長塚圭史が、アメリカ現代演劇の金字塔『セールスマンの死』を現代に問う!
名優が演じ次いできた老セールスマンを風間杜夫、その妻を片平なぎさ、ほか個性豊かな実力派キャストが集結
長塚圭史がアメリカ現代演劇の旗手アーサー・ミラーの代表作に挑む!
2011年の開館以来、多くのプロデュース作品や招聘作品の上演、フェスティバルの開催など、個性的な企画で「創造型劇場」としての牽引役を担ってきたKAAT 神奈川芸術劇場は、2016年4月に演出家・白井晃を芸術監督に迎え、白井芸術監督のもと、KAAT ならではのプログラミング、創作活動を行っています。その白井芸術監督が最も信頼する劇作家・演出家の一人で、日本の演劇界の次代を担う長塚圭史が、2018年11月、KAAT 神奈川芸術劇場で2作目となる演出作品を手掛けます。
コンスタントに新作の上演を続ける一方、自身が主宰する演劇ユニット・阿佐ヶ谷スパイダースでの活動、創作団体・葛河思潮社における三好十郎やハロルド・ピンターといった近代戯曲への取り組み、子供向けの演劇作品の創作など、劇作家・演出家として、意欲的な活動を続ける長塚。KAAT との縁は深く、開館当初から継続的に作品を上演しており、2017年10~11月には、KAAT プロデュース公演に初参画。イタリアの劇作家ルイージ・ピランデッロ作『作者を探す六人の登場人物』を上演し、好評を博しました。
そして、2018年11月、KAAT プロデュース作品第2作目に長塚が手掛けるのは、アーサー・ミラー作『セールスマンの死』です。本作は、主人公ウィリー・ローマンの死に至る最後の2日間を描き、1949年、ニューヨーク劇評家賞、ピューリッツァ賞を受賞し、テネシー・ウィリアムズとともにアメリカ現代演劇の旗手と呼ばれるアーサー・ミラーの地位を確立した彼の代表作です。
「経験も実績もある長塚さんには、近代戯曲の素晴らしいものを現代的な視点で創り直してほしい。」との白井のオファーに、「これほどに素晴らしい戯曲を読むことはなかなかない。しっかり向き合って、今の時代にどう響くのか、ということを考えていきたい。」と長塚。
現代の日本・家族にも通じうる、競争社会の問題、親子の断絶、家庭の崩壊、若者の挫折感など、第二次世界大戦後に顕著になったアメリカ社会の影の部分を鋭くえぐった本作を、発表から半世紀以上を経た2018年、長塚演出で現代を生きる観客に問います。
実力派俳優が紡ぐ、家族の絆、普遍的な人間の姿
主人公ウィリー・ローマンには、40年以上にわたり舞台・映像の第一線で華のある実力派俳優として走り続ける風間杜夫。97年から取り組むひとり芝居や落語、「ハリー・ポッター」全シリーズの全キャラクターを一人で演じ分ける朗読など、常に新たなジャンルに挑戦し続け、4月には『リトル・ナイト・ミュージック』でミュージカル初出演を果たします。その妻リンダ・ローマンには、映像や舞台で活躍する片平なぎさ。舞台出演は、『木の上の軍隊』以来5年ぶりとなります。主人公の長男ビフを演じるのは、舞台や映像で独特の存在感を示す山内圭哉。近年は、長塚圭史らと「新ロイヤル大衆舎」を結成し、精力的に活躍中。主人公の次男ハッピーは、小劇場からミュージカルまで話題の舞台作品に欠かせない個性派俳優、菅原永二が演じます。主人公の上司ハワードには、阿佐ヶ谷スパイダースの伊達暁、ビフの友人バーナードを演じるのは劇団「拙者ムニエル」の看板俳優、加藤啓。バーナードの父で、ウィリーの友人チャーリーには、舞台・映像で渋い演技が光る大谷亮介。主人公の兄ベンは、昨年上演された『子午線の祀り』阿波民部重能での存在感が光る演技も記憶に新しい実力派俳優、村田雄浩が演じます。
日本演劇界を牽引する長塚圭史のもと、個性豊かな実力派キャストが集結する『セールスマンの死』に、ご期待ください!
【STORY】
かつて敏腕サラリーマンであった主人公のウィリー・ローマンは、60歳を過ぎ、かつてのような精彩を欠き、家庭内の問題も抱えて、過去の思い出にすがっている。2人の息子たちも30歳を過ぎても自立できず、妻のリンダは夫を尊敬し献身的な愛をささげているが、自身をとりまくさまざまな問題に必死に耐えている。夢を叶えるにふさわしい仕事こそセールスマンであると信じてきたウィリーが、家族のため、そして自分のために選んだ道は・・・
【演出家・出演者コメント】
長塚圭史(演出)
恐ろしい戯曲です。演出する余地などほとんど許されていないようでいて、どこまでも自由に飛び回れるような余白もある。いつかこれだけの戯曲と向き合える日があったら幸い、とほとんど夢見るような心持ちでおりましたが、まさかこうして本当に実現することになろうとは。『LAST SHOW』と『マクベス』で風間杜夫さんとご一緒したことは、私の劇人生において最も貴重な経験となっています。その風間さんがウィリー・ローマンを引き受けてくれたことによって、扉は開かれました。或るありふれた男の、理想を抱いた父親の、そして愛すべき夫の生涯と彼の家族の心象が見事に描かれた戯曲です。ウィリー・ローマンは目まぐるしく進歩する世界の中で何を見たのか。「生きる」ということをじっとりと深く見つめたこの作品を、ずっとご一緒したいと願っていた片平なぎささんをはじめ、素晴らしいキャスト・スタッフと共に上演出来ることに、いや、でもやっぱり恐怖と、それでいて途轍もない期待に胸が膨らむばかりなのです。
風間杜夫(ウィリー・ローマン役)
この作品が世に生まれたのは1949年。僕と同い年である。以来、現代社会の普遍的問題を内包した話題作として重ねて上演され、日本でも印象的な公演実績を残している。その評判は耳にしたが、観る機会を逃していた。いま台本を手にすると、俺もこんな深い役をやる年齢に達したのかと、あらためて思う。僕はセールスマンの経験を持たないが、時を刻むように急ぎ足で役者稼業を続けてきたことを振り返ると、生き方はそれ程遠いものではないかもしれない。役者としての力量だけではなく人間そのものが問われる時に来たような気がして、いささか身が震える。いや、信頼できる演出家と楽しい共演者が一緒だ。同じ時間を生きたこの作品に、僕の全てをゆだねてみよう。
片平なぎさ(妻/リンダ・ローマン役)
数少ない舞台経験の中でも翻訳劇は二作品目となる『サラリーマンの死』。不安と期待にもうソワソワザワザワ。どうにも落ち着かない自分がいます。誰からも必要とされなくなった老いた夫、追い詰められ苦しむ夫のたった一人の理解者である妻リンダは、私にはまるで聖母のように見えます。長年連れ添った夫婦の間に流れる空気感とは・・・。難しい芝居が要求されそうです。「スチュワーデス物語」以来、35年振りにご一緒させていただける風間杜夫さんに心を寄せながら、才能あふれる長塚圭史さんに沢山の肉付けをしていただきたい思いです。自分が、この先、舞台人として生きていけるか!?チャレンジ精神を持って臨みます。