つかこうへいの没後10年を迎える2020年、つかこうへい演劇祭として、彼の作品が連続上演される。その口開けとなる作品、舞台「飛龍伝2020」の稽古がマスコミ向けに公開された。
主人公の神林美智子を務めるのは、欅坂46のキャプテン・菅井友香。菅井で8代目となる神林美智子役は、近年では広末涼子、黒木メイサ、桐谷美玲と、名だたる女優たちが演じてきた役どころ。その大役に食らいつく菅井が、渾身の叫びを稽古場に響かせた。大声を上げながら稽古場になだれ込む男たち。その中に、赤いウェアを身に着けた、見た目通りの紅一点・菅井がいた。拳を突き上げ、声を張り上げて、男たちの士気を上げる。その目つきは鋭い。男たちに囲まれても物怖じする様子も見せず、乱闘騒ぎに参加して男を殴り倒す場面もあった。四国高松から上京した神林美智子(菅井)は、全共闘作戦参謀の桂木純一郎(味方良介)に出会い、全共闘の委員長に祭り上げられてしまう。そして最終決戦を前に、美智子は機動隊員・山崎一平(石田明/NON STYLE)の部屋に女として潜入することになる。桂木に恋心を抱く少女としての姿と、全共闘を束ねる委員長としての厳しく強い女としての姿。目まぐるしく揺れ動く2つの表情を、菅井は全身で表現していく。全員での群舞、菅井による歌披露など、短時間ながら全身全霊、体当たりで役に臨んでいることをしっかりと実感できる稽古となっていた。稽古後の取材で、菅井は「中高と女子校で、欅坂でも女の子ばかりなので、(自分以外は男性キャストばかりの稽古は)最初はすごく緊張していて…皆さんの声量や汗に圧倒されていたんですが、今では落ち着く空間です」と新境地にも馴染み始めているとコメント。演出の岡村俊一は「よく真っ白なキャンバスなんて表現をしますが、(菅井は)稽古をしてからの感想は真っ透明。透き通るように透明なんです。こんなに純粋な人に出会ったことがない、逸材だと思います」と絶賛した。囲み取材での主なやり取りは以下の通り。
――歴代たくさんの女優が演じた神林美智子に挑む今の気持ちは?
菅井「チャンスをいただけると聞いて、すごくびっくりしました。偉大な女優さんが演じてこられた大切な役を受け継いでいけるように、精一杯、真摯に向き合っていきたいです。プレッシャーが無いかと言えば嘘になりますが、とにかく前向きに頑張ります」――稽古は大変?
菅井「最初は慣れなかったんですけど、ほかの皆さんの演技にや迫力に圧倒されて…。でも、そんな汗や涙を流しながらやっている姿に私も心が揺さぶられて、感情を出す素直な気持ちを受け止めようと思いながら挑んでいます」
――殺陣のシーンもあるが?
菅井「すごく大変ですが、欅ならではの力強いダンスがこの飛龍伝でいきていると感じています。今までのすべてを含めて、この舞台で出し切りたいと思います!」
――菅井さんは稽古場でどんな感じ?
石田「すごい頑張るんですよ。弱音も吐かないし、日々進化がえげつなすぎて、ちょっと焦ってるんですよ(笑)。一個ヒントを得たらバーッと行っちゃうんで、そこまでやられたら…みんなで一緒に行こう?ってなる。本当にそれくらいすごい」
味方「本当にそんな感じなんですよ。序盤は男性陣が引っ張らなきゃって感じがあったんですけど、今は引っ張ってくれてる。どんどん先に行っちゃうので、僕らがそれを掴みに行ってるんですよね。大変です(笑)」
石田「ギャップがすごいよね。稽古のことを”お稽古”って言っている人が…(笑)。あんなにハードな稽古をやるなんて。驚いています」――大きなステージの経験はあると思うが、今回の舞台の違うところは?
菅井「今までは与えられた歌詞をダンスや歌でどう表現していくかを一生懸命学ばせていただきましたが…。お芝居で、こんなに…一人の女性として生きるっていうこと、細かい感情を理解することは難しかったです。でもその理解していく中で、まだまだなんですけど、自分のひとつのセリフの奥にある情景や過去を表現できるようにしていきたいです。例えるのも違うかもしれないんですけど…(舞台は)「不協和音」や「ガラスを割れ!」がずっと続いているみたいな感情です。その中に喜びや笑いもあるんですけど。それくらい、精神的にくるものがありますね」
――今後の課題は?
菅井「欅坂の中で滑舌があんまりよくないって言われているので…まずはそこを改善しないと。(演技のことより)もっと前のところからやらないとですね。つかこうへいさんにお会いすることはできなかったですけど、伝えたかったこと、周りを信じられる力が美智子にはあって、物語の中でたくさんの人に出会って、人を信じて決断してきたので、それを私も重ね合わせてお芝居の中で、皆さんを信じて頑張りたいです」
――最後に、楽しみにしている方にメッセージを
菅井「「飛龍伝2020」は、ずっとつかさんの作品を愛してくださった皆さんにも、知らなかったという今を生きる皆さんにも、伝えたいことがたくさん詰まった作品です。皆さん、ぜひ見にいらしてください!よろしくお願いします!」
取材・文/宮崎新之