左:渋川清彦 右:芋生悠
映画監督の豊田利晃が演出、脚本、映像を手掛ける舞台「怪獣の教え THE FINAL」が2020年4月24日より上演される。2015年、2016年に続く再演で、今回でファイナルとされる本作は、中村達也、ヤマジカズヒデ、青木ケイタによるバンドTWIN TAILの生演奏と、豊田の映像、そして役者が三位一体となった新感覚の舞台。キャストは窪塚洋介、渋川清彦が続投、芋生悠がヒロインとして新たに参戦することになった。自然豊かな小笠原諸島を舞台に、“怪獣”に触れた3人の行く先はどこなのか――。作品への想いを、豊田、渋川、芋生の3人に聞いた。
――今回でファイナルとなっていますが、なぜこのタイミングで再演し、ファイナルにしたのでしょうか。
豊田「もともと2回目に上演した後にも、すぐに再演したいという気持ちはあったんです。でもなかなかこのバンドと役者、そして音楽と映像と照明でこれだけのメンバーをまた揃えるのも難しかったんです。特に渋川さんはお忙しいから…」
渋川「そんなことないです、そうでもないです(笑)」
豊田「そういう訳でなかなか照準を合わせられなかったんです。この作品は資本主義社会に対するアンチテーゼのような内容だと思っているんですけど、2020年がそのピークになると思っているんです。今に相応しいんじゃないかと思っていて、これが最後になるんじゃないかって感じがしたんですよね。夏に東京オリンピックがあって、その後に経済が崩壊するんじゃないかなんて噂もありますよね。でもこの作品って、崩壊した後にやる舞台じゃない。その前にやりたかったんです。まさか、新型ウイルスがその前にこれだけのことになるとは思っていなかったけれど…劇中のセリフの中にも「ウイルスから逃れるように」なんて言葉があるんですよ。だから、今、このタイミングでこの舞台を観ることは、2015年、2016年の頃よりも胸に迫るものがあるんじゃないかな。より、腑に落ちるものになる気がしています。」
――渋川さんは前回、前々回とご出演されてみていかがでしたか?
渋川「あまり具体的な実感はなかったんですけど…今回は何かちょっと、ほんの少しですけど、余裕ができるんじゃないかな、と思い始めています。前回までは、まったく余裕がなかったんです。一番最初はもちろん余裕が無いし、2回目も箱がデカくなったし。もう必死で、ギリギリです。でも今回は、4年という月日なのか、なぜかはわからないですけど、初めて楽しめるかな?っていう気がしてるんです。初めてでもないか(笑)。でも、そういう感じなんですよ。セリフの言い方とかも、余裕が持てるかもしれない。窪塚とやってみてまたどうなるか、ですけどね。窪塚はけっこう余裕があって遊べたりしてるんですけど(笑)、僕は遊べなかったですね。窪塚の方がセリフも多いかも知れないんだけどなぁ。」
豊田「影の努力をしてたんじゃない? あと、彼(窪塚)はセリフを覚えるのも早いんだよね。やっぱ早く覚えた方が得っていうか、余裕がないとね。」
――芋生さんは今回初めてご出演されますが、お話が決まった時はどんなお気持ちでしたか?
芋生「豊田さんの作品が好きだったので、いつかご一緒できるといいなと思っていたので、純粋に嬉しかったです。出身は熊本の田舎だったので、地元にいた頃はそんなに映画を観てこなかったんですけど、上京してからたくさん観るようになって、その中で「青い春」とかに衝撃を受けたんです。「映画って面白い!」って。今回は舞台なんですけど、ご一緒してどんな化学反応が起こるか楽しみにしています。窪塚さん、渋川さんも尊敬する先輩だったので、共演できることも楽しみでした。」
――豊田さんにはどういう印象をお持ちでしたか?
芋生「私の写真集を作ってくださった方と豊田さんも一緒に写真集を作っていたり、あとは小泉今日子さんだったり、共通している仲間というか…人がたくさんいて、だからきっととてもいい人なんだろうな、って思っていました。なんていうか、私の知っている方たちが豊田さんとの縁をとても大事にされていて、それってお互いにいい形で影響し合っていないと続かないことじゃないですか。作品ももちろん大好きだったんですけど、人としても尊敬していました。」
――舞台出演としては、この作品が3本目になります。舞台の上に立つことについてはどのように感じていますか?
