RooTS Series『書を捨てよ町へ出よう』寺山修司没後35年記念 藤田貴大 インタビュー

ストーリーを丁寧に追って今との共通点を見せたい

 

気鋭の演出家と、60〜70年代に発表された名作戯曲を組み合わせ、演劇の新たな魅力を発見する東京芸術劇場の「RooTS」シリーズ。2015年に上演された『書を捨てよ町へ出よう』が再演される。有名な寺山修司の原作を手がけたのは、人気劇団マームとジプシーの藤田貴大。再演は、初演時から意識していたと言う。

藤田「やる度に全然違うものになると思ったんです。というのは、エッセイ集、舞台、そして僕が舞台化した映画と『書を捨てよ町へ出よう』というタイトルでまったく違う作品があり、しかもそれぞれがコラージュだから、テキストは膨大。文体や表現方法がバラバラで、どの部分を使うかで印象が変わる。それがおもしろそうだと思いました」


前回の藤田演出は、原作のメインのストーリーを活かしつつ、寺山のコラージュ精神にのっとって、歌人の穂村弘や、芸人で小説家の又吉直樹が出演した映像を組み込むなど、アレンジが効いたものだった。

藤田「当時はそれをセレクトショップと言っていました。僕を知らなくても、又吉さんや穂村さん、あるいはミナペルホネンの衣裳や、山本達久さんの音楽を入口に来てもらえたらと。それがコラージュの良さで、僕のコラボレーションの集大成でした」今回は、コラージュの大胆さはそのままに、ストーリー部分を丁寧に追いたいと言う。

藤田「主人公の妹の兎が殺されるエピソードがあるんですが、映画だとカットバックで死んだ事実だけ見せていて、前回はそれに倣ったんですね。そのディテールを描いたら、主人公たちの境遇がもう少し伝わるんじゃないかと思っています」


それは、当時と現代の共通点に光を当てることでもある。

藤田「ジワジワと侵食されていく息苦しさを僕は今、感じているんですが、日米安保条約が結ばれそうになったことへの若者の抗いが込められたこの作品にも似た空気を感じます。それを浮かび上がらせたいですね」


前回、村上虹郎が演じた主人公の“私”には、新人の佐藤緋美が選ばれた。
11月にはパリ公演も決定、60年代の東京を起点にしたこの舞台は、郷愁を超えた広がりを生みそうだ。

 

インタビュー・文/徳永京子
Photo /篠塚ようこ

 

※構成/月刊ローチケ編集部 9月15日号より転載
※写真は本誌とは異なります


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【プロフィール】
藤田貴大
■フジタ タカヒロ 大学卒業後、「マームとジプシー」を旗揚げ。さまざまな分野のアーティストとの共作を意欲的におこなうなど精力的に活動している。