舞台『Run For Your Wife』山本一慶×鮎川太陽 インタビュー

あるタクシードライバーの二重結婚生活をめぐる騒動を描いた、英国の人気劇作家レイ・クーニー原作のドタバタコメディ『Run For Your Wife』。日本でも何度も上演されてきた人気作の主人公に、先日30歳を迎えたばかりの山本一慶が挑むことになった。2人の妻役には花奈澪と七木奏音がキャスティングされ、そのほか鮎川太陽、青木空夢、我善導、ルー大柴と個性的な面々が揃う。これまでにないキャラクターを演じることになる山本と鮎川の2人に意気込みなどの話を聞いた。

 

――今回の作品に出演することが決まって、率直にどのようなお気持ちでしたか?

山本 僕は今回のようなザ・コメディという作品に出演するのは初めてなので、楽しみですね。台本を読んでみて、僕だけじゃなくて出演している一人ひとりが呼吸を合わせて、積み重ねていって全体の大きな笑いにしていくような、上質な笑いだなという印象なんです。そういうところも凄く楽しみですね。

鮎川 今回の出演にあたって、一慶くんから僕の名前を出してくれたらしいんですよ。それが嬉しくて。共演したことはありましたが、そこまで密にやりとりをしていたわけではなかったですし、それでも声をかけてくれたのが嬉しかったですね。だからお引き受けしたいなと思ったんです。

 

――山本さんにとっては初の本格コメディですが、鮎川さんにとっては初めてのゲイ、オネエの役どころだそうですね。

山本 そうなんですよ。そういう初めての役を鮎川くんが引き受けてくれたことも嬉しいですね。

鮎川 最初、僕にお声かけいただいている役がゲイの役か刑事の役と聞いて、どちらの役でもOKですとお答えしたんです。でも、正直どっちかというとゲイの役をやりたいなと思っていました。刑事役はやったことがあったので、やっぱり役者なら新しいものをやっていきたいですから。

――役どころについても詳しくお聞きしたいと思います。それぞれどんなキャラクターになるんでしょうか。

山本 重婚している役なんですけど、日本で重婚していたらクソ野郎ですよね(笑)。非難殺到になると思うんです。でも、なぜかジョン・スミスは応援したくなるキャラクターなんですよ。“どうにか切り抜けて!”って、感情移入して応援しちゃうような。多分、彼と結婚している2人の女性がすごく強いんからなんですよね。だからこそ、重婚がバレてしまったらどっちも抑え込むことができない。やっていることはヒドいんだけど、応援したくなる愛らしさがあると思います。そういう愛嬌があるキャラクターになれたら、素敵な舞台になるんじゃないかな?

鮎川 僕は以前もちょっとオネエっぽい役をやったことがあるのですが、こんな本格的なのは初めて。知り合いにもゲイやオネエの人がいたりするし、映画や舞台でも観ているので、今回の役作りに生かせたらなと思っています。

 

――先ほど、実はさほど密なやりとりはしたことがなかったとお聞きしましたが、今現在の印象はいかがでしょうか?

鮎川 今日の取材で「一慶くんってこんなにしゃべる人なんだ!」って思いました(笑)。前にお会いした時には、こんなにおしゃべりする印象じゃなかったので。作品に対してこんなにいろいろと考えているんだなと。

山本 いや、珍しいですよ(笑)。本読みが最初、ということもあるので。

――こうも毎月立て続けに舞台出演されていると、そうなっちゃいますよね。今回の作品の稽古については何かイメージしてらっしゃることはありますか?

鮎川 稽古に対してもあんまり不安が無いんですよ。初めての役柄に挑戦するとはいえ、ほとんどの方が共演したことがあるんですよね。七木奏音さんだけ初めましてかな?

山本 ルー(大柴)さんも共演したことあるの?

鮎川 もう十数年前、バラエティ番組でご一緒させていただいたことがあって。だいぶ前昔のことだから覚えてらっしゃらないと思うけど…。だから「初めまして」って挨拶したほう方がいいかも…(笑)

山本 やっぱりキャリアが長いとスゴイな。でも今回のキャスティング、ビジュアルが上がってみて改めて、すごくバランスがいいな、と思いました。真ん中の5人の面々もいい感じなんだけど、両サイドにルーさんと我(善導)さんがいる感じも良くて。コメディっぽさがすごく出てる感じがして。

鮎川 うん、わかる! コメディっぽさが出てるよね。

 

――今回のコメディの面白さについて、どんなふうに考えていらっしゃいますか?

山本 ドカン!と笑う感じとは違うんだよね。こみあげてくるような笑いというか。クスっとする笑いが連続して、それがあとを引くような笑いなんですよね。じわじわくる。それがこの作品のいいところじゃないかな。ストーリーの中に組み込まれている計算された笑いなので、後から思い出せるんですよ。

鮎川 多分最初は、笑っちゃいけない空気感みたいなのがお客さんにもあったりするじゃないですか。でも、誰かが耐え切れずに笑っちゃうと、あっ笑っていいんだってなって…。そこから物語と客席との一体感も出てくるような気がします。

山本 お客さんの「笑っていいの?これ…」って言うの、俺らも察しちゃうじゃないですか。それ自体も、もう面白いな。そうやってお客さんが様子をうかがっているさまも、もはや面白いいんじゃないかな。

鮎川 僕は台本をもらったその日に、カフェで台本を読んでたんです。皆さん周りでお仕事してたり、ゆったりしたりしているなかで、僕ひとりで笑ってて(笑)。ここが笑いのポイントだな、という部分に印をつけてるんですけど、結構多くて細かいんです。そういう散りばめられたピースが最後に全部が繋がっていくような感じもあるんですよね。

山本 そう! それが僕も好きなんだよな。

 

――山本さんにとっては30代になって初の作品となります。30代、どんなビジョンを描いていますか?

