「熱海五郎一座」三宅裕司・紅ゆずる インタビュー

左:紅ゆずる 右:三宅裕司

三宅裕司が率いる「熱海五郎一座」の最新作となる舞台「熱海五郎一座 Jazzyなさくらは裏切りのハーモニー~日米爆笑保障条約~」が2020年6月に新橋演舞場にて上演される。新橋演舞場でのシリーズ第7弾となる今回は、ゲストに宝塚歌劇団の元星組トップスターで退団後初舞台となる紅ゆずると、昨年にAKB48総監督を退任した横山由依を迎え、戦後の闇市を舞台にしたコメディを展開していくという。果たしてどのような舞台になるのか、座長の三宅と、紅に話を聞いた。


――今回の企画はどのように動き始めましたか? 紅さんは宝塚歌劇団を退団後、初の舞台出演となりますが、出演が決まったときのお気持ちは?

三宅「昨年の6月くらいに作家と打ち合わせをしたときに、戦後の闇市からのし上がっていくジャズシンガーっていうのをやりたいね、と話をしていました。そこから作家が、じゃあ考えてみると動きはじめまして、上がってきたシノプシス(あらすじ)を読んでみたら…これは面白いな、と。もちろん、音楽の要素が入ってきますし、ぴったりの人が来てくれたと思っています。当然、宝塚歌劇団の方は歌もダンスもお芝居もできますから、あとは笑いの要素がどれくらいあるのか、と楽しみですね。」

「こんな豪華な一座にゲストとして出演できるなんて、こんなにありがたい話はないと思いました。私は笑いに対してとても興味がありますし、笑いにもいろいろジャンルがあると思うんですけど、とても緻密に計算してやっていく笑いって、普通の悲劇とかよりも難しいと思うんですよ。間合いも難しいですし、その日によって違うもの。そういうものを敏感にキャッチするような繊細なお芝居としての笑いですよね。きっとそれを分かっていらっしゃる方々だと思っています。それを自分で体感して、やっていきたいと思います。初めての女役ですから(笑)」

 

――笑いについては、昔から興味深かった?

「私の中に宝塚歌劇団のイメージがあって、もちろん皆さんそれぞれの中に違うイメージがあると思うんですけれど…私は宝塚に居るときも、こういう宝塚があってもいいんじゃないか、と思ったものを自分でやっていました。それを面白がってくださったのが、最終的に良かったんですね。今回は、それともまた違う笑いの要素だと思うので、勉強していきたいと思います。」


――プロットについて、なぜ今回のようなアイデアになったのでしょうか。

三宅「戦後の闇市、ってみんなが必死になっていて緊張感がありますよね。ギャグに必要なものって、緊張感なんです。緊張感があって必死に生きているからこそ、失敗したことが笑いにつながる。その時には笑えなくても、傍から見ていると笑いになるんですね。だから、必死になっている、緊張感のあるものをいつも探しているんです。前回は隕石が地球にぶつかるのをどう阻止するか、っていう地球規模の緊張感でしたよね。あとは、僕自身が音楽が大好きで、ジャズもやっているので、ジャズもよく題材にするんです。カッコいいジャズをやって、そのあとズッコケるという落差。東京喜劇と銘打っていて、特に定義はないんですけど(笑)、そういう落差の大きさが東京のカッコいい喜劇だと自分では思っているんです。そういう意味で、戦後の緊張感とカッコいいジャズ、そこで生まれるギャグと落差。そこで、戦後の闇市から生まれるジャズシンガーというキャラクターが生まれたんです。」――舞台はアメリカ、ということになるんでしょうか。

三宅「アメリカが舞台です。敗戦国がアメリカ。それでいて、架空の物語ではないんですよ…。そこは楽しみにしていただきたいところですね。アメリカにいる日系アメリカ人のジャズバンドのお話で、日本とドイツが戦勝国。紅さんは日独同盟軍からくる中佐の役になります。戦後、日本に来たマッカーサーが民主主義とはこうだ、とか日本に対して教え込んで行きましたが、その逆を紅さん演じる中佐がやっていきます。あとはゲストにAKB48の横山由依ちゃんが重要な役で出演してドラムもやります。由依ちゃんの演奏で紅さんが歌う場面も出てくると思いますよ。実はまだ紅さんには細かいところまでお知らせしていないので…」

「そうなんですね! と今、知らされています(笑)」


――横山さんとはお会いになられましたか?

