『フローズン・ビーチ』製作発表会見レポート

2019.05.15

劇作家で演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の数々の名作を、才気溢れる演出家たちの手で上演するシアタークリエの新シリーズ「KERA CROSS」(製作 東宝・キューブ)がこの夏、始動します。
その第一弾を飾るのが、鈴木裕美が演出を手掛ける『フローズン・ビーチ』。出演者の鈴木杏、ブルゾンちえみ、朝倉あき、シルビア・グラブ、そして作家のケラリーノ・サンドロヴィッチ、演出の鈴木裕美が出席し、製作発表会見が開かれました。その模様をお届けします!


KERA
「このKERA CROSSは自分の旧作をいろんな演出家さんがやってくださるという企画ですが、夏には4本、誰が演出するかを発表するらしいですよ?(笑)」

登壇者「へ~!」

KERA「というわけで一本目は、古くからの、劇団「自転車キンクリート」(1982年に鈴木が飯島早苗らと結成した劇団)時代からとても信頼している鈴木裕美さん。『フローズン・ビーチ』という、岸田國士戯曲賞を初めていただいた、自分にとっても記念となる作品です。この作品は1987年から始まって2003年に終わる芝居なのですが、初演も再演も2003年を未来のこととして書いていました。それが初演から21年経ち、2003年ももうずいぶん昔の話になって。だいぶ見え方が変わると思うのですが、例えば唐(十郎)さんのお芝居の学生紛争とかを、今眺めるおもしろさもあると思うんですね。当時の時事ネタも、書いたときのような意味合いでは笑えないと思いますが、初演されたときはこういうことで笑ってたんだなってことを笑ってもらっても構いませんし。非常に無責任な立場で、観客として楽しみたいと思います(笑)。楽しみにしています」

鈴木裕美「KRAさんとは本当に長いお付き合いで、作品も何十本観たかわからないのですが、その度ごとに飲み屋で『KERAさんの本はKERAさんが演出するのが一番だよね!』ってことを申しておりまして…。そのとき飲み屋にいた人たちは今、『あいつ、どうした?』っていうふうに思っていると思います(笑)。今でも実はKERAさんの本はKERAさんが演出なさるのが一番おもしろいんじゃないかなと思っているところもあるのですが、本がおもしろいから私がやってもおもしろい!という気持ちに切り替えました。ここに集まってくださった俳優の皆さんも、いろいろな意味で絶妙な、奇妙な取り合わせになっているかと思います(笑)。一緒にKERAさんの世界に冒険に行って、この6人で見れる景色が見たいです」


――キャストの皆さんは今日までに読み合わせを重ねまして、数日前に鈴木裕美さんが役を決定しました。千津役の鈴木杏さんです。

鈴木杏「まさか自分が『フローズン・ビーチ』の世界に入る日にくるなんて思っていなかったので、すごく不思議な気持ちです。なんといっても、私はオリジナルキャストの皆さん<犬山犬子(市子役)、峯村リエ(千津役)、松永玲子(愛・萌役/二役)、今江冬子(咲恵役)>が大好きで、尊敬してやまない方たちですし、私にとってはその憧れの方々がやった“伝説的な作品”なので。すごく光栄であると同時に、大きな挑戦だなと思っています。今は、台本を読めば読むほど途方に暮れてしまって、この気持ちを一人で抱えると泣き出してしまいそうなので、早く稽古が始まってこの途方に暮れる感じを皆さんと共有したい(笑)。この『フローズン・ビーチ』でしか出会えない4人だと思うので、とことん苦しんで、とことん楽しんで、私たちに見える新しい『フローズン・ビーチ』の景色を探していきたいです」


――続いては市子役のブルゾンちえみさんです。

ブルゾン「初舞台ということで、最初にお話をいただいたときはシンプルに『うれしい!』『ワクワクする!』という気持ちが一番にきました。でも、KERAさん作で、鈴木裕美さん演出で、と知れば知るほど、生まれたての赤ちゃんに高級料理を食べさせるような…、本当にそのありがたみがわかるのか!?っていう状況で。ただ、考えても至らないところだらけなので、じゃあ逆に何も知らないという状態で100%でぶつかっていこうと、ワクワクした気持ちでしがみついてがんばっていこうと、そういう気持ちです」


