NODA・MAP第23回公演『Q:A Night At The Kabuki』野田秀樹 インタビュー

「QUEEN」と「ロミオとジュリエット」が結びつく


「NODA・MAP」第23回公演のタイトルは『Q』。それだけを見ると得体の知れない舞台である。しかし、劇作家・演出家の野田秀樹が手がける作品は、出来上がったものを観ても底知れなさを感じずにはいられず、頭をグルグルさせてくれるところに魅力があると言っていい。思考を助けてくれるヒントはある。今回で言えば、「ロミオとジュリエット」と「クイーン」である。『Q』とは、あのロックバンド・クイーン(QUEEN)を表しており、クイーンの名盤『オペラ座の夜』の世界観を、クイーンが愛してきた日本で演劇にできないかというオファーを受けた野田が、彼ならではのインスピレーションでそのふたつを結びつけたのだ。

野田「実は『ロミオとジュリエット』は、自分のなかにずっとあったものなんです。もしも自分が『ロミオとジュリエット』をやるとしたら、こういうふうに作るなというものが。そしてそれとは別に2年ほど前にクイーン周辺からこの話があって、アルバムを聴いているうちにイメージが触発されたんですね。とくに、『ボヘミアン・ラプソディ』と『ラブ・オブ・マイ・ライフ』の歌詞からだったんですけど。それで、ワークショップを始めて創作を積み重ね、それを観たクイーン周辺と、クイーンのメンバー自身の承認を得て、企画が進むことになったんです」


クイーンと言えば、映画『ボヘミアン・ラプソディ』の熱狂が沸き起こったばかりだが、そのずいぶん前から野田は動き出していたのである。さらに、『ロミオとジュリエット』に至っては、出合いは高校生の頃に遡る。

野田「国語の先生から頼まれたんです。演劇部の僕が面白いと思ったら学校全体で観に行くから、『ロミオとジュリエット』を観てきてくれと。そしたら、客席のほかの学校の生徒が退屈していたので、学校の観劇は勧めなかったんですけど(笑)、自分はとても好きになったんです。というのも、たった5日間の物語で、ふたりは出会ってからあっという間に死んでしまうんですけど、そこにやっぱり心を動かされてしまったんですね。でも、だからこそ、そういう制約のあるなかでの愛であるとか、若い人の死というものに人間は弱いというか、簡単に流されてしまうなということも思ってしまって。そんなふうに人間の危うさみたいなものを考えさせられることも含めて、この作品に魅入られたんです。一方、『ボヘミアン・ラプソディ』も、主人公の少年はなぜ人を殺すことになったんだろうとか、人間についていろんなことが浮かんでくる。これはイケると思いました(笑)」


そうして立ち上がろうとしている『Q』では、ふたりの死という悲恋に終わる物語を、もしもふたりが生きていたら……と考え、野田版として大胆に改変。よく知られているロミオとジュリエットと、その後のロミオとジュリエットの、2組のロミオとジュリエットが登場するのである。演じるのは、松たか子、上川隆也、広瀬すず、志尊淳の4人。松たか子以外は初めてのNODA・MAPであり、広瀬はこれが初舞台だ。

野田「初舞台のすずちゃんはもちろん、志尊くんにもワークショップに来てもらいました。ふたりともとてもいいですね。ふたりで見つめ合っているだけで高揚するというか、その美しさにみんな、『うわーっ』っていう気分になってしまって(笑)。そういうところはやっぱり大切に作っていきたいと思いました。松さんと上川くんも芝居がいいのはもちろんのこと、男と女として、成熟しながらも生々しさもひたむきさもあるという意味でも生きのびたロミジュリとしていいなと思うので。我ながらいいキャスティングをしたなと思っています(笑)」


ほかに、橋本さとし、小松和重、伊勢佳世、羽野晶紀、竹中直人、野田自身が出演し、そのうち橋本、伊勢、竹中がNODA・MAP初参加となる。初出演キャストの多さといい、野田秀樹とロミジュリ、野田秀樹とクイーンという組み合わせの意外性から、『オペラ座の夜』の全曲がどこでどう使われるのかという楽しみまで、まさしく予測不可能な舞台である。NODA・MAPファンはもちろん、これまで演劇に縁のなかった観客にもきっと、驚きを持って舞台というものの面白さを体感してもらえるはずだ。

野田「たとえば絵画が、写真で見るのと目の前で見るのとでは違う見方や感じ方ができるように、生の演劇もいろんなことが感じ取れるものだと思うんです。しかも再生できない文化なので、その一度の体験が貴重なものになって、あのときこう思ったな、こういうふうにものが見えてたなと、後の人生で蘇ってくる。若い方々に向けた割引チケットもあります。たまたまこのページを見た方にはこの出合いを逃さないで、ぜひそういう経験をしてもらえたらと思いますね」

 

インタビュー・文/大内弓子

 

※構成/月刊ローチケ編集部 8月15日号より転載

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【プロフィール】
野田秀樹
■ノダ ヒデキ ’93年に演劇企画製作会社「NODA・MAP」を設立。劇作家、演出家、役者、東京芸術劇場芸術監督、多摩美術大学教授と幅広く活躍。