「いや、まだなんです。でも関西出身の方なんですよね? なので、そこだけを頼りに(笑)、仲良くなれたらと思っています。AKB48の総監督をされていたことも、すごく大きいと思うんですよね。全員のことを見るためには視野が広くないといけないですし、自分がきっちりしていないと相手にも言えない。それは自分もトップスターを経験して分かっていることなので、きっと共感できるんじゃないかな。まだ全然わからないですけど、きっとそうなんじゃないかと思っています。」

三宅「真面目で一生懸命にやる人だな、と思いましたね。もともと具体的な印象があったわけじゃないんだけど、何度か会ううちにそう思いました。ピアノとドラムができるということで、今回の設定には大変かもしれないけど、チャレンジしてもらいます。」


――ちなみに、一座のメンバーは何やら秘密練習をしているそうですが…?

三宅「そうなんですけどね、実は…言っちゃうと秘密じゃなくなっちゃう(笑)。まぁ、でも音楽関係ですよ。みんな練習しています。さっきからの流れで行けば、わかっちゃいますけどね。このメンバーがですよ?(笑)。もうどうなってもいいようにしておかないとね。」


――三宅さんと紅さんが初めて会った時のお互いの印象はいかがでしたか?

三宅「初めて会ったのは…衣装合わせ?」

「その前に(劇団SETの舞台を)観劇させていただいて、ご挨拶させていただきました。」

三宅「そうだった。楽屋に来ていただいて、まずは背が高いな、と。あとね、吸い込まれそうでした。変な表現ですけど、本当にそういう感じだったんですよ。今日お会いしてみても、そういう惹き込まれる魅力のある方だなと思いますね。」

「私はもう…本物だ!って(笑)。番組の司会をされていた時のポーズを、テレビの前で一緒にやっていたんですよ。だから、ダメなんでしょうけど、お会いした時はもう、すごーい!って、ただのミーハーでした。でも「いいものを作りましょうね」とおっしゃっていただいたときに、“違うんだよ、私はもうこちら側の人間なんだよ”って自分に言い聞かせて(笑)。お会いした日が、退団して5日目だったんです。まだ辞めたてホヤホヤで、男役の恰好しか持っていませんでしたから、そのまま“お願いしまーす!”って乗り込んでいったような感じでした。番組で観ていたときの印象が強かったんですけど、とてもあたたかくてやわらかい、紳士なんですよね。」

三宅「見てくれていた番組のときは、ツッコミ側だったからね(笑)」――紅さんは今回が退団後初のお芝居ということで、何かこうしてみたいとか、今抱いているイメージなどはありますか?

「私自身、まだ漠然としか今回のお芝居について分かっていないんですけど、自分の出発点というか、一番最初に立たせていただくものになりますから、振り返った時に“あそこが原点なんだよな”と、自分の中で誇らしく思えるようなものがあったらいいなと思います。皆さんプロフェッショナルな方々ですし、自分自身をそこまで高めていけるように。そこに自分がどういう役割で入っていけるかとか、今までとは全然違う見方ができるようになれたら。仕事面でもそうですし、自分自身を見つめなおす点としてもそう。自分自身にも、期待しています。」

三宅「…紅ゆずるの、人生を背負いました。」

「(笑)」


――ジャズが題材ということで、音楽の部分も気になります。

三宅「音楽は、1曲もう出来上がっているのがありますね。その他にもある曲をアレンジするんですが、おそらく皆さん知っている曲だと思います。そして、ラストの凄いシーンの曲は…これから交渉です。こんな歌、どうでしょう?って(笑)」

「おお! 初耳です。いつ話が来るんだろう…(笑)。音楽もですけど、私って立ち回りありますか?」

三宅「そこもこれからご相談です。」

――立ち回りもやりたい?

