スカッと笑える痛快時代劇、劇団☆新感線最新作が開幕!

2019.07.16

劇団☆新感線の最新作『けむりの軍団』が7/15(月・祝)、東京はTBS赤坂ACTシアターにて開幕した。
これは劇団の旗揚げ39周年を祝う39(サンキュー)興行の一環にあたり、特に東京には約半年ぶりのお目見えだったこともあって、客席からはいかにも「待ってました!」感が溢れ出ている。その観客の想いに応える形でキャスト陣からも熱演、快演、怪演の数々が繰り出され続けた、初日の舞台の模様をレポートする。

 

舞台は戦国時代、本能寺の変以後、秀吉の小田原征伐以前のいつか。元軍配師で今は浪人の真中十兵衛(古田新太)は、人を食ったような言動ばかりしている浪人の美山輝親(池田成志)が賭場で起こした泥棒騒ぎのとばっちりで子分を人質にとられてしまい、ヤクザの金を持って逃げた輝親を捕まえて引き渡す約束をする。
その道中で、たまたま居合わせたお姫様とその家来。家のために嫁いだ紗々姫(清野菜名)は家同士の同盟が反故になったことで、家臣の雨森源七(須賀健太)と共に城を脱出してきたのだ。
この4人の道中がベースとなるロードムービー風でありつつ、彼らを追ってくる個性あふれるキャラクターとのやりとり、そしてアクションだけではなく頭脳戦も含めた戦の様子が愉快に、軽妙に、非常にテンポ良く描かれていく痛快時代劇となる。

歌あり、踊りあり、殺陣ありで、いつもの新感線らしさは当然あるのだが、今回は倉持裕が脚本を手掛けていることもあって、セリフに使われる言葉のチョイス、会話の妙といった面白さがたっぷり味わえるほか、劇団主宰・いのうえひでのりの演出がシンプルにして重みがありつつもポップな仕上がりになっていて、とても新鮮。黒澤明の映画『隠し砦の三悪人』と太宰治『走れメロス』を意識して書かれているとのことだが、『隠し砦~』以外のクロサワ作品を彷彿とさせるモチーフがあちらこちらに散見できるのも楽しい。

キャストたちの演技も見応え充分。主人公の十兵衛をシブめに、かつ大きな存在感で演じる古田と、輝親の胡散臭さを全身全霊で体現する池田の息の合ったバディぶり、丁々発止のやりとりにはこの二人にしか醸し出せない空気感がある。

そこに超絶技巧の殺陣だけでなく今回は“口下手な侍大将”という役柄でセリフでもしっかりと笑いをとっていく早乙女太一、可憐な姫君役とはいえ回し蹴りなどお得意のアクションも披露している清野、その姫を守る係のはずなのに頼りない弱々キャラが実に似合っている須賀、さらには高田聖子、粟根まことらお馴染みの劇団員たちも各自に活躍の場面が用意されているため、長年の劇団ファンもご安心を。その上、登場人物たちがそれぞれ多面的に丁寧に描かれているところも、物語により深みを与えていた。

音楽、効果音も昔の時代劇風で、映像の使い方にも工夫があり、それぞれのキャラクターや人間関係の把握がしやすくなっている。倉持が新感線のために初めて書き下ろした『乱鶯』(2016年)も含め、過去の新感線作品のどの作品にも似ていない印象があり、いのうえが公言しているように今回は“オルタナティブ=もうひとつの”いのうえ歌舞伎であることも実感できた。これが39周年記念のベテラン劇団にもかかわらず、こうして新鮮な面をまだまだ提示してくるところはさすがの一言。それぞれの思惑、正体が次々と明らかになっていくワクワクする面白さ、迫力満点の殺陣の爽快感、十兵衛が仕掛ける奇策の顛末などなど、演劇ならでは、時代劇ならでは、新感線ならではの魅力に満ちたステージであること、スカッとした気分で劇場を出られることは間違いない。

東京公演はこのあと8/24(土)まで、その後9/6(金)~23(月・祝)は福岡・博多座、10/8(火)~21(月)は大阪・フェスティバルホールでも公演。

 

取材・文/田中里津子