松居大悟、目次立樹、大歳倫弘インタビュー|85年生、コメディ芝居にかける思い

松居大悟、目次立樹が所属する東京の劇団ゴジゲンと、京都の劇団ヨーロッパ企画の劇団内ユニットとして大歳倫弘が主宰するイエティ。どちらも1985年度生まれのメンバーを中心にコメディ演劇を上演し続けている。次回作、ゴジゲン『ポポリンピック』(12月21日〜)とイエティ『スーパードンキーヤングDX』(1月21日〜)について紐解きながら、彼ら3人の出会い、芝居づくり、コメディまで話を聞いた。


――みなさん同い年ですね。いつから知り合いなんですか?

大歳「大学生の時、僕は京都の劇団ヨーロッパ企画で文芸助手(演出助手)をしていたんです。そこに松居君が「手伝わせてください」とわざわざ東京から来たんです。それで2人で演出助手をしたのがきっかけですね。まだゴジゲンが旗揚げする前だったけど、「すごいやつが来る!」と話題になったんですよ。大学の演劇サークルのカリスマみたいな奴らしいぞ、と」

目次「松居、カリスマだったの?」

松居「そんな言い方したの誰よ(笑)」

大歳「すごいやつが来るんだ……って身構えてたら、良い意味で裏切られました。『こち亀』の中川みたいな完成した奴が来るかと思ってたら、まだまだこれから発展途上のような彼が来てくれたので、すぐ打ち解けましたね」

松居「俺がヨーロッパハウス(ヨーロッパ企画の拠点)に到着した時、大歳がテレビゲームしてて「あ~、あがりなよ」って言われたの。たぶん知らん後輩と思われて(笑)それで一緒にむちゃくちゃ『ウイイレ(ウイニングイレブン)』して楽しかったな。今でも大歳が東京に来る時には飲んだりするし、なんか、ほっとする」

大歳「一緒に演出助手をして、いろんな苦楽を共にしたので、すごくシンパシー感じてます。それに、同じ歳の劇作家同士ってあまりしゃべる機会がないし、数も少ないんですよね。松居君は唯一理解してくれる立場なので、困ったら相談するようにしています」


――目次さんはどのタイミングで知り合ったんですか?

目次「2011年に初めてイエティを観に行ったのが、今回続編をやる『ドンキーヤング』だったの。それがめちゃ面白くて!でも終演後に「劇作家の大歳君です」と紹介されても本人はずっとうつむいてるから……挨拶もそこそこにスッと帰りました。でも、去年一緒に舞台をやったら、ものすごく喋る人でビックリした」

大歳「昔はちょっと心塞いでたんです(笑)。でもいろいろ喋ったら、けっこう趣味が合ったんだよね。食べ物とか健康とかの話が合って、盛り上がった」

松居「へえ。俺は目次と共通することないもんなぁ」

目次「こいつとはまったく合わないな~~~~~」

大歳「よく続いてるよな、ゴジゲン」

松居「(笑)」


――そんなゴジゲンの新作『ポポリンピック』。この企画を聞いた第一印象は?

大歳「やってんなー!と。東京五輪の時に「リンピック」とつくタイトルだなんて、また時代に対して挑戦をしてるなって。やっぱり松居君はカウンターの男なんですよね。楽しいコメディなのに、世間に対して噛みつくところがある。尖ってるというより、燃えたぎっているような感じ。ほんわかじゃなくて、世の中に石を投げて波紋を呼ぶような作品を作るのかなって感じました」

目次「でも最初に聞いてたのと話が変わったんですよ。オリンピックと、身体に障害を持つ方のパラリンピックがあるなら、精神に障害を持つ人間は何リンピックなの?ポポリンピックだろ!と。その設定は跡形もなくなったけど」

松居「調べたらあったんですよね、そういうのが」

大歳「気まずいね。気まずい瞬間だね。でもあるある」

松居「発想としては、2020年に舞台をやることになって、みんな知ってる東京オリンピックを避ける方が変だろうと思ったの。それでゴジゲンにとってのオリンピックってなんだろうと考えたら「選ばれなかった人達の話だな」と思ったんですよね。まぁ、あとで調べたらちゃんとあったんだけど(笑)」

――だからキャッチコピーが「選ばれなかったら、作るまでさ。」なんですね。ちなみに、『ポポリンピック』の“ポポ”ってなんですか?

