KERA CROSS 第一弾『フローズン・ビーチ』花乃まりあ インタビュー

劇作家で演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の名作を、才気溢れる演出家たちの手で上演するシアタークリエの新シリーズ花乃「KERA CROSS」。その第一弾となる<演出・鈴木裕美><出演・鈴木杏、ブルゾンちえみ、花乃まりあ、シルビア・グラブ>による『フローズン・・ビーチ』は、7月12日(金)から神奈川プレビュー公演を経て、7月25日(木)新潟を皮切りに各地本公演が上演される。稽古場にて、愛・萌の二役を演じる花乃まりあに話を聞いた。

 

――花乃さんは代役として出演が決まったので、遅れて稽古に参加されましたが、今どのように感じていますか?

花乃「最初は不安な気持ちもあったのですが、私は昨年秋に舞台『二十日鼠と人間』で鈴木裕美さんとご一緒させていただいて、裕美さんに絶大な信頼を持っているので『裕美さんがいらっしゃるのなら絶対大丈夫だ』と思って参加しました。実際、稽古に入ると、共演者の皆さんも温かく迎えてくださって。遅れているぶん最初は少し焦っていたのですが、なんとか追いついてきたので、これからもっと深めていきたいなというところです」


――裕美さんへの信頼とはどのようなところなのでしょうか?

花乃「裕美さんのことが人として大好きなんです。前回の『二十日鼠と人間』は宝塚歌劇団を退団したばかりだったので、そういう意味での不安もあったのですが、そのときに、わからないことをわからないと素直に言っていいんだなと思わせてくださったのが裕美さんで。私の未熟さも楽しんで受け止めてくださって、わかるようになるまで見捨てないでいてくださった。今回も不安な気持ちや焦る気持ちもあるのですが、それを理解してくださっているのも感じます。そういう愛に溢れている方なので、安心できます」――実際に稽古してみていかがですか?

花乃「今は毎日家に帰るとぷしゅ~って感じです(笑)。やっぱり戯曲が難しいので、これはどういう意味だろう?っていうことをみんなで話し合いながら稽古を進めていて。ただ、最初は裕美さんが『あまり読み解きすぎても戯曲が痩せていってしまうかもしれない』とおっしゃっていたんです。ファンタジーの要素があるので、お客様に考える余裕を残したいという意味もあって。でもお稽古が進んでいくなかで『このメンバーだったら読み解いても大丈夫かも』とおっしゃって。今はより深くお話しするようになっています」


――花乃さんは愛と萌という双子の演じ分けも大変ですね。

花乃「そうですね。そこは難しいなと思っているところです。愛は冒頭から16年経ったときに人生が大きく変化しているのですが、4人の中でなぜ彼女だけがそういう目にあっているのかって考えたりもして。私の中では、愛の逃げ道をつくらないように、人に対してあまり誠実じゃないところとか、嫌な面もハッキリとみせていけたらおもしろいと思って取り組んでいます」――嫌な面をハッキリと。

花乃「最初に脚本を読んだとき、私は愛のことを今よりもう少し『かわいそうな目に遭っている人』だと思っていたんですけど、稽古場で話していると、例えば千津は、愛に対して憧れも憎しみも愛情もあったのに、愛がその気持をうけとめていなかったんだっていうことに気付いて。そこから生まれてくるものもあるなと考えているところです。裕美さんも『愛は女王様』とおっしゃっているので、そこを貫くことは課題ですね」


――特に愛はいろんな人と対峙していますよね。

花乃「そうですね。登場人物の中で主従関係があるというか。それも常に『どっちが上か』っていうマウントの取り合いをしているんですよ。そこは濃く描いていけたらおもしろいかなと思っています」


――ちなみに花乃さんがこの物語で好きなところはどこですか?

花乃「まず4人ともすごく変な人なところ(笑)。そこが見ていてもやっていてもおもしろいです。しかもみんないつも真剣なんですよね。変なことをしていても全力で必死に生きている。そこが好きです。そしてこれは稽古場で裕美さんとお話ししていて感じたことですが、“殺す・殺される”のなかで“救う・救われる”という関係性ができていくんですね。それで一生懸命に動くし。そういうところがみんなかわいらしいなと思います」――そんな人たちを演じている共演者の皆さんはどんな方々ですか?

花乃「皆さんそれぞれの分野で活躍されている方ですから、稽古に参加するときはすごくドキドキしたのですが、とってもやさしくて……おもしろい(笑)。笑ってしまってお稽古にならないときとかあります」


――ぜひ一人ひとりの印象を教えてください。

花乃「杏さんは安心感がすごい。劇中ではどちらかというと愛が千津(=鈴木杏)を引っ張っていかなきゃいけないのですが、杏さんは私にわかりやすいように千津のお芝居をつくってくださって、今はそれにすごく助けられています。本当に姉さんって感じです。ちえみさんは真剣にやっていればいるほどおもしろいんですよ。あの真剣な目で市子の台詞を言われると、笑いがこらえられない(笑)。シルビアさんはイタリアの向日葵みたい!シルビアさんにしかない颯爽としたカッコいい魅力があって、それが咲恵さんという役にすごく当てはまっているなと思います。咲恵さんとのシーンもすごく楽しいです」


――稽古もあと一週間というところですが。

花乃「今ようやく通るべき道筋ができたという段階なので、その見つかった道筋をこれから濃く深くしていきたいです。今はまだ自分のプランがお客様に伝わる表現にまでいってないなと思うので、そこを色濃くしていく作業をしていきたいですね」取材・文/中川實穂