芋生「最初の舞台がコメディっぽいもので、2つ目は時代劇。そして今回もまったく違う感じの舞台なので、毎回ふりだしに戻っているというか(笑)。毎回が初舞台のような気持ちです。舞台は2回とも千秋楽の時に悔しい気持ちで終わっているんです。今までやってきたことは出来たかもしれないけど、そこを超えて観客の心を鷲掴みにできたかと聞かれると…そうじゃなかった。まだやれることがあったんじゃないか、って。今回がどうなるかは分からないですけど、いい悔しさが残ればいいなと思います。全力を尽くして、それでも悔しいっていうふうに思えたら。稽古の段階からそこに行けるようにしたいです。」
――「怪獣の教え」の先輩として、渋川さんは芋生さんにアドバイスをするとすればどんな言葉をかけますか?
渋川「どうだろう。芋生ちゃんは多分、大丈夫じゃないかな。今の段階でセリフも7割くらいはぼちぼち入っているから、あとは自由に楽しめるんじゃない?」
――脚本を読んだ印象はいかがですか
芋生「豊田監督も自分でおっしゃっていましたが、詩人みたいで(笑)。詩を読んでいるんですけど、自分の本当の心の気持ちを無駄がなく純粋に書かれている感じがするんですよね。読んでいると、グワッと上がってくるものがあって、楽しいんです。「人は船に乗る理由がある」っていう言葉は、読んだ段階から気になっていて、なんで気になるのかは分からなかったんです。それで先日、小笠原諸島に初めて行ってきたんですけど、着いたときにすごく納得したんです。「あっ、来たかったんだ」って。ここに来る運命だったんだ、っていう気持ちになって、そういうことだったんだな、と思いました。それをみんな多分、気付かないだけ。生まれて、体があって、心があって…でも、うまく乗りこなせていないんじゃないか。そんな気持ちになりました。」
渋川「2015年に書いているのに、今を予言しているような感じですよね。でも、それはずっと変わらないというか、普遍的なことを豊田さんは描いている。俺もどちらかと言えば、反権力というか、パンクとか好きなんでそういう気持ちはあるんだよね。そういうところに乗っからせてもらえて嬉しいですね。レベル・ミュージックが好きなんで、抗ってますよ。」
――台本を書くにあたって、意識されたのはどのようなことでしたか?
豊田「小笠原諸島、父島に住んでいて、なんとなく想像したことが主なテーマというか、書く要素になっているんですけど。東京から24時間も船に乗らないと行けない場所に着くと、その場所を満喫するというよりも離れた東京のことが良く見えてきた。そっちの方角を見ていた気がします。それだけの距離があるからこそ書ける内容で、東京に居たら書けなかった。水平線の向こうだからこそ書けたことなんです。そういう意味で、ギフトのような作品ですね。」
――小笠原から見た東京は、どんな景色だった?
豊田「もう二度と帰りたくないなって(笑)。でも、仕事は東京にしかないし、いつか帰らなきゃいけないけど。小笠原にいる人も、東京からの人って多いんですよ。逃げてくる人っていうか、東京が嫌になってくる人。そういう人が周りにいっぱい居るので、そういう気持ちもいっぱい聞きました。そういう視点で見えていた場所から、想像したことですね。」
――タイトルが「怪獣の教え」ですが、“教え”って師弟関係というか
豊田「小笠原諸島って海底火山の噴火でできた島で、原初の風景が残っているんです。それがまるで怪獣が居るようなフォトジェニックな景色で。ドキュメンタリー映画「プラネティスト」を撮ることになって、その映画の中にも使われているんですけど…初めてカメラを持って夕日を見に行った時に、雲が怪獣の形をしていたんです。あれは怪獣だ、と。それが初めてカメラを回した時でした。ちなみに、その雲を前回のチラシの裏で使っています。それで、怪獣と原初の風景ってぴったりだな、って。小笠原が舞台の映画って何本かあるんですけど、「ゴジラ」だって原作では小笠原から来ているんですよ。やっぱり昭和の時代から南の島には憧れもあって、ゴジラも生まれたと思うんですよね。原初の自然の象徴が怪獣だと思います。」
――今回の舞台は、バンドの生演奏、そして映像と音楽との融合も見どころになっています。演じる側としては、他の舞台などとの違いは感じられましたか?
