劇作家で演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の名作を、才気溢れる演出家たちの手で上演するシアタークリエの新シリーズ「KERA CROSS」。その第一弾となる、<演出・鈴木裕美><出演・鈴木杏、ブルゾンちえみ、花乃まりあ、シルビア・グラブ>による『フローズン・ビーチ』が開幕した。1998年に初演された劇団「ナイロン100℃」初期の代表作で、女四人で紡ぐミステリー・コメディとなる本作。咲恵役のシルビアに話を聞いた。
――まず、KERAさんのお芝居にはどんな印象がありましたか?
シルビア「普通のリアルな話かなと思いながら観ていたら、突然ありえないようなファンタジーがあったりして、『あれ?これはなんの話だったのかな』と思うのがすごくおもしろいし印象的です。でもまさかそれを自分がやる日がくるとは思っていませんでした。しかも鈴木裕美さんの演出でっていう。最初はビックリしましたね、プロジェクトとして」
――今までにないなにかが必要だとか、そういったことは思われましたか?
シルビア「私は毎回、演出家さんや作家さんに新しいものを引き出してほしい、と思っているので、今回は裕美さんがどう料理してくれるかなというのがすごく楽しみで。だからあまり深く考えずに飛び込んでいこうと思っています」
――咲恵という役についてはどのように思われていますか?
シルビア「(ナイロン100℃による初演・再演にて千津役を演じた)峯村リエさんとは仲良くしてもらっているので、『シルビア「フローズン・ビーチ」をやることになったのだけど、リエさんたちのイメージが強すぎてナーバスになっちゃってる』と言ったら、『え?すごく咲恵にピッタリだと思う』って言われて。『え、そうなんだ』と思ったんですよ」
――役が合わないかもと思われたということですか?
シルビア「自分では、咲恵という役が自分のどこに当てはまるのか想像もつかなかったです。でもリエさんの言葉に乗せられて『よし、じゃあやるぞ』っていう気持ちにはなりました(笑)」
――咲恵さんはどんな人ですか?
シルビア「もしかすると別の部分は表に出していないだけかもしれませんが、割と楽観主義な人だと思っています。ただそれも、目が見えてないことによってそういられるのかなというところもあって。後半にはその状況が変わるので何がどう変化していくのかっていうのは自分なりに追求しないといけないなと思っています。もともと見えていた人が、見えなくなって、そしてまた・・・という変化を辿るので、そこでいろんな感情的な変化があるはずなですし。そこをどう追求していくか」
――役は読み合わせを経て決まったそうですね。
シルビア「そうなんです。役を決めるための本読みをするのは初体験だったので、その時点で『いいものにしたい!』という熱意がすごく伝わってきて。裕美さんが『(配役を)悩んでいる』ってことも正直に言ってくださったので、そこまでさらけ出してくださるなら、こちらもさらけ出したいなって気持ちになりましたね」
――時事ネタも多い作品で、例えばナイロン100℃の初演・再演時は“未来予想”として書かれていたこともありますが、今は過去なので事実と違う部分が出てきますよね。
シルビア「そうですよね。宗教の事件がらみの内容とかは、読んでいてちょっとドキッとしました。『そっか、当時は未来の話だったから…』と思ったりして。でも逆に前半に出てくる“ボディコン”とか“ワンレン”とかは、お客さんの半分くらいは知らないかもしれないなと思ったりしています(笑)」
――演出の鈴木裕美さんとは、シルビアさんは初のタッグですよね。
シルビア「はい、でも実は裕美さんのことは長年知っているんですよ。飲みの場でよく一緒になっていたので。私は裕美さんの演出作品を観ていますし、裕美さんも私の出演している作品を観に来てくださっていて。だからこそ今回『どうなるのかな』っていう気持ちもありますけどね。飲み仲間が突然仕事仲間になるのってね。そのまま素直にいけるのか、構えてしまうのか」
――裕美さんはどんな印象ですか?
シルビア「『この人は最後まで絶対に諦めずにつくる人なんだ』という信頼があります。舞台への愛情やエネルギーを感じるんですよ。だからギリギリ最後まで1ミリでもよくするために戦うんだろうなって。だから今回その器の中に飛び込めるのは楽しみです。4人だけの芝居なので稽古場でぶつかることもあるだろうと思いますが、そうなったとしても裕美さんは絶対に諦めずに導いてくれるだろうなと思っています」
取材・文/中川實穂