古田新太&池田成志の熟練コンビが笑わせる!
クロサワ作品のオマージュも必見、痛快爽快人情時代活劇
三連休最終日の7月15日(月・祝)、劇団☆新感線39興行・夏秋公演いのうえ歌舞伎《亞》alternative『けむりの軍団』東京公演が開幕した。脚本は岸田國士戯曲賞作家の倉持裕、演出はいのうえひでのり。
クロサワ作品などのオマージュを散りばめた映画ファンも見逃せない「痛快爽快人情時代活劇」を謳う本作。冒頭から遊び心溢れる演出で観客の期待感を煽ると、開口一番はこの方、古田新太と初の相棒役を務める新感線常連の池田成志。何気ない台詞も、発声の仕方ひとつでここまで場の空気を掴めるものかと、いきなりの職人技に舌を巻く。場面は一気におもしろモードへ。以降も変幻自在に抑揚を効かせた“七色の台詞回し”で敵味方のみならず、観ている観客の心まで翻弄する。その口八丁に乗せられる楽しさといったら。
そんな陽の池田に対し、主演の古田新太はどっしり構えた陰の面持ちで、池田を時に泳がせ時に手綱を締めてと、飴と鞭ならぬどつき夫婦漫才の要領で、テンポよく場面を運ぶ。見事なバディぶりだ。言って分からぬ輩には、前半から二刀流の剣さばきで容赦なく大立ち回りを繰り広げる。血を払い、ひとりタイトルを背に佇む姿は「待ってました!」の大向うが脳内で炸裂する、これぞ看板役者のかっこ良さだ。
物語はズル賢い謎の浪人(池田成志)と、今は浪人だが、いずれは表舞台に返り咲きたい切れ者の軍配士(古田新太)が、偶然木賃宿で嫁ぎ先を飛び出した姫様(清野菜名)と出会い、お付きの家臣(須賀健太)と共に、姫様を無事に城まで送り届けハメになる、というのが大筋。そこに、姫を追う義母(高田聖子)の思惑、大名家最強の侍大将(早乙女太一)の忠誠心、さらに怪しき住職(粟根まこと)の策略などが絡み合い、疑心暗鬼の戦へと発展する…。
ヒロインの清野菜名はアクション女優としての実力を遺憾なく発揮。終始、家臣より先に敵へ回し蹴りを食らわせ、剣豪の早乙女太一とも幾度となく剣を交わす。小柄だが華とエネルギーに溢れ、明瞭な台詞回しでも目を惹いた。普段から愛されキャラの須賀健太は役の上でも愛嬌たっぷり。真面目が過ぎて笑える役作りで、しっかり爆笑をさらう花丸の活躍。そしてもう一人の主役と呼びたいのが、侍大将の早乙女太一だ。怖さと美しさが同居する鬼気迫る剣さばきは言うに及ばず、口下手という設定が早乙女の中で思わぬ化学変化を巻き起こす。結果、爆笑と喝采が同時に沸き起こる稀有なキャラクターを誕生させた。後半での彼の役回りもドラマチックで、“その後”が気になる展開にもキャラクターの可能性を感じさせた。
若手を中心に、いのうえ歌舞伎らしい大人数での歌やダンスも盛況だが、全体としては各シーンでベテラン勢の芝居心が冴え、じっくり役者の持ち味が楽しめる趣向だ。とりわけ高田聖子は実質的な当主としての苦悩や母としての思いも伝わり、単なる悪役に留まらない役作りが光る。こんな息子ならしょうがないと思わせる、河野まさとのバカ息子ぶりも一級品。粟根まことは激情型の住職を嬉々として好演、右近健一らと派手な歌やダンスでも場面を盛り上げた。
熟練コンビの古田と池田が登場するたび劇中に流れるテーマソングは、テンポや味付けが、おじさんたちの冒険時代活劇にぴったり。映像による劇画タッチの名乗りもそれぞれ活力に溢れ、今後もう一つの「いのうえ歌舞伎」の形として定着しそう。飄々と、それでいて義理人情に厚いお人好しの浪人と軍配士。デコボコだけど己の正義に忠実な点ではそっくりな二人と、次に出会えるのはいつだろう。もうあの感じが恋しくなる。劇団がまたひとつ、新たな楽しみを与えてくれた。
取材・文/石橋法子