ONWARD presents 劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season 鳥 Produced by TBS 粟根まこと インタビュー

IHIステージアラウンド東京のこけら落とし公演として話題を集めた『髑髏城の七人』Season花。続いて幕が開くのは、キャストも演出もガラリと変えた『髑髏城の七人』Season鳥だ。阿部サダヲ、森山未來、早乙女太一、松雪泰子といった、突出した身体能力を誇る演劇人が集結した。

 

このキャスティングを活かし、歌、ダンスの入ったショーアップ版になるというから、正統派いのうえ歌舞伎だった“Season花”を見た人も、もちろん初めて観る人も大いに楽しめるはず!そんな“Season鳥”に、<渡京>役で出演するのが、劇団☆新感線の劇団員・粟根まことである。そもそも『髑髏城の七人』は、劇団☆新感線が1990年に初演した作品で、以来、7年ごとにキャスト・演出を変え、上演されてきた作品。“Season花”で6度目、“Season鳥”で7度目となる。
粟根は、初演、再演、2004年『アオドクロ』版、2011年の通称「ワカドクロ」版に出演し、今回5度目の出演。劇団員として成長を見つめてきた『髑髏城の七人』を振り返りながら、“Season鳥”はどんなスタイルで我々を楽しませてくれるのか、見どころを予想してもらった。

 

──『髑髏城の七人』は劇団☆新感線にとってエポックメイキングな作品ですが、1990年、どんな経緯で生まれたのでしょうか?
粟根「すでにいろんな人が語っているかもしれませんが、『髑髏城の七人』は、もともとはいろんな偶然がなした作品なのです。大もとは、昔やった『星の忍者』(86、88)で、織田信長には天・地・人と3人の信長がいたという設定があり、それが面白いなと言ってできたのがこの作品なんですよ。しかも、この作品のちょっと前に『西遊記』というお芝居をやったときに、古田新太が出番を間違えて、出トチリをしたんですね。古田は次の衣裳に着替えるためにパンツ1枚になって、楽屋でタバコを吸ってたんです。で、パッと舞台を見たらその1つ前のシーンだってことに気付いて。慌てて元の衣裳を着直して飛び出して行ったんですが、その前30秒くらい間が空いてしまった、というエピソードがあります。それを聞いた中島(かずき)といのうえ(ひでのり)が怒って「じゃあ、おまえ、次の作品は休ませない!」「タバコを吸わせない!」と。それで「一人二役、しかも良いものと悪ものの主役」という設定でできたのが、〈捨之介〉と〈天魔王〉を一人でやるっていう企画だったんですね。だから偶然出来上がった作品なんですよ。」

 

──初演から大評判になったそうですが、若い劇団ならではのトラブルなどもありましたか?
粟根「もういろいろ……。池袋にある東京芸術劇場の前にある広場に仮設テントを組んでやった公演だったんですけど、とにかく稽古時間が全然足りないまま、劇場に入りました。ゲネプロどころか、通し稽古もできないまま、場当たりという各シーンを当たることをやって。一番最後に「バーンと7人が並んで曲が鳴って終わりな」っていう口頭の打ち合わせだけで、客入れが始まって、初日の幕が開いたんですよ。曲がガーンと盛り上がって照明がバーンと当って7人が並んで、ラストっぽい感じなんですけど、照明さんは音響が下げたら照明を消そうと思っていて、音響さんは照明が消えたら音を消そうと思って、2人で見合っていて。曲はガンガン鳴るわ照明はビカーッて照らすは、7人は「明かりも落ちないし曲も落ちない、どうしよう」って。センターにいた古田がスッと後ろを向いてちょっと遠くを仰ぎ見るような芝居をしたら、みんなそれ見て「あっこれだ」と思ったんですね、全員が後ろを見て遠くを仰ぎ見た。そうしたら照明さんも音響さんも「あっ終わりだな」と思ってスーッと暗くなって終わったんですよ。」

 

──(爆笑)
粟根「そんな初日だったんですけれども、アンケートに「ラスト全員で後ろを向いて遠くを見ているのがかっこいいです」とか書いてあって。「いやいや偶然だよ」って。とにかくこの初演に関しては、劇団が大きくなり始めてきた頃で不備な点が多く。東京芸術劇場の前の大きな噴水の前に組んだ仮設テントだったんですけど、噴水が舞台の裏にあるもんだから、女の子が一人落ちて。ずぶ濡れの着物のまま舞台に出てきて、なんだこれはってなった、とか。繁華街の中にありますから、外の音がすごくうるさくて、〈捨之介〉と〈沙霧〉の静かないいシーンで、遠くから「い〜しや〜きいも〜」って聞こえたり。「これから二次会行く人、手を挙げて〜」っていう幹事さんの声が聞こえたり。っていう公演でした。でもいろんな天の采配に恵まれ評判が良くて、97年、2004年、11年と上演し、作品としてみなさんに愛していただいて、今回こんな大きな企画に繋げることができたんだなぁと思っております。」

