モダンスイマーズ 句読点三部作連続上演 蓬莱竜太 ロングインタビュー

新国立劇場や商業演劇、さらに新作歌舞伎の戯曲、テレビドラマや映画の台本など幅広く活躍し、多くの俳優から厚い信頼を寄せられている蓬莱竜太。彼が座付き作家をつとめる劇団モダンスイマーズが、2013年から2016年までに上演した『死ンデ、イル。』『悲しみよ、消えないでくれ』『嗚呼いま、だから愛。』を「句読点三部作」と名付けて連続上演する。“オーダーを裏切らない器用な劇作家”というイメージの強い蓬莱が、自分の内側を見つめ不器用にたどった3作は、モダン流エンターテイメントへの大事な入り口を示している。

 

──3年間に及ぶ劇団作品を連続上演することにした理由を教えてください。

蓬莱「この三部作をきっかけに、劇団に新作を書くという僕の意識がかなり変わったんです。それまでは「◯年◯月に劇場を押さえたから、劇団用の作品をつくらなきゃ」という意識だったのが、もう少し自分に寄っていったというか」

 

──書く動機がですか?

蓬莱「動機もそうですし、表現もですね。社会と自分のつながりを作品にしようと思ったりとか、創作そのものが個人的なものになっていく感覚があって、それはすごく大事なことかも、と思ったんです。で、一昨年の『嗚呼いま、だから愛。』が終わって一区切りした感覚があったんですが、次にどこに向かおうかと考えた時に、以前の「この時期に予定があるから」に戻るのには違和感があった。だから、自分の中で書くことへの触手が動くのは何に対してなのかを検証したくなって、思い切って3本全部もう一度やろうというのが連続上演の理由です」

 

──最初から三部作として企画したわけではないですよね。でも共通した感覚が3作つくる間ずっとあって、結果的につながった3作になった?

蓬莱「ええ、三部作でひとつという感覚です。『死ンデ、イル。』から『嗚呼いま、だから愛。』までの流れが、自分の中ですごく自然だったし必然でもあった。それと、今までとは違うものを書いている、過去のノウハウ、経験値が使えないものに出合っているという感覚がずっとありましたね」

 

──蓬莱さんにとって、過去と未来を交差させる作品群だと。

蓬莱「先のことはいろいろ考えますね。ざっくり言うと、40歳を過ぎて新作を1本つくることが、ものすごく大事な、大変なことになっている(*蓬莱は現在42歳)。もちろん30代でも20代でも大事だったし大変でしたけど、比べものにならないくらいシビアになりました。やっぱり、あと何本新作をつくって残せるのか、その作品が自分の中で価値あるものになるのかを考えるようになったんですね。多くの人に観てもらいながら、実験というか勝負ができる機会はあと何度あるのか。その時に、最初の一歩になる衝動みたいなものが重要なんだろうなと」

 

──40歳で残りの時間を意識されるのは早いですね。50歳を境に「あと何作」と言う方は、たとえばケラリーノ・サンドロヴィッチさんや松尾スズキさんなど、何人もお会いしましたが。

蓬莱「たぶん、KERAさんや松尾さんと僕は根本的に違う。僕の感覚では、50歳まで第一線で生き残っていること自体が本当にすごいですから。自分がそこまで行けるかは、まさに今にかかっていて、これまでと違う発明が必要というか、新しい方法を探っていかないとダメだという危機感があるんです」

 

──その発明の芽が、三部作にありそうということですね?

蓬莱「あるのかも、ですかね。手応えはもちろん持っていますけど、言ってしまうと、検証したいことの中に劇団を続けるかどうかも含まれているので。うちは劇団員のほとんどが同年代なので、40代の劇団員を前提に作劇を続けていく必然性が、僕の中で腑に落ちていくかも検証したい」

 

──劇団を続けていくかどうか問題は、これまでも何度か蓬莱さんの口からお聞きしていますが(笑)。

蓬莱「いやいや、もっと切羽詰まってきているんです、40になって余計に(笑)。来年はモダンスイマーズ20周年なので、否が応でも考えますね」

 

──ところで、どうして上演の順番が新しい作品からなんでしょう?