「いやぁ、やりたいですね~。台本に書き込まれていることを期待します!」

三宅「なるほど。わかりました!」


――これは楽しみが増えましたね。

三宅「東京喜劇のカッコよさを作りたいと思っていて、素に戻ることの無いように作ってるんですけど、お客さんは素に戻っちゃうことを期待してるんですよ。素に戻ったように見えるかもしれないけど、それが本当に素かどうかはわからない。計算かも知れないしね。すべて軽演劇という形の東京喜劇という新しい形を作りたいと思っています。昔のものをそのままやるワケじゃない。だから、素かどうかがわからないような形でやるほうがいいと思います。ダンスや歌は、あくまでもレベルを高く。ギャグは、あくまでもバカバカしく。その落差で、感動のストーリーを爆笑で最後までもっていく。これが目標です。「熱海五郎一座」のポリシーは“豪華なセットにセコいギャグ”ですから。セコいギャグのリーダーがリーダー(渡辺正行)ですね(笑)」「私自身、コメディに興味がある理由のひとつとして、悲劇と喜劇で最後にどっちが残りますか?ってなった時に、人ってきっと喜劇を選ぶと思うんですよ。辛いときに辛いものを観るのが好きな人もいますけど、でも、それだけでは生きていけない。辛い時にこそ、笑いを観て、その時だけでも辛いことを忘れられる。笑いってすごくこちら側も計算しないといけないし、簡単そうに見えてすごく難しいことをやっているところに興味があるんです。悲劇って、シェイクスピアとかもそうですけど、ちょっとの幸せさえも全部不幸にするみたいな感じで、ずっと暗いまま話が進むじゃないですか。もちろんそれも計算あってのことですけど。でも、喜劇って落とすものがないと上げるものがないんです。三宅さんがおっしゃっていたように、ギャップですよね。人もギャップが魅力的に見えたりしますから、自分にもギャップを見つけていきたいし、皆さんのギャップを楽しみたいと思っています。私にとっての喜劇は、ギャップですね。」


――「熱海五郎一座」の過去公演の資料なんかはご覧になられましたか?

「もちろんです。ただ、ひたすら笑っていました(笑)。“めっちゃ面白い!もう一回巻き戻ししよ…”とか思ったんですけど、“本当は生で観ないといけないのに、DVDで観てるからって巻き戻ししたらダメだ!”って思いなおして、巻き戻さずに観ました(笑)。やっぱり、体感しないといけないから、巻き戻しはナシ! でも、今のはアドリブ?芝居?とかが分からなかったり、三宅さん以外がお芝居しているときも、絶対に三宅さんは監督して居るはず!と思って注目したり。きっとこうした方が面白い、とか思ってるんじゃないかとか。そういう感じで観てました。」


――ちなみに三宅さんは舞台に立っているときはどんなお気持ちなんですか?

三宅「やっぱり、どんなことがあっても俺に任せておけ、っていう気持ちで立ってますね。そうすると、緊張が取れるじゃないですか。もし何か失敗しても必ず笑いに持って行ければセーフですから。シリアスな芝居だと笑いにもっていけない。何があっても、笑いに持っていくから大丈夫だよ、と。お互いにみんなを信頼していれば、どんなバカなこともできます。」

「本当にすごくジェントルマンだし、甘えが無いんですよね。台本も、今こんな感じで…って見せずに、絶対に面白いものにするからもう少し待ってて、と言えることってスゴイことだと思うんです。でも、絶対にコレをやって、ということじゃなくて、三宅さんが示してくれることに対しての覚悟と気持ちがすごく大きくて、なんて気持ちいい方だろうって思います。」

三宅「笑いってほんと、結果が出ちゃうんですよ。これやってみてって言って、シーンとしちゃったら…ごめん!恥かかせちゃった!ってなるから。やってくれって言うからには、ドーンとウケないとダメ。だから、どんどんハードルが上がってるんですよ。今の一言でまた悩んじゃう。大丈夫かなって(笑)。人生も背負ってるし…」

「いやいや…(笑)」


――でもその心意気は本当にすごくカッコイイです! 紅さんが見逃さずに注目したくなった気持ちがわかります。その他にも注目したところはありましたか?