――続いて、双子の愛・萌の二役を演じます朝倉あきさんです。

朝倉「私もお話を最初にいただいたときは、もともと舞台をやりたいという気持ちがすごくあったので、すごくうれしくて楽しみな気持ちでいっぱいになりました。でも具体的に内容を聞いていくと『なんだかとんでもないことになってしまった…!』と、私自身が皆さんと向き合って立ち向かっていけるのかと不安になっていきました。ですが先日、読み合わせをしたときに、自分が何をしたいか、どういうことをができるかがよくわかって。先程ブルゾンさんもおっしゃっていましたが、ただただ自分自身をぶつけて、何度も恥をかくしかない。その中に見つけられるものがたくさんあるだろうし、そうしかできないと今は思い始めて、一巡して楽しみな気持ちです。とても魅力的な作品で、自分がどこまでできるかわかりませんが、皆さんの想像を超えるものができるんじゃないかなということをなんとなく確信しておりますと同時に、私含め観てくださるお客様におもしろいと思ってもらえるように、自分の全てをかけてやっていきたいです」


――続いて、咲恵役のシルビア・グラブさんです。

シルビア「今回、皆さん初めてなんですよ。KERAさんの本も、裕美さんの演出を受けるのも、共演の皆さんとも初めて。なかなかこの年齢になってくると、全員知らない現場って少なくなっていて、私もめちゃめちゃ緊張しています(笑)。みんなの足を引っ張らないようにがんばらないとなっていう、どちらかというと焦りしかない状況。ただ、こうやっていくつになっても挑戦の場があるということはすごくうれしくて、しあわせなので。ここでみんなと一緒にがんばっていくぞ!わたしも壁にぶち当たっていきたいぜ!と思っています。これだけバラバラな職種の(笑)女優が集まることもなかなかないと思いますし、女性だけの作品も最近なかなかないので、ぜひ楽しみにしていてください!」――KERAさんは「KERA CROSS」についてどのようにお考えですか?

KERA「今までも僕の本をやりたいというお話はありました。でも知らない人に触られるのは嫌だと思い、ずっと断ってきました。だけど、信頼できる人とだったらばむしろ楽しいかもしれないなっていう年齢になったのかもしれません。何もしないっていうのはけっこう苦痛なんですけど、やるとなるとチラシのことやらなんやら全部に口出しちゃうので(笑)。なるべく傍観者でいたいです」


――『フローズン・ビーチ』は当時、どんな思いで書かれましたか?

KERA「『自転車泥棒』という昔の映画がありまして、それが散文的に始まってポエティックに終わるんですね。全編ポエティックなものとか全編散文的な作品は映画でも演劇でもあったのですが、僕はその“散文的に始まってポエティックに終わる”というものを書きたかった。そのために全三幕の第三幕だけをまだわからない未来にしたっていうのはあると思います。それ以来、そういう手法が自分のスタイルになりましたから、散文的に始まってファンタジックに終わったりするようなものを自分のスタイルとして身に着けるための一本目だった気がします」


――鈴木裕美さんは現時点で演出のプランやイメージはありますか?

鈴木裕美「私は“自分の世界に引き寄せる”よりも“その世界におじゃまする”ほうが好きなので、『これをこう演出してやるのだ!』みたいなことはあまり思っていないのですが、今KERAさんがおっしゃったように、ある種の殺し合いと、リアルとファンタジーのバランスというものが、『フローズン・ビーチ』のみならずKERAさんの本のおもしろさだといつも思っていますし、そこが好きなので、楽しんでやりたいなと思っています」


――KERAさんは今回の配役についてはどのように感じていますか?

KERA「もともと当て書きですからね。それを言われちゃあって感じかもですが(笑)。ハナから、これを犬山が、これを峯村が、って演じる前提で書いていた。彼女たちのクセも含めて、きっとこうしたらやりやすいだろうな、こうしたら意外だろうなみたいなこともあって書いてる本ですから。ただ、以前ワークショップで『フローズン・ビーチ』を使ったことがあって。そこに参加した人がそれぞれの役をやったときに、狙った言い方は当然してくれないのですが、これはこれでおもしろいなと思ったんですね。ナイロン100℃のときは、演出家としての自分が作家としての自分を抜けきれないような状態で稽古をしているのですが、それが終わってまた別のモードだと、そんなことはどうでもよくなって、犬山や峯村からはこんなトーン絶対出ないなってものが見えました。今回も、正直な話、誰がどの役をやっても成立はしちゃうと思うんですよ、きっと。でも、稽古場で何があっても僕はそこにいないし(笑)、楽しみということしかないです」


――最後に鈴木裕美さんから一言お願いします。

鈴木裕美「皆さんが非常に前向きに『やろうぜ!』っていう感じなので、稽古場でもめたりすることも含め本当に楽しみです。KERAさんは比較的、下北沢のイメージがあると思うのですが、日比谷にKERAさんっていうのもおもしろい。とにかくおもしろくなりそうなので、皆さんご期待ください。一生懸命やります!」

 

文/中川實穂