──今回、IHIステージアラウンド東京で、1年3カ月のロングランをする、と聞いたとき、どう思われましたか?
粟根「もう狂気の沙汰だと思いました。でも、劇団員にも小出しにしか情報をもらえていないのです。『髑髏城〜』は7年に1回やっておりますので、2018年にやるだろうな、とはみんなうっすら思っていたんですが。それとは別に「なんか新しい劇場が出来てそこで新感線が長くこけら落としをやるらしい」っていう情報が入ってきて。そのあとに「その劇場は本邦初の客席が回る劇場だ」っていう情報が入ってきて。「シーズンを分けていろんなチームでやる」っていう情報が入ってきて。しかも、それが正式に劇団の上層部からくるんではなく、客演にいらっしゃる方々から「今度髑髏城出るからね、よろしくね」ってご挨拶されて。「は?あっ、髑髏城やるんだ、しかもいろんな人に頼むんだ、チーム分けなんだ」と小出しにしか入ってこないから、本当に実感のないままここまできてしまいました。そして“花”の幕が開き、“鳥”の稽古も始まり、現在に至っています。」

 

──“Season鳥”は、歌とダンスが入るショーアップ版と言われていますが、現段階でどんなことが言えますか?
粟根「そもそも、色里・無界の里のシーンは、初演から実はダンスのシーンがあって華やか、という設計になってるんですね。それを2004年「アカドクロ」「アオドクロ」を続けて上演するときに、「アカドクロ」は歌も踊りも削ぎ落として、「アオドクロ」で歌も踊りもある、と差別化したのです。だから今回は、アオドクロ的に派手なシーンは派手にやるということになっているようなんですが、実は私まだ1回もダンスと歌の稽古を見ていないので、それについては語れないんです。主に松雪(泰子)さん演じる〈極楽太夫〉がセンターで歌って舞って。髑髏党の右近(健一)くんが戦いながら歌ったり。これはいつもの新感線ぽくもあり、“花”とは違った楽しみがあるんじゃないかと思っています。ただ、ドーナツ型の舞台で歌って踊るのは、いのうえ以下、スタッフ、キャスト全員が初めて挑戦することですから。舞台を使っての稽古で、見せ方、聴かせ方、いろいろな方策を練らなければならないでしょうね。」

 

──今回、粟根さんが〈渡京〉を演じるのは3回目。どのような役どころでしょうか?
粟根「〈裏切り渡京〉というあだ名でやってますので、もう、とにかく裏切る役です。気持ちよくトントン裏切っていければいいな〜と思っています。〈渡京〉は今回で3回目なんですが、僕がやっていないときは河野(まさと)くんが〈裏切り三五〉をやっていて、“花”でも彼がやっています。河野くんは4回、回数でいうと僕より多いんですね。だからみなさん、裏切り役といえば〈三五〉と思い出されるかと思われる。しかし、今回はですね、オリジネーターとしての〈裏切り渡京〉を、これがオリジナルだというのを見せたいという心意気です。中島かずきにも「裏切りの真髄を見せてやってくれ」と言われています。」

 

──粟根さんは、策士のような役を演じることも多いですが、脚本は“当て書き”の新感線において、裏切り役、策士役を任されるというのは、ご本人にその資質が?
粟根「大阪で学生演劇をやっていた頃、新感線に所属するかしないかの頃に、自分の大学の劇団にも新感線にも、関西のいろんな学生演劇にも顔を出していたんですね。それで「どこに所属するんだ」みたいな話になって「じゃあ新感線に」と決めたんですけど。その当時、あいつはいろんな劇団に顔を出してる、コウモリだ、ってあだ名で呼ばれてまして。それから6年くらい経って、髑髏城で当て書きされてしまったんです。だからオリジナルは私なんですが、河野くんあの口先だけの薄っぺらさっていうのも捨てがたいものがありますね。新感線が初めてABキャストシステムを取った『スサノオ〜武流転生〜』(94)という作品で、僕と河野くんが対で裏切り役をやったことがあって。裏切りというか、胡散臭い役をやらせると合う2人なんでしょうね。なので、今回、“花”と“鳥”、〈三五〉と〈渡京〉の因縁をですね、みなさんに確かめて頂きたいと思います。」

