舞台「神の子どもたちはみな踊る after the quake」が7月31日(水)に東京・よみうり大手町ホールで開幕した。これに先駆け行われた、プレスコール&囲み取材の模様をお届けする。
原作となった「神の子どもたちはみな踊る」は、2000年に新潮社から刊行された村上春樹の短編小説集で、地震のニュースを見た人たちの心の中で何が起こったのかということをテーマに、様々なエピソードを描く。本公演は、そのなかから特に人気の高い「かえるくん、東京を救う」「蜂蜜パイ」のふたつを取り上げ舞台化したフランク・ギャラティ版の脚本(2005年米国にて上演)を使用。「小説」と「演劇」を融合させた、他に類を見ない作品になっている。
キャストには、アジアを中心にその俳優活動が国際的な広がりを見せる古川雄輝が主人公・淳平役を、女優活動のみならず小説を出版するなど多彩に活動する松井玲奈がヒロイン・小夜子役を演じる。物語の鍵を握る「かえるくん」は同じく村上春樹氏の原作舞台『海辺のカフカ』のナカタ老人役で世界各国にて称賛を浴びた木場勝己が演じる。また、実力派俳優川口覚が、片桐・高槻という二役を演じるなど、3名の若く瑞々しい感性と、日本演劇界が誇るベテランとがぶつかりあう。プレスコールでは、まず、作家の淳平(古川)が、大学時代からの友人・小夜子(松井)の娘に「くまのまさきち」の話を即興で語って聞かせる場面が公開された。娘・沙羅を寝かしつけた後、小夜子は、沙羅が地震のニュースを見て以来悪夢に怯えているのだと淳平に相談する。そんな様子を、語り手(木場)が舞台の端からそっと見つめている。物語を聞かせる淳平の語り口の温かさや、三人の姿がほほえましく映る一方で、沙羅の見る悪夢の話は、緊張感をもって観客に伝わってくる。次に公開されたのは、淳平が書いた小説「かえるくん、東京を救う」の世界が舞台上に繰り広げられる場面。小説の登場人物である「かえるくん」(木場)が、信用金庫に勤める冴えないサラリーマン・片桐(川口)の前に現れる。巨大な蛙の突然の出現に驚きを隠せない片桐と、どこか飄々とした語り口の「かえるくん」の対比が面白い。「かえるくん」は、地底で眠っていた「みみずくん」が神戸の地震で目を覚まし、東京に新たな大地震を起こそうとしており、それを阻止するために片桐に力を貸してほしいと語る。この場面で淳平は小説の作者として、物語の語り手の役割を果たすという構造となっている。
プレスコールに続けて行われた囲み取材には、古川と松井の二人が登壇。三年半ぶりの舞台出演となる古川は、「久しぶりの舞台なので、感覚的にいろいろ忘れていることがあって。『舞台ではこんな表現をしていいんだ』という新たな発見がありました。稽古は役者として様々なことを学べる場。課題もたくさんありましたが、楽しくやらせていただきました」とコメント。松井は「二つの作品が混ざり合っているので、どういう風に舞台になるのか不思議でしたが、木場さんの演じる『かえるくん』が作品全体をうまく繋いでいて、その感覚が楽しいな、と思いました。稽古場に行くのがすごく楽しかったです」と笑顔で充実ぶりを語った。本作が初共演となる二人だが、互いの印象について聞かれると、古川は「松井さんはすごく透明感があって、小夜子という役柄にぴったりだな、と。また、何事にも全力で取り組む姿が、とてもプロフェッショナルだなと感じました」、松井も「(古川が)ゲネプロでステージに立った瞬間、稽古場から二倍も三倍にもパワーアップしていて。そのエネルギーについていかなきゃ!という気持ちになりました。すごく引っ張ってくれて、頼もしいです」と互いを讃え合っていた。本公演の特徴について、古川は「普通の会話劇ではなく、僕が相手の心情を語ったり、僕が急にナレーションになったり、僕が出ていない『かえるくん、東京を救う』の物語に、僕がうまく溶け込むシーンもあったり……。普通の舞台では味わえない雰囲気が、この舞台にはあると思っていて。そんなところが村上春樹さんの作風ともマッチしていると思います」と語り、「原作を読んでいる人でも読んでいない人でも、楽しんで頂ける舞台になっていると思います」と話した。東京・よみうり大手町ホールでは8月16日まで。その後、8月21~22日に愛知・東海市芸術劇場 大ホール、8月31日~9月1日に兵庫・神戸文化ホール 大ホールで上演される。