高田聖子、竹井亮介 インタビュー|月影番外地 その6「あれよとサニーは死んだのさ」

劇団☆新感線の女優・高田聖子が、劇団公演とは違った試みに挑戦しようと立ち上げたユニットをルーツに、現在もなお「高田聖子の新しい側面を開拓する」ことをテーマに公演を行っている「月影番外地」。25年目となる今回は、劇団「はえぎわ」のノゾエ征爾が脚本を手掛け、ある車に乗り合わせた人々の日常のようなやりとりから、人の“みじめさ”を見つめていく物語となっている。新たな挑戦を前にした高田聖子と竹井亮介の2人に話を聞いてきた。


——今回の月影番外地は脚本をノゾエ征爾さんが書かれるそうですね。

高田「そうなんです。今回の舞台では、まず車があって、いろんな人が乗ったり、降りたり、通り過ぎたりする中で、いろいろなことが起きるお話です。ノゾエさんに書いていただくのは初めて。勝手にノゾエさんの作品を私が観ていまして、ファンでした。書いていただくにあたって、どういうふうにしていけばいいかなぁと考えたんですが、とにかく最近一緒にやりたかった人たちにお声かけをして、皆さんに御了解を頂いて…それで、「こういう方たちとやりたいです」とノゾエさんにお話しました。あと、最近はこういう感じが好きですとかもお話しまして、あとは自由に書いていただこうかと。前回までの3本を福原充則さんに書いていただいて、その前には千葉雅子さんにも3本書いていただいたんですが、私はお2人ともすごくファン。大好きなんですけれども、好きな方であっても同じ方と3回連続以上やるのはやめておこう、と決めてるんですね。密着しすぎずに、次の冒険をしていきたい。それで、次はノゾエさんだ!となりました。」


——もともとファンだったということですが、ノゾエさんの魅力はどういうところ?

高田「ノゾエさんの作品の良さって、今までやってきたこととは少し肌触りが違う感じがして、新しい挑戦ができるんじゃないかと思ったんです。徐々に物語を構築していく感じとは違って、あるタイミングで物語がキュッとひとつになる瞬間が来るんですね。そこに思いがけない感動がやってくる感覚がとても快感なんですよ。そこに惹かれました。」


——高田さんからは、先ほど「一緒にやりたかった方」というお言葉がありましたが、竹井さんは今回のお話を受けてどのような印象でしたか?

竹井「とにかくビックリしました。今まで、客演させていただく機会はたまにあるんですけれど、複数回も呼んで頂くことはそう多くなかったんです。無くはないんですけど。だから、また呼んで頂けるとは全く予想していなくて「い、いいんですか!」っていう気持ちでした(笑)。まだ内容もこれからの部分が多いんですが、期待値がすごく高くて、ノゾエさんの脚本でやるのもはじめてですし、未知の領域に踏み入れる感じでワクワクしています。」

高田「前々回にご一緒したんですけど、すごく真面目な方なんですよ、竹井さんって。真面目って、一番大事なことで、真面目に面白いって一番いいじゃないですか? 適当なことをやって笑うよりも、真面目にやって面白い方向に進むのが好きだとおっしゃってたんです。今回、具体的にコレをやるからこのキャスト、という形ではなかったので…6人ぐらいがいいかな、男性3人なら女性も3人で、男性で少し若い人が1人いるといいかな、とふんわりと考えて行く感じだったんです。そこで、竹井さんは私たちのスタッフの中でもとても人気者なんです。」

竹井「(笑)。そうだったんですか!」

高田「そういうスタッフの声もたくさんあって、お願いしました(笑)。好きな人や一緒にやりたい人を挙げて行ったらやっぱりキリがないので、いろいろスタッフにも相談していく中で、パズルのピースのようにじゃあこの人かな? といろいろな声が上がるわけです。その時に、一番人気が高かった(笑)」


——今回の企画を拝見していると、人が目をそむけたくなるような「みじめさ」に向き合うお話になりそうな気がしましたが、いかがでしょうか。

高田「「みじめ」っていう言葉って難しいですよね。人が見て「みじめ」なのか、自分で「みじめ」だと思うのか。今は「みじめ」って何だろう?という気持ちでいます。ちょっとギャップがあると思うんですよ。人が誰かを見て「みじめだな」と思うことと、本人の思う「みじめさ」にはちょっと誤差がある。世間的にはお金もあって幸せそうなんだけど、本人は何かものすごく「みじめ」と感じていたり。みじめと幸せ、生きていくことはみじめなのか…。そういうことを考えて行くことや人の感じ方を考えて行くことが、今回のポイントになってくるんじゃないかと思っています。」