──“Season鳥”のメインの3人についてもお聞きしたいのですが、まず〈捨之介〉阿部サダヲさん、今、どんな仕上がりでしょうか?
粟根「いや、もう流石ですね。今までの〈捨之介〉って、古田くん、市川染五郎さん、小栗旬くんと、みんな違ったけれど、シュッとしていて粋な感じっていうのは共通していたんです。それが今回は飄々とした感じの〈捨之介〉なんですよ。忍びとして地を這う「地の信長」っていうキーワードから引っ張ってきているので泥臭さもあり、身を切らせてでも血を吐いてでも天魔王を倒す、という雰囲気がすごく出ているんです。実に阿部さんらしい。いろんな現場を渡り歩いてきた大人計画の看板俳優・阿部サダヲならではの〈捨之介〉になっていて、多分、“花”と一番違うのは〈捨之介〉だと思いますね。」

 

──〈天魔王〉森山未來さん、〈蘭兵衛〉早乙女太一さんはいかがですか?
粟根「この2人は「ワカドクロ」と同じ役なんですね。「ワカドクロ」では私もご一緒させていただいてますし、お客様も観た方も多いかと思いますが、まぁ見どころがたくさんあるお2人です。前回を踏まえての今回があるので、一段も二段も絶対ステップアップしようと思っているはずですし、アップしていると思います。って、私、3回目の〈渡京〉、ステップアップはしてないのですが(笑)。まぁ、「ワカドクロ」の頃は2人とも若かったのですが、夫になりパパになるなど人生の転機を経ていますから、その変化が絶対に役柄に出てくると思います。“花”よりも全体に年齢も高く、子持ち率が上がっていることもあり、作品にどっしりとしたニュアンスが出てくるんじゃないかなぁと思います。」

 

──最後に、ファンのみなさんへメッセージをお願いします。
粟根「“花”が豪華なキャストだとすると、“鳥”も豪華なんですけれども、どちらかというと演劇系の人が多く、そして劇団経験者が多いんですね。大人計画だったり朱雀だったり転球劇場だったり。それぞれ劇団に所属したことのある人間。さらに西日本の人が多いんですね。関西あるいは九州の人。というところで、なんかちょっと別のチームワークはあると思うんです。そして、新感線経験者がすごく多くて。〈沙霧〉の清水葉月さんを除くと新感線に最低1回は出てもらってる方ばかり。いのうえの演出を受けていただいている方ばかりなので、いのうえの要求するニュアンスの伝わりも早いですし、“鳥”ならではのチームワークというか劇団感を、そして西日本感を感じていただける作品になると思います。もともと髑髏城はギャグシーンが多いのですけれども、“花”を観てて笑えるシーンもたくさんあったのですけれども、やっぱり笑いのシーンだったら“鳥”が絶対勝つ、と。キャラの濃い奴らが揃ってますので、綺麗でおしゃれな“花”や“風”ではなく、もっと派手でゴチャゴチャしてて、泥臭い“鳥”を楽しみに来ていただければ。夏休みですからね。是非ともご家族で。」

 

──子どもさんや中高生も楽しめそうですね。
粟根「楽しめますね。“花”を観たときに「これはアトラクションだ」と思いまして。客席が動くという発想がテーマパークにあるライドに近いので、お子さんでも楽しんでいただけるんじゃないかと思います。中高生も熱くなれますよ。髑髏城がやりたくて芝居を始めた高校演劇部の人たち、という知り合いがいまして。今そういう子が演劇の現場に上がって来ています。あの「中2病」って言い方がありますけれど(笑)、言い換えると……伝記ロマンあふれる作品ですので、特に中高生男子にはたまらないんじゃないかと思います。学生さんもちょっと高いですけどもね、是非夏休みを利用してお越しいただければと思います。ローソンチケットよろしくお願いします(笑)。」

■プロフィール■
粟根まこと アワネ マコト
1985年『ヒデマロ2』より劇団☆新感線に参加。マッドな博士から薄幸の美男子まで幅広く担当し、現在の劇団の中枢を担う存在。リズミカルで軽妙な動きと独特な声を武器にコメディーからミュージカルまでこなす芸達者ぶりは評価が高い。イラスト、雑誌コラム執筆など多彩。劇団公演以外の近年の出演作に、舞台『SKIP』(17)、『夜の姉妹』(15)、『真田十勇士』(15、13)、『つんざき行路、されるがまま』(14)、映画『これでいいのだ!!映画★赤塚不二夫』(11)、ドラマ『仮面ライダーウィザード』(13)など。

 

インタビュー・文/みよしみか
撮影/村上宗一郎