山本 20代は大人として、というのがあったんですね。30代は人としての何かを大事にしないとな、と思います。年齢を聞かれて「30歳だよ」と答えると『おぉ、もう30歳なんだ』ってなるじゃないですか(笑)。それは20代から感じていたことで、30歳になると先輩として見られる立場になるんですよね。そうなったときに、人として、役者として、俳優を目指す子や後輩に“こういうお芝居への姿勢っていいな、好きだな”って思ってもらえるような…自分の持っているものにちゃんと自信を持って生きていたいな、と思うようになりました。って言っても割と適当なところはあるんですが(笑)、自分のスタイルに自信を持つようにしていたいですね。

鮎川 20代で頑張ってきたから、っていうのはあるのかもね。

山本 頑張ってきたからこその30代。頑張るの好きじゃないけど(笑)

鮎川 いや、頑張ろうよ(笑)

――鮎川さんはあと2年弱、“もうすぐ”30歳ということになりますが、30代のイメージは何かありますか?

山本 まだ20代って! 絶対嘘でしょ(笑)。正直、ちょっと上だと思ってたもん。

鮎川 実は僕も一慶くんのことをついさっきまでちょっと年下かな?と思ってた(笑)。30代か…やっぱり、必要とされる存在、居ないと困る存在になりたいですね。役者って、技術があり、配役との相性とか条件が合えば基本的に誰でもできるんですよ。だからこそ、代わりの効く人間になりたくない。その為に、自分のできることや自分の個性を磨いて作り上げていきたいですね。自分の方向性は決まっていますし、カメレオン俳優じゃないですけど、いろいろなものにチャレンジしていきたいと思っています。いろいろな人に出会いたいですね。

――今回の舞台をやっていく中で期待していることはありますか?

鮎川 さっき実は僕のことを年上だと思っていたというのを聞いて、いつも敬語を使ってくださっていたので、敬語じゃなくていいよ…って言いたいんですけど、でも一慶くんの今までの感じも好きなんですよ(笑)。この距離感。でも、この舞台を通して新しい関係になれそうですね!とりあえず稽古中に、泊りに行きます(笑)

山本 なんで(笑)

鮎川 ほら、役づくりで夜這いに…

山本 役を落とし込んでくるタイプだったんだね。いやー怖いなー(笑)。でもみんなのキャラが濃い上に、役のキャラも濃いので、みんながどういう感じになっていくのかは楽しみですね。トラブルが起きてほしいというか…、そういうハプニングに対処していく感じもきっと楽しいんじゃないかな。僕の中ではルーさんの存在が一番の楽しみなんですよ。

 

――ルーさんもキャラの濃い方ですもんね。

山本 ルーさんは年齢も倍以上なんですけど、30歳の僕の親友の役ですからね。なんで親友になったのか、普通はあり得ない年齢差じゃないですか。そこの関係性を稽古で作り上げていったら、逆にその年齢差ならではの楽しさが生まれてくるんじゃないかと思っているんですね。役の上では、ルーさんが一番の被害者になるんです。65歳の親友が30歳で、一番の被害者になる人が一番年上、もうそれだけで面白いんですよね(笑)。その構図が僕らのやる『Run For Your Wife』の他とちょっと違う面白いところになるんじゃないかな。

――作品の中では重婚というものが大きなキーになります。自分自身の女性との向き合い方と比べたりして、何か思うところはありますか?

山本 重婚は…したいですね(笑)。というのは冗談にしても、たくさんの女性に求められるというのは、男として憧れというか、いいなという気持ちはありますね。でも、今回の女性たちはお姫様のような感じなんですけどかなり強い。僕も言えないんですよ、女性に。すごく1人で居たい時も、「今日、一緒に居るって言ったでしょ?」って言われちゃうと『楽しみにしてたんだ』なんて言っちゃう。言い返せない(笑)。だから、この役にはすごく共感しています。自分の中のすごく恥ずかしい部分がジョン・スミスなんじゃないかな、って。

鮎川 重婚ってそれだけの力量が無いとできないことだからなぁ。今回出演する女性だと、花奈澪さんとは前に共演したことがあるのですが、彼女のお仕事に対する姿勢がものすごくいいなと思うんですよ。

山本 あぁ、わかる。すごくいいよね。

鮎川 うん。本当に、そのスタンスがすごく良い。やっぱり仕事でもなんでも尊敬できる人ってとても魅力的に感じますね。だからまた共演できるのは嬉しい。

 

――最後に、公演を楽しみにしていらっしゃる方にメッセージをお願いします!

鮎川 この作品は台本のページ数で言えば、意外と長い作品なんですけど、本当にサラッと読めてしまうんですね。そういうテンポ感がある作品で、体感時間はあっという間だと思うんです。三越劇場という国の重要文化財にも指定されているような場所ですし、暑い夏の最中ではありますが、涼しい劇場の中でひと夏のジェラートのような感じで楽しんでもらえたらと思います。

山本 いいね、ひと夏のジェラート。今回の本を読んでいて、嘘を隠していくことが笑えてくるのもあるんだけど、どこか探偵モノというか推理モノを読んでいるようなハラハラ感もあるんですよ。そういう不思議な感覚があったんですね。続きが気になってしまうような。もっと聞かせて、どういうことなの?みたいな。その探求心が面白かったので、それをお客さんにも感じてもらえたら、あっという間に思えるような作品になるんじゃないかな。このメンバーだからこそのスパイスがあると思うので、ぜひご覧いただければと思います。

 

撮影:山副圭吾

ヘアメイク:瀬川なつみ

インタビュー・文:宮崎新之