ矢さんにいろいろ質問して、勉強させて貰っています」
三ツ矢「LGBTの孤独や、エイズについてはお話させていただきました。ただ、ゲイの気持ちはいろんなゲイの人たちを知っているから僕も気持ちはわかるんですけど、ゲイの子どもを持ったお母さんの気持ちはわからない。そこは原田さんと稽古をしていくなかで、どんな母親像になっていくのかは楽しみにしているところです」
原田「人間とか生き物の楽観性って、親たちができなかったことを子どもの世代で軽々と超えていくことがいちばんの希望だと思うんですよね。〈こんな大変な時代なのに、生まれてきたのね〉って。この物語にもバドって子ども(Wキャスト)が出てきますけど、そこに私は希望があると思います」
――同性婚をしているふたりには、大塚明夫と小野健斗が扮する。キャスティングの絶妙さも話題になっています。
三ツ矢「アメリカでは同性婚は当たり前で、子どもがいるのもおかしなことじゃありません。普通の夫婦と変わらない日常を送っていることをまず日本のお客さまにわかっていただきたいなと思っています。しかもふたりには子どももいる。異性のカップルと変わらない結婚生活、夫婦生活を営んでいるんです。大塚さんと小野くんは、それを違和感なく演じられる方ということでキャスティングしました。同性カップルっていろんな趣味の方がいて、アメリカの出会い系の広告だと、ものすごく細かいタイプについて書いてある。例えば、マッチョが好きとか、スモーキングする人はNGだとか。主人公の同性カップルは、ひと目で恋に落ちた設定なので、きっと自分とは真逆の部分に惹かれたんだろうなと。そういう組み合わせでキャスティングしました」
原田「違うタイプなのはそういう理由なんですね」
三ツ矢「片方は、恰幅がよくて包容力がある人がいいなと思ったので、古い付き合いの大塚明夫さんに電話して「やりますか?」って聞いたら、「やります」って即答だったのでお願いして(笑)。もうひとりは若くて身長が釣り合う子がいいなというのと、ゲイの役ということでいろいろ言われてもへっちゃらな強さを持っている方ということで小野健斗くんにオファーしたら「やりたいです」とのことだったので。ポスター撮りのときに3人が揃ったんですけど、いい雰囲気でしたよ」
原田「背がおふたりともとても高いんですよ」
――舞台に登場するのは子役を含めて4人。ブロードウェイでは第68回のトニー賞の戯曲賞にノミネートされた作品です。長セリフが特徴ですね。
三ツ矢「アメリカ人はお喋りだから台詞も多いんですよね。大塚さんが〈セリフが多すぎてお腹が痛くなる〉っておっしゃってました(笑)」
原田「私もまだ覚えていないですけど、登場人物たちのそれぞれの思いをぶつけあえればいいものになると思います。稽古がはじまるのを楽しみにしています」
――どんな方に見てもらいたいですか?
原田「いろいろな方に見てもらいたいです。特別な世界のお話じゃなくて、登場人物の誰かには感情移入できるし、自分だったらどう考えるか? この人だったらどう思うかを感じながら見るのも面白いと思います」
三ツ矢「中年の女性が主役を張って魅せるドラマって日本は極端に少ないと思うんです。ブロードウェイにはそういうドラマがいっぱいあるし、見応えもあるので、大人な方に見に来て欲しいですね」
原田「あ、上演期間が短いので見逃さないで欲しいですね(笑)」
三ツ矢「そうそう! カレンダーに印をつけておいてください!」
インタビュー・文/高畠正人
【プロフィール】
■ミツヤ ユウジ
’54年、愛知県出身。声優・マルチクリエーター。12歳で子ども向けドラマでデビューし、声優としても『タッチ』の上杉達也役などに出演。他にもミュージカルの作詞やタレント活動など、多方面にて活躍中。
■ハラダ ミエコ
東京都出身。 ‘74年映画『恋は緑の風の中』でデビュー以降、映画、ドラマ、舞台と活躍。近年の出演作に映画『こんな夜更けにバナナかよ』 (18)、NHKドラマ『透明なゆりかご』(18)、舞台『誤解』(18)など。