マームとジプシー「cocoon」 藤田貴大 インタビュー

傑作『cocoon』が5年ぶりに新演出で上演!

 

こうした記事にありがちな煽り文句ではなく、2013年に上演されたマームとジプシーの『cocoon』は掛け値なしの傑作だった。沖縄戦に動員された女学生たちの内的世界を繊細かつ鮮烈に描いた今日マチ子の同名コミックを、当時28歳の藤田貴大が舞台化。高い評価を受けて2年後に再演されたこの作品が、5年ぶりに新演出で上演される。

藤田「前回、沖縄も含めた6都市で公演をすることができました。その最中にも多くの方に“また上演してほしい”とお声がけいただいていました。公演が終わってからも再演のオファーは絶えなかったのですが、この作品はたくさんの人の死を扱っていてテーマが特に重い作品なので、作家である前に人として、簡単に“はい”とは言えないところがあったんです」


それを決意した理由は、藤田の創作の姿勢に関わっている。千秋楽で公演期間が終わったとしても、作品で扱ったテーマについて考え続け、そのことが別の作品へとつながっていくのだ。特に『cocoon』は、何度も沖縄を訪れ、沖縄という土地と関わりを持ってきた。

藤田「この5年間でも、沖縄ではさまざまな変化があったと思います。米軍基地の問題をはじめ、沖縄という土地だけが未だに国から強いられていることは数多くあって、未だにつづく沖縄の現状を見つめていると、やはり強い憤りを感じるんですよね。一人一人の顔、そして表情を想像できていないと思うんですよ。でも、自分に立ち戻って考えてみた時に、2年前の『cocoon』で描けていなかったこともあると思い返しています。ラストシーンに主人公が“生きていくことにした”というセリフを言うのですが、あの言葉に含まれている意味をもっと追求しなくちゃいけないというか」

マームは、藤田が「リフレイン」と呼ぶ独特の反復が演出上のひとつの特徴だが、そこにも別の意味を込めると言う。リフレインはこれまで、同じシーンを俳優の位置を変えて繰り返すことで登場人物それぞれの主観を浮かび上がらせてきた。『cocoon』が絶賛されたのも、現代を生きる少女の繰り返される“退屈な”日常を、第二次大戦下に生きた少女が果てしなく奪われていく“かけがえない”日常へと変換し、詩情と緊張感を拮抗させたからだが、そこにはリフレインの効果が大きく関わっていた。今回はその射程を拡大する。

藤田「沖縄という土地では、国の方針によっていろんな問題が理不尽に「繰り返されてきた」と思います。本作は戦争という時代を描くだけではなく、現在という時間までの「繰り返し」についても着手しなくてはいけないと思っています。そういう意味では、今まで僕が舞台上で扱ってきた「リフレイン」とはまた違う意味合いを、今回は見出していくのかもしれませんね」


今回の大きなテーマを形にするため、キャストの大半を一新するオーディションを開催した。

藤田「応募してくれた400人全員と面談をして、七回の審査を経て、10人の方々をキャスティングしました。新しいcocoonをつくるうえで、よい出会いができたと思います」


今回は再演を上回る7都市で上演する。

藤田「会場ごとに照明や音響、舞台美術をすべて調整し直すことが演劇の贅沢さですよね。ウィスキーみたいなもので、つくられた樽の香りによって風味が変わるように、演劇も劇場によってぜんぜん印象が変わるので、ほんとうはすべての会場に足を運んで観てもらいたいですね」


伝説が更新される様子をぜひ目撃してほしい。

 

インタビュー・文/徳永京子
Photo/篠塚ようこ

 

※構成/月刊ローチケ編集部 5月15日号より転載
※写真は本誌とは異なります

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【プロフィール】
藤田貴大
■フジタ タカヒロ ’85年、北海道出身。’07年にマームとジプシーを旗揚げ。「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。