“詩”に己を捧げた詩人たちが紡ぐオムニバス
碓井将大、辻本祐樹、木ノ本嶺浩、林剛史、加藤啓が大はしゃぎ?
ひとり、またひとりと稽古場に訪れる役者たち。にこやかに挨拶を交わし、それぞれに準備を始める──と思いきや、いきなり舞台のど真ん中で木ノ本嶺浩さんが台詞を放つ。と、まるで待っていたかのように碓井将大さん、林剛史さんが台詞を返し、くるくると周りで踊りだす。その様子を気にするでもなく、辻本祐樹さんと加藤啓さんは談笑し、柔軟体操を始める。やがて仮に組まれたステージのそこここから台詞が聴こえ、声が交差し、役者たちが動き回る。ちなみに、まだ稽古は始まっていない。けれどこれが彼らなりの準備なのだろう。「はい、じゃあ」と静かにスズカツさんが言う。とたんに、しん、となり、空気がパリッ、と引き締まる。「一回、通します」その言葉で全員が静かにステージ上の自分の立ち位置へ。今度こそ稽古の始まりだ。
スズカツさんの稽古は怒号が飛び交う……なんていうことはなく、とても静かでていねいだ。木ノ本さんを囲み、にぎやかに踊る碓井さんと林さんに「盛り上げる場面ではあるけれどばらばらすぎる」「個々が勝手に盛り上がるのではなく観客に向けるタイミングをそろえてきれいに」「(林さんは)背が高いから、ふたりがぐにゃぐにゃ動くときにぴんと立っていたほうが際立つよ」と、それぞれの動きと身体の対比とバランスを見極めて、この場面で観客に届けることは何か? を具体的に言葉にする。役者はその意図を受け取り、解釈し、演じることで自身のものとする。ただ単に騒がしく動いているように見えて、実はとても緻密に繊細に一瞬をあわせていく。その上で、まったくもって野放図に見えるように、演じる。すごい。それは台詞運びも同じ。「反射的に振り向くのではなくて、この単語を聴いてから振り向いてほしい」とスズカツさん。段取りで動くのではなく、誰かの思いから発せられた言葉に別の誰かが反応し、それがさらに次の反応を呼び、連鎖してうねりとなり物語が生まれていく。もちろん台詞だけでなく、台詞にあわせて飛び出たしぐさに思わず笑いがこぼれる一幕も。名を告げるだけなのに加藤さんの動きがおもしろい。辻本さんと木之本さんが会話しているだけなのにその様子が奇妙で愉快。会話、動き、気配、指先からつま先、視線、そのすべてで作品世界を楽しませるため、全力を尽くす5 人の役者がそこにいた。
登場するのは高村光太郎、萩原朔太郎、北原白秋、芥川龍之介、森鴎外、そして中原中也などの詩人、文豪たち。「智恵子抄」「月に吠える」「汚れちまった悲しみに・・・・・・」といった広く知られる詩をモチーフに届けられる、鈴木勝秀さんの意欲作がここに。
撮影・文/おーちようこ