劇団AUN 第25回公演『一尺四方の聖域』大塚明夫×黒沢ともよインタビュー!「生身の特別な時間をフラっと気軽に堪能」

俳優の吉田鋼太郎が主宰を務める劇団AUN 第25回公演『一尺四方の聖域』が11月13日(水)から12月1日(日)まで、CBGK シブゲキ!!(東京都渋谷区)で上演される。出演には‪吉田鋼太郎や‪大塚明夫などAUNメンバーのほか、客演に溝端淳平、黒沢ともよ、原慎一郎、橋本好弘が参加。また、作・演出を前作『あかつきの湧昇流(ゆうしょうりゅう)』に続き、市村直孝が務める。

直立不動の姿勢で歌う東海林太郎(しょうじ・たろう)をモチーフに展開する本作は、劇団AUNとして初の音楽劇となる。作品のメインテーマを「翼をください」など多くのヒットソングを手がけた村井邦彦が担当。

これまでシェイクスピア戯曲を中心に多くの古典作品に取り組んできた劇団AUNが手がける音楽劇とはいかに?AUNの看板俳優である大塚明夫と前作から続き客演する黒沢ともよから話を聞いた。

――本作は、東海林太郎さんをモチーフにした音楽劇ということですが、劇団AUNにとっては初の音楽劇ですよね?

大塚明夫(以下、大塚)「劇中で歌うことは何度かありましたが、“音楽劇”と銘打って公演するのは初めてですね」

――なぜ、音楽劇を企画することになったのでしょうか?

大塚「なんででしょうかね?(笑) 前作『あかつきの湧昇流』の千秋楽のカーテンコールで吉田鋼太郎が突然『来年は音楽劇をやります』と言ってね。みんな初耳だったので、お客さんより僕たちの方が驚いたと思います(笑)」

黒沢ともよ(以下、黒沢)「私は客演だったので、劇団員のみなさんは知っていたのかと思っていました(笑)」

――そんなサプライズがあったんですね(笑)。今作のメインテーマの音楽を村井邦彦さんが担当されるというのも驚きました。

大塚「すごいことですよね。これもひとえに吉田鋼太郎が売れてくれたから(笑)。これまで古典ばっかりだったので、実際どんな内容になるかわからないですけど、音楽劇っていうくらいだから、まあ歌うんでしょうね……(笑)」

――歌に関して自信のほどはいかがですか?

大塚「特別自信があるわけではないですが、追い詰められるといつも自分は天才だって言い聞かせてるんで……、なんとかなるんじゃないかな(笑)」

黒沢「そんなこと言って、チラシ撮影の時はずっと歌ってたんですよ(笑)」

――(笑)。東海林太郎さんに関して大塚さんは、どのような印象をお持ちですか?

大塚「小さい頃から東海林太郎さんのことは知っていました。若いころ、新橋演舞場の裏方でアルバイトをしたことがあって、そこで東海林太郎さんの物語が上演されていて。それをよく覚えていますね」

黒沢「私はこの企画に触れるまで東海林太郎さんのことは知らかったので、動かずにまっすぐ歌う姿がとても印象的でした」

大塚「そうだよね。あの歌い方は、自分という人間に商品価値があるわけではなく、歌に価値があるんだと考えてのことだったんじゃないかな」

黒沢「なるほど!」

――劇団AUNで多くの作品を手がけている市村直孝さんが今作でも脚本・演出を担当されますが、市村作品の魅力を教えてください。

大塚「うるさくないんですよね。自分の考えを打ち出すのではなく、いろいろと要素を並べて『どう思いますか?』とお客さんに委ねる作風なので、押し付けがましくなくていいんです」

――黒沢さんは市村さんが手がけた前作『あかつきの湧昇流』で初めてAUN作品に参加されたんですよね。

黒沢「そうです。前作の役は私とは真逆の人物だったので、すごく大変でした……(笑)」

大塚「稽古場ではいつも泣いてたもんね」

黒沢「そうなんですよ。なので、今回お声をかけていただいて、嬉しさと同時に驚きもあって。今年も一緒にできるなんて思ってもいませんでした。今作では、もっと肩の力を抜いてAUNの演劇を楽しみたいです」

――黒沢さんから見て大塚さんはどんな先輩ですか?

黒沢「アフレコ現場でお会いする明夫さんは、現場に安心感が生まれる頼れる大先輩なのですが、演劇の現場では……」

大塚「おじいちゃんみたいでしょ?」

黒沢「そんなことないです! むしろ、無邪気でウキウキしてて、学校の同級生みたいでした(笑)。ある時は、両手いっぱい大量のカップラーメンを持って『買ってきたぞー!』って、ニコニコ顔で稽古場に来て。とっても素敵なんです。純粋に演劇を好きなのがにじみ出ているんですよ」

大塚「そんなことあったっけ?(笑)。演劇の場合は稽古があったり、舞台の仕込みがあったりするからね。そういう、何かが育まれる時間が好きなんですよ」

――大塚さん、黒沢さんは声優としても活躍されていますが、あらためてお二人から見た舞台の魅力はなんでしょうか?

大塚「やっぱり生身の身体がそこにあるというのが最大の魅力ですよね。収録する演技で表現できることもたくさんありますが、目の前で行われる演技はまた格別ですよ」

黒沢「舞台はそこにきてくださるお客さんだけを愛して表現するので、劇場での体験は本当に贅沢ですよね」

大塚「今作でも、生身の身体で作る特別な時間と異空間を楽しんで貰えたらうれしいです」

――最後に、一言ずつ読者にコメントをください。

黒沢「AUNのみなさんって、大道具や小道具を全員で作るんですよ。そういう時間をかけた愛がAUNの作品には詰まっていて、とっても暖かいんですよ。それに、市村さんが作る作品もとても暖かいし、演劇を見たことがない人は最初の一歩にいいんじゃないかなと思います。劇場も渋谷駅から近いので、若い世代の方に来て頂けたら嬉しいです」

大塚「欧米なんかでは、大人が普通に芝居を観に行くっていう文化が定着しているんですけど、日本だとどこか敷居の高いイメージがありますよね。僕としてはもっと、演劇が身近なものになるといいなと考えていて。今作でもたくさんの笑いがあると思います。もちろんシニカルな部分もあると思いますが、市村さんの芝居は構えずに観られるので、フラっと気楽に来てください」

 

取材・文/大宮ガスト

 

【プロフィール】
大塚明夫(おおつか・あきお)
俳優・声優・ナレーターとして多くのアニメ、映画、テレビ番組に出演。また、劇団AUNの劇団員として、旗揚げ公演『懿貴妃』から参加。2006年 第5回東京アニメアワードで声優賞、2014年 第九回声優アワードにて富山敬賞を受賞。

黒沢ともよ(くろさわ・ともよ)
子役として俳優としてのキャリアをスタート。ドラマ、映画、舞台と多くの作品に出演。2010年、劇場アニメ『宇宙ショーへようこそ』で声優デビュー。2017年 第十二回声優アワード主演女優賞受賞。