松居「カタカナの「オ」と「パ」を重ねたら「ポ」になるんです。あと「ポ」がね、好きなの。破裂音と濁音が好き」


――ここ数作は「愛」を追求する物語が続きましたよね。『ポポリンピック』でもキャラクター設定は「愛」を基準にしていて、目次さんの演じる「ポポ」は“愛を知らない男”だそうですね。

目次「そうですね。愛を知らないポポ」

大歳「オオカミに育てられたとか、そういうこと?」

目次「まぁ、遠からずですよ」

松居「当てにきたな」

大歳「いや、そんなつもりじゃ……申し訳ない」

松居「まぁ、役の組み立てですね。お客さんに伝わる必要はないけど、「この役はどういう人物だろう」と自分や役者が迷った時の指針です」

大歳「へえ。でもベースがあると役者さんが揺るぎないよね。僕はそんなに愛の種類を書きわけられないなぁ」

松居「まぁ、結局は愛なんですよね。愛しかないんじゃないかな」


――どんな物語なんですか?

松居「実はまだできあがってないです(12月1週目時点)。というのも、昨日、台本を半分ボツにしたんですよ。稽古しながらずっと違和感があったので、書き直すことにしました。僕はオリンピックを題材に、それにまつわる人達の物語を描きたいのに、やっているうちにオリンピックそのものへの主張が見えるようになってきた」

大歳「ああ~、良くないね。そもそも面白いからやってるだけでしょ?」

松居「そう。笑える芝居が創りたいだけなのに、題材はやっぱり敏感な所があって」

大歳「時事的な話題って難しいよね。こっちが意図してなくても、お客さんがいろいろ想像しちゃう。でも「違うな」っていうのは台本を書かなきゃわからなかったことでしょう」

松居「そう。書いて、稽古場で試さないとわからなかった」

大歳「じゃあ大事なプロセスだね。作品を創ってるって感じだ。良いですね!」


――ゴジゲン公演は第16回ですが、今回ならではの特徴はありますか?

目次「……松居君が台本を書くのがえらく早かった」

松居「書いてボツにするのも早かったけど(笑)」

目次「あと、いつもと一番違うのは、木村圭介という客演がいることなんですけど……全然気にならないんですよ。いつものゴジゲンメンバーでやっているような感じです」

大歳「でもこれまでは、オリンピックみたいな具体的なものじゃなくて、「愛」とかもう少し現象的な題材が多かった気もする。ここまでわかりやすいテーマはなかったかも。だから悩むところでもあるのかもしれないですね。なるほどなぁ」


――大歳さんのイエティ『スーパードンキーヤングDX』についても聞かせてください。2011年に上演した『ドンキーヤング』の続編にあたるそうですね。

目次「聞きたいわ~。俺、めちゃくちゃ笑ったんだよなー、『ドンキーヤング』」

大歳「あれは、ヤンキーがヴィレッジヴァンガードに入ってサブカルに目覚め、サブカルヤンキーになるっていう話なんですよね。上演した当時はサブカルが流行ってたし、ヤンキーも多かったけど、でもこの10年で大きく変化したでしょう。だからこそ、続編をつくったらぜんぜん別の作品になって面白いんじゃないかなという期待があってこの作品に決めました」

目次「どんな感じになるの?」

大歳「これまでは続編や再演は考えたことがなかったんですけど、ちょっと一度はやってみようかなと思った時に、今の時代に解釈しなおして続編と再演を同時にやったら新たな挑戦になるかな、と思ったのね。最初は前回の公演と続編を1時間ずつくっつけて2時間の芝居を創ろうと思ったんだけど、それはさすがに長過ぎるなと思って、1作品の中で前作のことも描きながら、同時に今の時代のこともやるという、ちょっと不思議な構成にしています。だから“ニコイチ”と呼んでいます」

松居「だから二面舞台が使えるように下北沢・小劇場B1で上演するの?東京ではよく駅前劇場でやってたのに」

大歳「まぁ、そういうことも考えてみたりはしています。どうなるかな……。あと、ヤンキー役を演じた中川晴樹さんが昔ポツッと「この作品ならもう一回やってもいいかな」と言ったことがあるんですよ」

目次「中川さん、面白かったもんなぁ」

大歳「普段そういうこと言わないんですけど、気に入ってたんだなぁと思った(笑)本人は照れ屋なので「そんなこと言ってないよ」と言うでしょうけどね、僕は覚えてますから」

松居「良いね。しかもちゃんと時代をとらえてる。サブカルというものの意味がなさなくなった現代を描いてるんでしょ?」

大歳「うん。僕はそう設定してますね。タイトルも『ドンキーコング』からですし」


――では、せっかくなのでお互いの公演の見どころを他者紹介してください!まずはイエティについては?