蓬莱「単純に俳優さんたちのスケジュールの問題です。最初は僕も順番にこだわったんです。やっぱり『死ンデ、イル。』から始めたいと。でも、はたと考えたんです。古い作品ほど自分の記憶から遠のいているわけで、新作をつくる感覚に近づいていくんじゃないかと。ちょうど『死ンデ、イル。』は出演者も一番入れ替わるし、劇場も変わる。徐々にギアを上げていく感じになっていいなと思いました。今は納得の順番です」

 

──では、その口火となる『嗚呼いま、だから愛。』についてお聞きします。夫が自分への興味を失っていると悩んでいる女性が、美人の姉の来訪、友人の妊娠などをきっかけに、幼い頃からの容姿のコンプレックスを爆発させる話ですが、実際にあったパリのテロ事件が、ひとつのエピソードの分岐点になっています。上演時、蓬莱さんはこの戯曲を書くきっかけに「ニュース速報で事件を知った時、なぜかとてもセックスしたくなった」ことがあったとおっしゃっていました。

蓬莱「創作のモチベーションとしては、とにかく川上友里さんという存在を知ったことが大きかったです。パリのテロのことは、悲惨な事件と人間の生殖本能の関係について考えるきっかけになったんですが、そのあたりがまだぼやーっとしている時に川上さんに出会って、バチン!というものがあったんです。でも3作の中で執筆に1番苦しんだのがこれでした。執筆もそうですけど、演出に迷いましたね。自分のやりたいことはある、伝えたい空気もあるんだけれども、果たしてそれがお客さんの何のためになるんだろうと。そんなもの、お客さんのどこにも触れないかもしれないし、触れたところで何の振動も起こさないかもしれない。そういう不安がずっと消えませんでした」

 

──アクロバティックでしたが結果は、日本の夫婦のセックスレス、パリのテロ、そして容姿のコンプレックスが見事に掛け合わされました。

蓬莱「初日が開けて客席の反応を見た時に、届けたいものが届いているとわかってすごく安心しました。でもつくっている間は本当に怖かった作品です」

 

──三部作と言いつつ1本1本独立した話なので、どれを観てもらっても成立しますが、せっかくなのでできれば3本全部観ていただきたいですね。

蓬莱「はい。「どれを観に来ていただいても大丈夫」という気持ちではあるんですけど、『嗚呼いま、だから愛。』を観て興味を持っていただいて、そのまま全部観ていただけたらうれしいです」

 

──最後に、「句読点三部作」が終わった時に、何を手にしていたいですか?

蓬莱「僕は今まで、言ってみれば来た球を打ち返してきました。それとは違うやり方を手に入れたい。三部作で得たものと、今まで培ってきたものや得てきたものを総合して、そろそろ自分なりのエンターテインメントを考える必要があるんじゃないかと思っているんです。そんなに簡単に手に入るものではないでしょうが、近づきたいですね」

 

インタビュー・文/徳永京子
Photo/村上宗一郎

 

【プロフィール】
蓬莱竜太
■ホウライリュウタ 劇作家、演出家。1976年生まれ、兵庫県出身。高校時代に初めて書いた戯曲の評判が良かったことから、舞台芸術学院に進学。同期の西條義将に誘われて1999年、劇団モダンスイマーズを旗揚げ。第1回公演のタイトルが『モダンスイマー』だったことから、深く考えずに劇団名を付けたという。当時から現在まで主宰は西條で、蓬莱は座付き作家。以降、劇団の公演のほぼ全作を作・演出。すべての登場人物に光が当たる確かな筆力で、さまざまな舞台、映像からもオファーが相次いでいる。2009年、『まほろば』で第53回岸田國士戯曲賞を受賞。