IHIステージアラウンド東京のこけら落とし公演として、先日好評のうちに幕を閉じた『髑髏城の七人』Season花。次いで、“Season鳥”が開幕した。このバージョンは、ダンスや歌が入るショーアップ版になるという。キャストには、〈捨之介〉演じる阿部サダヲをはじめ、森山未來、早乙女太一、梶原善、池田成志といった、劇団☆新感線への客演の常連舞台人たちが集結している。色里「無界の里」の女主人、極楽太夫には松雪泰子。彼女もまた劇団☆新感線は4度目の客演だ。開幕前、稽古終盤を迎えた日のインタビューで、だいぶ形が見えてきた“Season鳥”について、見どころを聞かせてもらった。
──まず、この作品へのオファーがあったとき、感じたことから聞かせてください。
松雪「『髑髏城の七人』は大好きな作品なので、お話をいただいたときは純粋に嬉しかったです。ただ、劇団☆新感線の作品はハードなことも知っていますから、IHIステージアラウンド東京での公演となると、ステージも大きく、いつもにも増してハードなんだろうな、と。相当の覚悟を持って挑まなくては、と思いました。」
──極楽太夫は、肝が据わったカッコイイ姐さん、といった役ですが、“Season鳥”ならでは、松雪さんならではの太夫、どんな雰囲気になりそうですか?
松雪「今回の『髑髏城〜』は、“花・鳥・風・月”とで全く違う演出で、変化させていくということです。極楽太夫の役は、ワカドクロ(2011年版)も“Season花”も、わりとシリアスに、心情の部分がよく描かれていたと思うのですが、今回はだいぶ違うイメージだと思います。“Season花”をご覧になった方が、あのイメージで来られたらビックリするんじゃないかというくらい、違う演出になっています。極楽太夫のベースをキープしつつ、どこまで“Season鳥”のテイストを入れられるかを探りながら、最終の稽古をしています。」
──ダンスや歌が入るとのことですが、太夫も歌い踊るのでしょうか?
松雪「無界の里のシーンは、歌も踊りも入ります。ダンスのテイストは、「恋ダンス」のMIKIKOさんの振り付けですから、和風ではありませんが、物語に寄せた形でとても素敵なシーンになっています。こうなるんじゃないかなという予測は常に裏切りつつ、展開していくと思いますので、楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。私に関しては、どちらかといえば踊りよりも歌がメインです。ハードに踊っているのは、無界屋の女子チームですね。MIKIKOさんの振り付けは、普通の体の使い方とはやはりちょっと違っていて、流線的な動きに見える、クイックな動きも多いんです。ほんのちょっとした体の使い方ひとつで、MIKIKO先生のダンスらしい美しさが出るか出ないかが変わってくるので、無界屋の女子チームは、“鬼練”していますよ。MIKIKO先生は、それぞれのパートの振り付けをビデオで撮って送ってくださって、そのうえで、稽古場で非常に細かく指導してくださっています。とにかく稽古して体に入れるというのを、みんな死ぬほど汗をかいてやっていますね。」
──ダンス、歌、アクションととにかくハード。体調はいかがでしょう?
松雪「痩せましたかねぇ……。体重を落とさないようにキープを心がけているんですけど、どうしても動きが激しいので……。そういえば、“Season花”が閉幕して、さっそく、アクションチームがこちらの稽古場に手伝いに来てくれたのですが、公演中は「筋肉が削れる」と言っておりました(苦笑)。なかなかのハードさだと伺っています。“Season花”の面々は、戦場から帰ってきた男たちという感じでしたね。彼らの感想を聞いて、さらに「相当な気合いで挑まないと」と思いました。とにかく怪我なく最後まで完走することだよね、とみんなで決意を新たにしましたね。IHIステージアラウンド東京は舞台裏も広くて、私、方向音痴なので、迷子になったらどうしよう、と最初は言っていましたが、そんなことを心配している次元ではなかったです(笑)。」
──今回の“鳥チーム”は、新感線の常連が多く、また演劇ファンが好きなプレイヤーが多いのではと思います。他のキャストのみなさんの仕上がりはいかがですか?