渋川「音が生音で、こっちを見ながらやってくれる部分もあるので、ノッてきますよね。映像は僕らは観れないけど、色でなんとなくの雰囲気は感じられて、それも気持ちがノッてくるんですよ。セッションですよね。そこは違うなって思います。観客もかなり陶酔感があるんじゃないかな。映像も強烈だし、音楽も強烈なところがあるから。」
豊田「もともと(中村)達也さんとTWIN TAILというバンドで僕はVJでライブをやっていたんだけど、その前に役者がいたらトリプルで面白くなるんじゃないかっていう予感はあって、この形を作ったんです。それをやってた頃は、まだ「怪獣の教え」は全然動いてなくて。舞台をやってくれ、っていう話は上がってたんだけど、断っていたんですよ。嫌だって(笑)。でも、TWIN TAILの前に役者がいる、っていう形が成立するんだったら、やってもいい。でも、予算が3倍かかるんですよ(笑)」
――あまり他でやっていないことをやる、ってそういうことですよね(笑)。芋生さんはまだ経験されていない形ですが、どのようなものになると想像しますか?
芋生「映像資料では拝見しましたが、映像だと分からなくて。きっと、あのステージに立っている人にしか感じられないものがあるんだろうな、と思っています。音が鳴ったり、映像が動いたりすることで、一体になっているような感じがして、それによって役者のアクションも変わっていってるんだろうな。そのセッションを楽しめたらと思います。きっと、渋川さんと窪塚さんの感受性がものすごく強いんじゃないかな。すごく繊細に受け取らないとできないことだと思うんです。」
豊田「本当、けっこう繊細なことをやってるんですよね。ドラムとギターと、サックス&フルートの3人がいて、その前に役者が3人。客席の背後で僕が映像をやって、PAと照明で3人いて。この3・3・3の気持ちを合わせるってのがね。タイミングがあるから。」
渋川「でも基本、芝居に合わせてくれてますよね?
豊田「役者に合わせるシーンと、音楽に合わせるシーン、映像が合図で進んだり、混ざってますよ。」
芋生「でもすごいですよね。みんなが、みんなのことを思わなければいけない。」
豊田「それをお客さんには、ひとつの出来上がったものとして見てもらわないといけないからね。何かあっても、シレーッと(笑)。楽器の“ドン”のタイミングで出すのに、その“ドン”が来なくて、違うんだけどーってなってもね(笑)。」
芋生「そこを生で調整してるんですね。」
――本当に大変な調整が必要で、苦労が多そうですね
豊田「苦労が多いわりに、前回も前々回も5日間しかやっていないんですよ。7公演。だから、ちょっとやり足りない感じもあってね。ミュージシャンも楽しみにしています。」
――これだけのメンバーを集めると、そうそう長期間もできないという部分もありますよね。これから本格的な稽古に入りますが、楽しみにしていることは?
芋生「今は渋川さんと私だけでプレ稽古のような形ですが、ここに窪塚さんが入るとまた違うんだろうな。」
豊田「座長だからね。」
芋生「3人でやっていく中で“あっ、掴みかけてる”、“これから始まる”みたいな瞬間が多分、あると思うんです。そこに向かっていくのが楽しみ。そのフワッと湧き上がってくる感情を味わいたいです。」
豊田「バンドもいるからね。完璧を目指しすぎない方がいいかもしれない。ちょっと余地を残しておいた方が、1割くらい。バンドに合わせるっていう部分もあるので。」
芋生「なるほど! いいこと聞きました(笑)」
――有意義な時間になってよかったです(笑)。渋川さんはいかがですか?