目次「やっぱり前回の『ドンキーヤング』がめちゃくちゃ面白かったからなぁ。最初はたぶん「へー、同世代の劇団なの?ちょっと観てやろうじゃないか」みたいな感じで観に行ったら、舞台でこんなに笑うなんて!と自分でもビックリしちゃった。あれから時間と経験を重ねているからって面白くなるとは一概には言えないですけれど、期待していいと思うんですよ」

大歳「ひとつ付け加えておくと、たぶんこの劇は目次さんにはすごくハマったんですよ。ほかのお客さんはそんなことなかったですよ」

目次「僕、ヤンキーでしたからね」

大歳「目次さんしか笑ってない時間があったよ。シーンとしているところに目次さんの笑い声が響いてたよ」

松居「目次にハマるなんてあまりないから!」

目次「そうね。目次の超一押しです!」

松居「でも、観て楽しいことは間違いないと思うんですよ。ただね、大歳が選ぶテーマってめちゃくちゃニッチな時がある……すごいところを突いてくるんです。だからハマる人にはものすごくハマる」

大歳「そうなんですよね。僕、コアすぎるテーマで大外しすることがあるんです。正直、打率3割ぐらい。でも、たまに当たる面白さってあるでしょう?」

松居「でも自分が知らないテーマでも、芝居としては面白いから。もし興味がハマってたらより一層面白いという話。今回はテーマが“サブカルチャー”なので、いろんな人が安心して楽しめると思います」


――ゴジゲンについてはいかがですか?

大歳「ゴジゲンは観逃せない感がある。松居君が今考えてることや、ゴジゲンのメンバーが今創っているものは押さえておかないといけない感覚になる。松居君のコメディはいつも「愛」をテーマにしながら、その時期の彼の考えが投影されている。だから、芝居と一緒に、ゴジゲンという劇団のドキュメンタリーを見ているような感覚になるんですよ。芝居も楽しいし、劇団のドキュメントも楽しい。だから2倍楽しい」

目次「おいおいおい、説明うまいな」

大歳「追いかける面白さがある劇団なんです。劇団がもう芝居みたいなんです。だからこの先もずっと観続けたい」

松居「説明が上手だなー!良いこと言うなぁ……」


――今回、どちらもツアー公演ですよね。いろんな場所で上演するのはなぜですか?

松居「1回行くと、お客さんが「また来てください」って言ってくれるんです。あと場所によって感想が全然違うので、次の作品が育つ。経済的には、いろんなところに行くほど大変にはなるんですけどね」

大歳「未来にとって大事になってくるというのはありますよね。反応も全然違うし、お客さんが入りづらい土地もあるけど、それが目標になったりもします。うちの劇団は京都にあるので、多くの人に観てもらいたくて東京でも上演するというのもありますね」


――上演する地域によって違いはありますか?

大歳「東京は若い方が多いのと、観劇に慣れていて、お芝居の世界にスッと入ってくださる方が多いですね。あと、うちの劇団はずっと京都でやっているんですけど、みなさん目が肥えているので育ててもらっていますね。厳しいけど、すごく応援してくれる」

目次「ちゃんと笑いを観に来てくれてる感がありましたね。東京は『演劇を観る』という雰囲気だけど、京都は『コメディを楽しむ』という感じで笑いのエンジンがかかるのが早い気がします」

松居「北九州は最初は静かなんですよ。たぶん観ないタイプの芝居だから、始めは唖然としているけど、30~40分くらいして「あ、こういうふうに観ればいいのか」とわかると、すごく盛り上がる」

大歳「あ、これコメディなんだ」って気づいてもらうまでに、地域によって時間差がある。僕たちはお互いコメディをやっている数少ない団体なので、仲良くやって、なんとかコメディや楽しい劇を少しでも増やしたいですね」

取材・文/河野桃子