松雪「私が何か言えるような立場ではありませんが、みなさん、素晴らしいですよ。それぞれに“Season花”とは違うものにしよう、という意識でやっているし、森山未來くん(天魔王)、早乙女太一くん(蘭兵衛)は、ワカドクロで同じ役をやっているので2回目なんです。ですから、今回はどう見せられるのかを模索しているんじゃないかな、と稽古を観ていても思いますし、そうしたいと2人も言っていました。ワカドクロとは全然違う〈天魔王〉と〈蘭兵衛〉になっていますよ。それから、池田成志先輩の〈贋鉄斎〉は、“Season花”の古田新太さんとは違う、成志先輩ならではの破壊力ある贋鉄斎になっていますので、ぜひ劇場でご覧になっていただきたいです。今回はキャストが全員、勝手知ったるファミリーっぽく、全員がリラックスしてやっている感じなので、もちろん緊張感もありますけど、いのうえ(ひでのり)さんも稽古場で笑顔が多いようです(笑)。」
──松雪さんは、劇団☆新感線への出演4作目です。新感線に初めてご出演されたとき、驚いたことなどはありますか?
松雪「いのうえさんの演出方法が独特なんです。セリフだけではなく、すべての動きを細かくつけてくださるので、ついていくのに必死でした。さすがに4度目なのでもう慣れましたけど。劇団☆新感線は、大人が真剣に最高のエンターテイメントを作ろうとしている劇団だと思います。いのうえさんの思いをひしひしと感じますし、今回、キャストを変えて“花・鳥・風・月”、4シーズンで表現していくというのも、演出家として大変なプレッシャーを感じることだと思いますが、そこに挑戦する姿勢は素晴らしいと感じています。その思いを受けて、我々がどこまで的確に表現できるか。歌もダンスもありますし、こなさなければいけないものが多いので、稽古場でも各セクション、補い合いながら稽古しています。毎日、夜9時くらいまで稽古しているでしょうか……。いやぁ、稽古場で観ていても楽しいので、お客さんもこれはきっと楽しんでいただけるのではと感じてます。」
──松雪さんは、映像作品ですとしっとりした大人の女性役が多いですが、新感線では、変顔をさせられたり、オモシロもやらされています。そういう役は案外ノリノリで?
松雪「ウフフフ、ノリノリというわけでもないですが……。楽しい作品は好きなので、観に来てくださる方が楽しんでもらうことが一番、と思ってやっています。今回は、劇場が大きすぎて変顔は伝わらないですから、ありませんけど(笑)……。〈贋鉄斎〉や福田転球さんの〈兵庫〉とからむところは、そこはかとなく、おもしろいかもしれません。全員が全員おもしろくなってしまうと、話がわからなくなってしまいますので、ドラマはキープしながら、各シーンによっては、そういった要素も入れつつ、進行していくと思います。」
──最後に、ファンのみなさんへ、メッセージをお願いします。
松雪「インディ高橋先輩が言っていたんですが、『髑髏城の七人』は、劇団が若いときに書いた作品なので、基本的に全力で肉体を使って大声を出して、ものすごい熱量でやる作品だ、というのがベースにあるんだそうです。だから、同じような熱量でやらないと成立しないし、おのずとそうなっていくんですよね、と。いろいろな面で、多分、新感線ファンにとっては、馴染み深い、安心して観られるような感じになるんじゃないかな。それでいて、おお、こう来たか、と思ってもらえるんじゃないかな?と。“Season花”をご覧になった方でも違いを十分に楽しめると思います。」
■プロフィール■
松雪泰子 マツユキヤスコ
1972年生まれ。91年、TVドラマで女優デビュー。その後、数々の映画、ドラマ、舞台、CMで活躍。2006年には映画『フラガール』で、日本アカデミー賞優秀主演女優賞、日刊スポーツ映画大賞主演女優賞を受賞した。2008年には、『デトロイト・メタル・シティ』『容疑者Xの献身』で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。日本を代表する演技派女優として幅広いジャンルの作品で活躍している。近年の主な出演作に、ドラマ『グッドパートナー 無敵の弁護士』(16)、映画『古都』(16)、『鋼の錬金術師』(17、12月公開)、舞台『るつぼ』(16)、『キレイー神様と待ち合わせした女ー』『背信』(14)など。
インタビュー・文/みよしみか
Photo /村上宗一郎