豊原功補が描く恐ろしくも艶やかな人情悲劇 明後日公演2019 芝居噺弐席目『後家安とその妹』観劇レポート

2019.05.31

俳優の豊原功補が企画・脚本・演出を手がけ、同じく俳優の小泉今日子がプロデューサーを務める明後日公演2019 芝居噺弐席目『後家安とその妹』が、東京・紀伊國屋ホールにて5/25(土)より上演中だ。本作は三遊亭圓朝の落語「鶴殺疾刃庖刀」と古今亭志ん生の落語「後家安とその妹」を原案に、落語と演劇を融合させた“芝居噺”の第2弾。(第1弾は2017年明後日プロデュースVol.2 芝居噺『名人長二』)

元御家人で武術には長けているものの、乱暴狼藉でヤクザ者のような生活を送る兄・“後家安”こと安三郎と、ひょんなことから大名に見初められ、側女になった妹・お藤。この兄妹ふたりを発端に巻き起こるドミノ倒しのような展開で、恐ろしくも艶やかな人情悲劇を描く。後家安を演じるのは、朝ドラ『まんぷく』で注目され、多数の映像作品にも出演する毎熊克哉。金にも女にもだらしなく、何かと問題を抱える彼は間違いなく“ワル”(あるいはクズ)ではあるが、妹への愛情と己への憂いを纏う視線がどこか憎めない。軽快なセリフ回し、そして緊迫の立ち回りも見事に務め、狂気的で脆い男の色気を漂わせた。その妹・お藤役を務めるのは、メンバー最年少の芋生悠。女を武器に人々を翻弄するお藤、こちらもいわば“悪女”だ。しかし、目的のためならば手段をも選ばない胆力には、「その姿こそが過酷な時代を生き延びた女性だったのだ」と観る者を納得させるものがある。お藤の端々からにじむその“説得力”は、本作で堂々たるヒロインを務める、芋生という役者そのものとも重なる。また、極悪非道な悪党兄妹を囲む者たちも実力派ぞろい。豊原のほか、森岡龍、広山詞葉、足立理、新名基浩、福島マリコ、ゴツプロ!主宰の塚原大助、モダンスイマーズの古山憲太郎と、幅広いフィールドで活躍する俳優陣の熟達された存在感にも注目だ。 本作では、冒頭と末尾に豊原の落語が披露される。

観客である私たちは、たちまち落語の“聴衆役”として物語に誘われ、作品世界に没入していく。落語は噺家の話術と聴衆の想像によって世界を広げていく芸能だが、本作ではその聴衆の想像が具現化して舞台上で展開されているようだった。

そして最後は落語らしく、しっかりと“落とす”。まるで後家安とその妹・お藤の物語を『』(かぎかっこ)でくくるかのような演出に、落語好きを公言する豊原の手腕が冴えわたるのを見た。物語と言えど、舞台上で次々と露わになる人間の潜在的な欲・人生をも狂わす慈愛はあまりにも生々しい。生々しいからこそ、この悲劇が『物語』であってよかったと、そして自分は一聴衆という第三者的立場であってよかったと、終演後に安堵の気持ちが沸いたのもまた事実である。役者陣の確かな技量と、豊原の演出手腕、そして皮肉なまでに現実的なメッセージ。これらをヒリヒリと感じさせられる舞台『後家安とその妹』を、ぜひ劇場で味わって欲しい。

 

取材・文/ローソンチケット