渋川「最初に自分がひとりでしゃべるところがあって、音響のZAKさんがうまくエコーをかけてくれたりして“始まるぞ!”ってなるところとか、ちょっと笑えるドラマな部分もあったりとかするんですけど、そういうところをちょっと余裕をもって、周りをみながらできそうな気がちょっとだけしているんで。そこは楽しみですね。あとは4年経った窪塚とどんな感じになるか、かな。窪塚もね、けっこう引っ張ったりするんですよ。俺が何か言うのをずっと待ってて、延々と俺が言い続けなきゃいけない(笑)。そういうこともあったりするんです。」
――座長となる窪塚さんの印象はいかがでしょうか。芋生さんはもうお会いになりましたか?
芋生「ポスター撮影の時に会いました。なんかこう、お父さん、って感じです。」
――お父さん! でも、そういう年齢差でもおかしくはないんですね…
芋生「もともと想像していた印象は「GO」や「池袋ウエストゲートパーク」のキングのイメージがあって、もっと激しい方だと思っていたんです。そしたら、すごくお父さんって感じがして…「本読みとかしたい?」って窪塚さんから聞いてくれたり、気を遣ってくださって。本当に優しい人です。」
豊田「実際、子供もいますからね。本当にちゃんとした大人なんで。真面目に取り組むし、場の雰囲気を明るくして、積極的にいろんなことをやろうとしてくれます。あれこれ言ってくれるので、キャッチボールしながらね。」
渋川「窪塚からの提案も結構ありますよね。自分から発信する男なんで、俺にはない部分だな、と。ちゃんと見て、自分の言いたいことをセリフにしますよね。俺は書かれているものがすべてで、豊田さんの本っていう意識だけど、窪塚は自分のセリフにしてる。そういうところに余裕を感じますね。」
豊田「感性の反射神経もすごく良くて、普段からいろいろ、リリックも書いているし、アンテナを張っているんじゃないかな。想像することのアンテナ。そのうえで、例えばセリフを僕はこう言いたいんだけど、どうですか?って気を遣いながら言ってくれる。だから、やりやすいんですよ。すごくジェントルです。余裕を感じさせるのも座長だよね。俺は大丈夫だ、って見せること。」
芋生「自分の役割を、考えている感を出さずに、実は考えていらっしゃるんでしょうね。」
豊田「立場をよくわかっているよね。」
――そんな窪塚さんとともに「怪獣の教え THE FINAL」が上演されます。各々の意気込みとみどころをお願いします。
芋生「観てもらったら必ず感じる部分があるから、私は本当に同世代に観てほしくて。私の世代や、その下の世代。うまく言葉にするのが難しくて、それを私も探している段階ではあるんですけど。窪塚さんや渋川さんとは年齢も離れていて、役者としてもまだまだこれからなんですけど、私自身が感じる葛藤とかのリアルに感じていることをぶつけられたら。それが、私の役割だと思うし、私と同世代、下の世代にもそれが届くといいなと思っています。それぞれがみんな、何か探している舞台で、それがセッションで一つになる作品になると思うんですが、それはきっと公演の度に違うもの。この舞台の期間にしか観られないと思うので、ぜひ来ていただきたいです。」
渋川「ひとりでしゃべっているところで、笑いが起きればいいな(笑)。三度目の正直でね。」
豊田「いつも爆笑じゃないですか(笑)」
渋川「こういうことをいつも言われるので、プレッシャーなんですよ(笑)。それで鍛えられているんでね。でも、言葉がすごくいんですよ。この2020年にちょうどドンピシャだと思うんで、その言葉を聞き逃さずに。全部が最高なんで!」
豊田「2020年春に相応しい舞台になるような予感がしています。バンドと、役者と、映像音響照明が一体になって…僕自身が、どんな心境で挑むのか。その真ん中に挟んでいるお客さんのバイブレーションも影響すると思います。お客さんが暗いバイブレーションだったら、こっちはぶっ飛ばすように激しくなっちゃうだろうし、受け入れるような状況だったらスーッと入るようなものになるだろうし。2020年4月の状況次第だと思うんです。それがどういうものになるのか、楽しみにしています。」
インタビュー・文/宮崎新之