上白石萌音 インタビュー|こまつ座&ホリプロ公演「組曲虐殺」

数々の名作舞台を世に送り出してきた劇作家の井上ひさしの没後10年目となる2019年、「井上ひさしメモリアル」として、初期作などたくさんの作品が上演される。再々演となる彼の最後の戯曲、こまつ座&ホリプロ公演『組曲虐殺』に、上白石萌音が出演。井上芳雄、高畑淳子、山本龍二、神野三鈴ら初演からのキャストに飛び込んでいく彼女は、どのような心境なのか話を聞いた。


――2018年に『火星の二人』『ナイツ・テイル-騎士物語-』と2つの舞台に出演され、続けて今回の作品と、舞台のお仕事が続いています。舞台のお仕事はいかがですか?

上白石「私は小さいころからドラマよりも映画よりも先に舞台を観ていたので、一番好きなものが舞台。舞台俳優になりたい時期もありました。お仕事を始めたころは映像のお仕事が多かったのですが、少しずつ舞台のお仕事もさせて頂けるようになってきて…。舞台に立つたびに、私はやっぱり舞台が好きだと思いますし、舞台が原点というようにも感じています。映像と舞台、それぞれに良さがありますが、1行のセリフ、ひと言のセリフに向き合える時間はとても豊かで、幸せな時間だと思っています。2018年は1年のうち8カ月も舞台に費やすことができたので、本当に幸せでした。だから今年は舞台のお仕事は難しいかもしれないと思っていたんですが…このお話を頂いて、どうしても出たい!と思いました」


――8カ月も舞台にささげたとなると、稽古も大変だったと思います。印象に残っていることなどはありますか?

上白石「稽古のなにもかもがプラスになっています。稽古の時に『声の抑揚だけが芝居じゃない』というのをずっと言われていて。なんとなく出来ている気になって、それでOKをもらえているとそれが癖になる。本当に心が動いているか、というのをしっかりやらせていただきました。先輩方が身と心を削りながら稽古しているのを見ながら、自分の力のなさに愕然としたりもして、毎日、電車でウルフルズを爆音で聴いてテンションをあげながら、苦しんで、必死でやっていきました。でも、映像のお芝居をするときにもその稽古でのことはずっと心にあります。稽古で苦しんだ分、本番はもの本当に楽しかったですから。煮詰まるまで考えることができるのが、舞台の楽しさなんですよね」


――今回の作品『組曲虐殺』についての印象をお聞かせください。

上白石「最初は、初演の時の映像を拝見させていただきました。最初は自分が演じることになるので、石原さとみさんが演じている瀧子のことを目で追っていたんですが、でも途中から自分が演じることなんて忘れ去って、完全に物語に没頭している自分がいて。涙もボロボロと零れてきて、単純にこの作品が大好きになって翌日も観たんです。そのあとに台本を読んだんですが、噛めば噛むほど味が出てくる。それはうま味だけじゃなくて、苦みやピリッとした味やいろいろな味がって。でも、笑えるところもあって。ラストは壮絶ですが、不思議な希望の余韻のようなものもある。辛い、ヘビーだけじゃない人生模様を感じました。…そこで、そっか、私この作品に出させていただくんだ、と思ってビビりました(笑)」


――そこまで心を鷲掴みにされた理由はどういうところにあると思いますか?

上白石「井上ひさしさんの言葉の緻密さや生々しさ、シンプルな空間の中で命を燃やしていらっしゃる皆さんの姿、小曽根真さんの音楽もとっても素敵なんですよね。実は母が小曽根さんの大ファンで、私も大好きなんです。何度もコンサートに行ってるくらい。小曽根さんの伴奏のグランドピアノで、まさか歌える日が来るなんて、思ってもいませんでした。小曽根節を感じられるメロディもあって、本当に素敵でしたし。楽しいことだけじゃなく、辛いことがどんどん起こっていく中で、それでもこの世界を観ていたい。そう思える唯一無二の魅力が、この作品にはあると思います」


――井上ひさしさんの最後の戯曲を没後10年目というメモリアルなタイミングでの上演になりますね。

上白石「初演当時、少しずつ台本が稽古場に届くような大変な中で作り上げいたそうで、そうやって出来立てほやほやだったころから、10年経って今、上演するというのは、語り継ぐという意味でとても、意義のあることだと思いますし、この作品はずっとずっと残っていく作品ですから、受け継いでいくひとつの歯車になれることはとても光栄です。責任をもって井上さんの言葉を皆さんに届けないとな、と思います。この作品以外にも、いろいろな井上さんの作品を上演されるそうなので、それを観に行くのも楽しみです」


――今回の役どころは主人公の多喜二の恋人・瀧子で、初演時は石原さとみさんが演じられた役ですね。

上白石「ポスターを撮影した時に、改めて瀧子を演じるんだと実感してきました。衣装も実際に石原さんが着用されていたものを着させていただいて、受け継がなければいけないバトンのようなもの、責任感をひしひしと感じました。石原さんが本当に素敵だったのでプレッシャーしかないですが…初演の時の石原さんの年齢と、今の私の年齢が同じなんです。だから、言い訳もできません。私にできる瀧子を頑張らなければ、と改めて背筋が伸びました。100人がやれば100通りの瀧子があるとは思うんですけど…。稽古場に行くまでは、あまり自分の中で固めずにいるほうが良いのかな、と思っています」


――瀧子はどんな女性だと思いますか?

