稽古場レポート|劇団4ドル50セント×劇団柿喰う客コラボ公演「学芸会レーベル」「アセリ教育」

2020.01.30

稽古場を見ていた2時間、絶えず誰かしらの笑い声が聞こえていたような気がする。秋元康がプロデュースを手掛ける劇団4ドル50セントと、中屋敷法仁率いる劇団柿喰う客のコラボ公演の稽古場にお邪魔させてもらった。今回のコラボ公演では、中屋敷の作・演出のもと、1月30日より「学芸会レーベル」「アセリ教育」の2作品をDDD青山クロスシアターにて上演される。初日まであと数日ほどと稽古にも熱が入る1月某日、稽古場ではキャストたちが伸び伸びと、生き生きと、作品に食らいついていた。

稽古の冒頭では肩慣らし的に、キャストと中屋敷とでレクレーションが行われた。円陣になって、数字を1からカウントアップして行くのだが、最初の人は誰かを指さしつつ、別の人の名前を呼ぶ。名前を呼ばれた人はカウントアップ。カウントされたら、指を差された人は次の誰かを指さしつつ、次にカウントアップする人の名前を呼ぶ。これをテンポを保って1から100までカウントしていくのだが、シンプルなようで難しいもの。時折、詰まってしまってやりなおす場面もあったが、かなりのスピード感で数字がカウントされていき、数字が進むにつれキャストらの呼吸が合っていく。そして、そのスピード感がその後の稽古でのセリフ回しにつながっているように感じられた。

 

この日見学した稽古は「学芸会レーベル」。西暦20XX年、完璧な育児環境を備えたとある幼稚園には、イタズラばかりでにぎやかな幼稚園児が通っている。そんな園児たちを、せんせいならではの驚くべきテクニックでいなしていき、園の秩序が保たれていた。そこに伝説の女が現れて「学芸会」を企てるというストーリーだ。

3時のおやつをとってしまったり、“まねっこ”をしてせんせいやおともだちを困らせたり、目にも止まらぬカンチョウでおやつの恨みを晴らしたりと、園児たちはやんちゃ盛り。なぜかべらんめぇ口調の園児えまちゃん(岡田帆乃佳)が、物語の狂言回し的な役割を担っているのだが、説明っぽいセリフもべらんめぇ口調によって随分と楽し気に聞こえてくる。「キラーン☆」などセリフや動きがいちいちキャッチーなみゆきせんせい(福島雪菜)、園児にふりまわされがちなしょうこせんせい(前田悠雅)も、かなり個性的なキャラクターだが、役はすでにしっかりと掴めているような印象だ。劇中には誰しも馴染みのある童謡を歌う場面や、たくさんの童話が一緒くたになって出てくるので、そこにもぜひ注目してほしい。

そして印象的だったのが、稽古場で一番笑っていた人物は中屋敷だったのではないかということだ。机に突っ伏して笑ってしまっているような場面も何度もあった。キャストの動きやシーンの意図を「ここは大河ドラマのような熱い感じで!」と細かく伝えていく場面ももちろんたくさんあったのだが常に笑い顔で、稽古を誰よりも楽しんでいるのが中屋敷だったのではないかと思えるほど。

そんな中屋敷の雰囲気を受けてか、稽古場にはやわらかな空気が流れ、一筋縄ではいかない展開や思いもよらない方向性の場面であってもキャストが自由に演技に挑んでいるように見えた。2つの劇団のコラボとなると、それぞれの劇団の温度差が見えてしまったりすることもあるかもしれない。だが今回の稽古場にはそんな印象は一切無かった。遠慮も驕りもなくしっかりと混ざり合い、作品作りに向き合っていることがうかがえた。そこも、中屋敷の手腕だろう。稽古場に流れる一体感に、本番の成功を確信せずにはいられなかった。

また、今回の公演ではもう1作品「アセリ教育」も上演される。こちらは個人主義の暴走から教育機関が完全にマヒしてしまった世界で、政府は人権無視のスパルタ教育「アセリ教育」を断行、落ちこぼれたちが政府に反旗を翻すというストーリーになっている。思いもよらない展開が待ち受けているに違いないので大いに期待したい。

 

劇団4ドル50セント×劇団柿喰う客コラボ公演「学芸会レーベル」「アセリ教育」は、1月30日から2月9日まで、DDDクロスシアターにて上演される。

 

取材・文/宮崎新之

 

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