12月10日、新国立劇場にて『ピーター&ザ・スターキャッチャー』が開幕します。ある孤児の「少年」が永遠の少年「ピーター・パン」になるまでの冒険を描く音楽劇です。本作はブロードウェイで2012年に開幕し、同年にトニー賞9部門にノミネート、5冠を勝ち取ったヒット作です。
主演をつとめるのは、俳優・声優・歌手として活躍する入野自由(いりの・みゆ)さん。
入野さんと「少年」の共通点は?稽古場の雰囲気は?みんなで身体を使って表現する舞台って…?
ドキドキワクワクな舞台の予感がする本作について、入野さんにお話を伺いました。
——今回、新国立劇場初登場、そして主演をつとめられます。ご出演が決まった時の心境を教えてください。
入野「新国立劇場の小劇場は大好きな空間で、前からよく観に来てるんです。『焼肉ドラゴン』や、最近だと『タージマハルの衛兵』も観ました。ずっと出演してみたいと思っていた劇場なので、こういう形で出演できることは、素直に嬉しかったです」
——入野さんは「ピーター・パン」になる孤児の少年役を演じられます。役とご自身が似ている点はありますか。
入野「つい先日演出のノゾエさんと、いまピーターがどう見えているのか話したんです。そこで、ピーターは特別な男の子じゃない。いじけたり、素直に喜んだり、素朴で人間味のある子じゃないのか、と。ピーター・パンという“キャラクター”に寄せていくというよりは、もっと “ひとりの人間である”ということを大事にしていこうと話しました。
自分で言うのもなんですけど、僕自身は普通の人間だと思っていて。今回のキャストの皆さんもそうですが、何か飛びぬけている人が多いですよね。そういう人に憧れますし、改めて役者をやっている上で自分の取り柄ってなんだろうと、周りを見渡したときに、僕は普通だな、特別な人間じゃない気がすると感じ、自分の中で引け目に思っている部分でもあります。
でも、今回はそこを逆手に、自分自身がもつ素朴さや普通だと感じる部分が、ピーターと巧くリンクしたらいいなと思っています」
——続いて、稽古場について伺いたいのですが、ノゾエさんの演出について教えてください。
入野「この作品だからこそというのも強いと思うんですが、みんなで考えていろんなアイデアを出し合い、絶対それはあり得ないだろうというものも、ノゾエさんは全部受け止めてくださいます。そんなオープンな稽古場で、どんどん試していく、演者のクリエイティビティをどんどん活かしてくれる演出をしてくださっているなと思います。
その分、日々自分から考え、生み出そうとしないといけないので大変な部分もあるんですが、まだこの段階では答えを出さず、ギリギリまで粘って一緒に問いかけをしてくださっている感じがします」
——ノゾエさんご自身の印象はどうですか。
入野 「“キャラクター”ではなく“人間”ということを大切にされている方だと感じました。役者自身に考えさせて、悩んで、を一緒にやってくれるので、心強いです。
演出やそのワードも面白くて、ワクワクします。とても懐の大きい人、という印象です」
——稽古場の雰囲気の良さが伝わってきます。
入野「今回、コロナ禍で皆さんマスクしてるので顔が見えないし、稽古終わりに食事にも行けない、それなのに現場の空気が作られるのが早かったです。稽古場の雰囲気がとても良いので、ホントに居心地がいいです。楽しい稽古場です」
——特に印象的な出演者はいらっしゃいますか。
入野「僕、玉置孝匡さんのファンなんです(笑)。倉持裕さん作・演出の『鎌塚氏』シリーズが大好きで、このシリーズはほとんど観ています。三宅弘城さんと玉置さんを観に行くという感覚があるんです。ご一緒したいとずっと思っていたので、今回願いが叶って嬉しかったです」
——歌あり、ダンスあり、アクションありの舞台ですが、特に注目してほしい点を教えてください。
入野「難しいですね、全編見どころというか、見るだけではなく「感じる」ことも大切な作品だと思います。目に見えているものだけでなく、目に見えないものをどう表現しているか、そこが見どころです。
また、役者がほとんど舞台に出ずっぱりで、みんなで身体を使って表現する、演劇の魅力が詰まった舞台になっていると思います。僕もいろんな転がり方ででんぐり返ししたりするんですよ。運動神経が良くてよかったです(笑)」
——最後に、どんな作品になるか、どんな方に観に来ていただきたいか、教えてください。
入野「チラシにもあるように、こどももおとなも楽しめる作品です。シンプルなセット全体を使って、今必死にみんなで探りながら作っています。組体操をやったり、人形を出すのではなく、空飛ぶ猫や巨大ワニをどう表現させるのか。皆さんの想像力を刺激すると思います。僕としては、最近見たことがないような表現が随所に散らばっています。ぜひそれを楽しみに観に来ていただければ嬉しいです」
photo by 宮川舞子