上白石「瀧子は、強いなぁと思いますね。石原さんが演じられていた瀧子は、悲しみや苦しみを笑顔でかき消していって、前に進んでいて。その儚さに、とても胸を打たれました。辛い時も、ずっと笑っていらしたんですよね。今の瀧子はとても若くて、多喜二に子どもに観られることが嫌で…。私も子どもに見られがちなので、そこは共感できるかな(笑)。でもいろいろなことを乗り越えた先に、とても凛とした大人になっていくんだろうな、とその未来に想いを馳せることのできる瀧子像でした。何とか私も、幕が下りたその先まで想像を巡らせてもらえるような瀧子を演じたいと思います。きっとどんどん瀧子が私を侵食する期間になるんだろうな」


――割と役に影響されるタイプですか?

上白石「けっこうされますね。自分では、されないつもりで居るんですけど、傍から見ていると違うみたいです」


――瀧子が慕う、多喜二の魅力はどのようなところでしょうか。

上白石「私はとっても流されやすくて、『違うんじゃない?』って言われたら、そうですよね、じゃあやめます!、ってすぐ意見を変えちゃう(笑)。でもお仕事をしていく中で、自分の信念を持っている方はなんてカッコいいんだろうと思います。多喜二は頑固なようで、何を言われても揺るがない人ではないんです。でも譲れないものはあって、まさに命を懸けて守り通す。そういう大切なものを、私も見つけたいですね。軸のある人になりたい、とこの作品を観て感じました」


――軸のある人は本当に強いですよね。20代になって、理想の自分やなりたい自分も見えてきたのでは?

上白石「21歳になったんですが、今年の目標は“言いたいことを言う”なんです(笑)。それは、影響されて決めたかもしれません。私、本当に主張ができなくて、ほぼ飲み込んじゃう。今、言いたいことは…『実はネガティブ』だということですね(笑)。ポジティブに見られがちで、私もそう生きようとしているんですが、その時点でネガティブなんじゃないかと最近は思っていて。すごく心配性で、どうしようどうしよう、とずっと考えているから、人前に出たときにポジティブに振れることができる。でも今後は、あっけらかんとしているね、って言われても、本当はネガティブだと言いたいです!」


――多喜二は初演からのキャスト、井上芳雄さんが演じられます。昨年、井上さんの魅力はどのようなところでしょうか?

上白石「芳雄さんのすごさは、もう皆さんがご存知ですよね(笑)。歌もお芝居ももちろんものすごいですし、それは前提としてあるんですけど。私が心を打たれたのは、ご一緒させていただいたミュージカルの稽古場の隅で、台本を読んでいた時に芳雄さんが寄ってきてくださって。『萌音ちゃん、お芝居ってどうやってやるのかな? 台本ってどうやって読むのかな? どうやってるの?』って聞いてこられたことです。私に聞く⁉って(笑)。もう、ずっと第一線で走り続けてきた方ですよ? 変なプライドがあったら絶対に聞けないことですよね。皮肉とかそういうことでもなく、本当に純粋に聞いてくださったので、私も一瞬言葉を失ってしまいました。本当に、上とか下とか関係なく、すべての方に対等に分け隔てなく接する方なんですよ。そういうことが稽古の中でも何度もあって、どれだけ才能を持っていても、努力を怠らない姿のひとつひとつにずっと感動していました」


――そのほかのキャストの皆さんの印象はいかがですか?

上白石「大好きな役者さんばかりで、特に高畑淳子さんはご一緒することが夢だったんです。震えました。お見掛けする度に違う顔をお持ちなんですよね。でも、どの役をされても芯のようなものも持っている。そのブレなさと柔軟さを併せ持っているところが本当にすごい方だな、と。もっともっと、成長できてからと思っていたんですが、このタイミングで、しかも舞台で、こんなに深くかかわる役で…。憧れの方なので緊張しますが、一挙一動、ひと言ひと言を染み込ませて、吸収していきたいと思います」


――オリジナルキャストの中に飛び込んでいくお気持ちはいかがでしょうか。

上白石「初演の時から年数も経っていて、皆さんの中でも何か変化がおありでしょうし、でも私はそこに臆せずに飛び込んでいきたい。作品の空気感を先に皆さんが知っていらっしゃるので、支えていただくことになってしまうと思うんですが…。どう頑張ってもご迷惑はおかけするものと思って、がむしゃらになろうと思います!」


――楽しみにしています! 本日はありがとうございました。

 

インタビュー・文/宮崎新之