竹井「同じことをしていても、それを「みじめ」と感じる人と、全然それを感じずに幸せだと思う人もいると思うんです。はっきりした定義が無いんですよね。感じ方次第、捉え方次第で「みじめ」にもなり「幸せ」にもなる。本当なら、何でもポジティブに捉えていったほうがいいんでしょうけど、なかなかそうもいかないし。」


——今回も演出は木野花さんが手掛けられます。木野さんらしさ、というのはどういう部分だと感じていらっしゃいますか?

高田「木野さんらしさというか、決まった木野さんのスタイルって、無いと思うんですよ。蜷川作品の重厚感とか、新感線のインチキくささとか、木野さんは木野さんそのもの、というか。作品に木野さんがその都度ゼロから真っ向勝負で挑んでるというのが、木野さんの作品の出来上がりになっていると思うんです。もしかしたら、他の方が観たときには「ここが木野さんっぽいね」というのがあるのかもしれないんですけど、私は長くご一緒しているけど、どれもいつも違う感じがするんです。一貫していることはもちろんあるんですけど、一目で「これだ!」と言えるものでは無いような気がします。稽古はいつだって木野さんが先頭で旗をふってくれるんですよ。ハッと後ろを振り向いたら「早く行けっ!」って顔をしていたり、ある時は遠くで笑っていたり(笑)。あちらこちらにいろんな木野さんが居る感じです。」

竹井「結構、ゲラゲラと本当に大笑いされますよね(笑)。」


——先頭で旗を振る役でもあり、後ろから尻を叩く役でもあり、観客として笑う役でもあると(笑)

高田「誰よりもお芝居を愛してるんだな、っていう感じがしますね。」

竹井「大先輩ですよね。木野さんから出てくるパワーが凄いんです。みなぎるものが。感覚もお若いですし、見習わなきゃなというところがたくさんあるんですよ。尊敬しています。」


——「月影番外地」は高田さんの“新たな側面を開拓すること”もコンセプトのひとつとお聞きしました。今回はどんな新たな部分が出てきそうか、予感はありますか?

高田「毎回、出てきて欲しいなと思ってます(笑)。私はそんなにオープンな人間ではなくて、でもいつだってオープンになりたい。お芝居をやるときは、もっとオープンな人間でありたいんです。いつもそう思っています。服を脱ぐわけじゃないけど、余計なものを取り払いたい。取り払って、何か出てきたらいいな、と。何かが出てくる準備を…すぐ脱ぐ準備を(笑)、私もしていかないといけないですね。脱いでも何も出てこないかもしれないけど、いつでも脱げるようにしていたいです。」


——竹井さんは前回出演されてみて、何か新しい自分の発見はありましたか?

竹井「僕は…前に出たときの役が、水虫の菌を持っていてそれを自分で培養している男だったんですね。体全部に培養できるように、ビニールで蒸れる状態を自分で作っている、というようなことをさせられ…いや、させていただいたんですね(笑)。そんな突拍子もないこと、僕には想像もつかなかったんだけど、前半でやっている人の役柄と結び付けていかなきゃいけない。それが大変な作業で、うまく出来たか分からないんですけど、とにかく面白かったんです。新しい何かが出てきたような気がしますね。」


——今回も、どんな新しいお姿が拝見できるか楽しみです。

竹井「短い期間ではありますが、こんなメンバーが集まることはそうそうありません。映像作品など記録に残るものでもありませんが、こんな演劇人が揃っていれば面白い作品になることは間違いないので、ぜひ生で体感していただきたいと思いますね。」

高田「完全に手前味噌ですが、月影番外地は関係者からの期待がとても高くて、みんな楽しみにしてくれています。別に関係者ウケを狙ってやっているわけではないんですが、関係者が良いと思ってくれるのは…だいたい良いんです(笑)。この6人が揃ったことも期待してくださっているという声をお聞きします。とはいえ、関係者の目は厳しいですから、それに応えたいと思いますし、初めてご覧いただく方にも楽しんで頂けるように。絶対に楽しくしますので、ベテランっぽいからって怖がらずに(笑)、ぜひいらしてください。」

インタビュー・文/宮崎新之
写真/ローソンチケット