「あと、新橋演舞場という場所なので、歌舞伎などで使われる鳴り物の音もすごく面白かったですね。そうだ、ここって歌舞伎をよくやっている劇場だ、って気持ちになりました。」

三宅「宙乗りとか花道をこの一座がどう使うかっていうのはね。宙乗りをこう使うか!みたいな。ウチは、死んだラサール石井をヘリコプターで運ぶためだけに宙乗りを使ったから(笑)。絶対、期待を裏切ってやるって思ってますね。」

「普通、そう使うでしょ、っていうところで使わないのが面白いんですよね。歌舞伎だときっとピークのところで宙乗りとかが使われるんだと思うんですけど、あえての死体(笑)。うまいこと、いい形で裏切るってすごい難しいことだと思うんですよね。」――新橋演舞場の新しい使い方を開拓していくわけですね(笑)。紅さんは退団されて、普段のライフスタイルの中でも新しいことがたくさんあったんじゃないかと思いますが、いかがですか?

「スカートに対して、今までは絶対に履けないって思っていたんですけど、今は履いてみたいなって思いますね。実際、お仕事ではスカートのこともあるんですけど、ファンの方のお気持ちを考えると…イヤリングひとつでも、すごく驚かせてしまうので。“イヤリング付けてる!!!”って。驚かれるだけならいいんですけど、いきなりスカートやアクセサリーを身につけるようになって、今までの紅さんじゃない!って思わせてしまうのも違うんじゃないかって思っているんです。ファンの皆様と一緒に、変化をともにしていきたいから、私は急激なことをやめています。」

三宅「だから、最初は軍服でね。」


――そこから衣裳さんと一緒に新しいチャレンジになっていくかもしれないですね。スカートに関しては気持ちの変化が少しあったようですが、きっかけはあったんですか?

「今までの“そんなことあるワケがない”っていう自分がいるのかもしれない。でも、女性は女性らしい恰好をして気持ちが上がるのは当然なのかも、とも思えるようになりました。男役としてカッコよく居るのが、自分としても、男役としても当然のことでした。けど、こうある“べき”で選んでいたところから、こんなのも付けてみたい、あんなのも着てみたいっていう、自分の心が動いているものを選ぶっていう変化が楽しくなってきています。それがスカートかもしれないですね。」


――ちょっと象徴的なものになっているかもしれないですね。衣裳にももしかしたらスカートがあるかもしれないですが…

「もう役柄なら“役だもん!”って(笑)」

三宅「そりゃ衣装も変化がありますよ。ストーリーの中で、その衣装になる理由が必ずありますから、注目していただければと思いますね。」


――最後に、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします!

「私自身、というよりも“一座の中に溶け込んでいるな”って思っていただけたらいいな、と思っています。一座の一員なんだね、って思っていただけるようにやりたい。私自身のファンの方もきっと来てくださると思うんですけど、このカンパニーの中に自分がどういう役割で溶け込めるかというのが目標なので、そこを目指して頑張りたいと思います!」

三宅「毎回、新しいものを作っているので、去年とは違う、その前の年とも違うというものを作っていきたいですね。宝塚の方にもたくさん出演していただきましたが、今回のように笑いが好きで、宝塚でも笑いをやっていたという方は初めて。そこが、また新しいものを作れるんじゃないかという気持ちになっています。宝塚ファンの方にも喜んでもらえるし、熱海五郎一座のファンの人にも「また違う笑いができたね」と言ってもらえるように、紅さんには期待したいです。きっと、今までに見たことのない紅ゆずるが観れますよ! 由依ちゃんはドラムをね、芝居やりながら楽器もやるというところで、また新しい面を見てもらえたらと思います。笑って感動できる、前知識とかも何もいらないお芝居ですから、気楽に観に来て、嫌なことを忘れて、明日からの仕事を頑張ろうって思ってもらえたらと思います。」取材・文/宮崎新之