こまつ座&ホリプロ公演「組曲虐殺」顔合わせコメント到着!

2019.09.13

井上ひさし最後の戯曲。笑いと涙に包まれた感動の音楽劇。

劇作家・井上ひさしの没後10年目となる2019年。こまつ座では、「井上ひさしメモリアル10」として、幻の初期作から最後の書き下ろし戯曲「組曲虐殺」まで、作品を上演している。こまつ座&ホリプロ公演『組曲虐殺』は、プロレタリア文学の旗手・小林多喜二の生涯を、彼を取り巻く愛すべき登場人物たちとの日々を中心に描いた作品。一人の内気な青年が、なぜ29歳4ヶ月で死に至らなくてはならなかったのか。明るさと笑いと涙に包まれつつ、現代社会を鋭く照射する音楽劇だ。

先日行われたキャストの顔合わせより、顔合わせの模様の写真とコメントを紹介する。

 

【栗山民也 顔合わせコメント】 わたしは、井上さんから2つのものをいただきました。一つは、「怒ること」。今、目の前で起こっていることに対し、しっかりと向き合う。もう一つは、人間は生まれながらに涙の谷を渡っている、だからこそ「笑うこと」を自分たち自らで作りださなければならないと。この作品は、その「怒り」と「笑い」が妙なカタチで混在し、絡み合っている不条理な作品です。ドタバタがあったと思ったら、突然その中に極めてシリアスな時間が現れる。
なぜこういう芝居になったのかと、ずっと考えています。小林多喜二は、特高により築地署に連行され、3時間もの残虐な拷問を受け死んでいくのだけれど、その3時間、彼は自分が思い信じる思想を決して曲げなかった。曲げなかったから虐殺に至ったわけですが、それが井上さんのペンとしっかりとつながっている。だから、全身でぶつかって書かれた戯曲のせりふの一言一言が、とても痛いのです。3時間の拷問に耐えながら、きっと多喜二は今までのいい思い出だけを頭の中に描いていたんじゃないか。それを井上さんは「かけがえのない光景」として、この芝居の根っこにしたんじゃないか。そんな現実の痛みと、現実の願いのつまった芝居です。その事実こそが、不条理なのです。
日本はこのままいくと、どんどんものが言えない時代になっていくでしょう、すでにそうなっているとも思えるが。またこの芝居が必要とされる時代がきてしまったことを強く感じながら、皆で愉快で厳しい作品にしましょう。

 

【井上芳雄】◆2回本読みを終えて どうでした?
初演の時は、稽古のたびに新しい台本が届き、一生懸命やっていただけなので、その時はキャリアが浅かったこともありますが、冷静にこれがどういう作品なのかというのはわかっていませんでした。
でも今回、7年ぶりに本読みをしてみて、改めて凄い本だな、と思いました。本当に振り幅が広く、容易い作品ではありません。毎回、身体ごとぶつかっていかないと太刀打ちできない、小手先ではできない。「もっとやりようがあるんじゃないか、深さとか広さとかもっともっとあるはずだ」って思いながら演じていたのを、本読みをしながら思い出しました。今回もそうなると思います。

◆新たに加わった上白石さんの印象
(上白石)萌音ちゃんのことは良く知っているので、瀧役にぴったりだと思っていましたが、本当に思っていた通りというか、思っていた以上に素敵な瀧ちゃんでした。これから立ち稽古をしていくなかで、萌音ちゃんが演じる瀧ちゃんにいろいろ刺激を受けて、僕の多喜二もまた新しい気持ちが生まれてくるんだろうな、と感じさせてくれる瀧ちゃんです。

◆作品の見所
10年前にはそう思わなかったのですが、今日本読みをしながら「今のことを書いているのか?」と思えるくらい、切実に今の時代と内容がリンクしていて、怖いと思いました。ただ、「井上ひさしは予言者だったね」ということだけではなく、多喜二たちが僕たちに繋いでくれた希望を自分たちはどうやって引き継いで行くのか、綱を渡して行くのかっていうことを考えるという本だと思うんです。演じる我々自身が本を読むだけで毎回泣いたり笑ったりするわけですから、お客様には、本当にたくさんのものを持って帰っていただけるのではないでしょうか。

 

【上白石萌音】私が演じる瀧子は、「不幸を背負うために生まれたような子」と言われるセリフがあるくらい、若い時から大変な思いをしてきた子なのですが、にも関わらず、というよりはむしろ、だからこそ、本人はたくましく、強い心を持っている子です。多喜二さんへの愛が本当にまっすぐで、すごく純粋に多喜二さんを愛している役だと思います。そのまっすぐさ、強さを、受け取っていただけるように、瀧子を演じたいです。
読み合わせの間、隣にいる井上芳雄さんの熱が伝わってきました。芳雄さんの息遣いやひりひりする声を隣で聞いているだけで、形容しがたい気持ちになります。まさに身体を使って小林多喜二を体現されていて、初演から今回の再々演までの間、芳雄さんの中にはずっと多喜二がいたんだな、というのを感じて感激しています。そんな多喜二さんにまっすぐ向き合えるように、私も頑張らねばと思っているところです。
組曲虐殺には、本当に「今」、受け取っていただきたいメッセージがつまっています。どんな境遇の中でも明るく強く生きた人たちの姿は、観ていただく皆さんそれぞれに届くものがあると思います。皆さんのもとに、井上ひさし先生の思い、小林多喜二の思いが届くように一生懸命頑張りますので、皆さん、ぜひ劇場にお越しください。