多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科 4期生卒業制作『□□□・ミーツ・□□□』稽古場レポート

2020.12.11

「最近多摩美がキテルらしい」という噂は、数年前から耳にしていた。実際に現場で活躍する若い俳優の経歴に、多摩美卒・在学を目にすることも増えた。多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科は、演劇舞踊コースと劇場美術デザインコースの2コースから成り、パフォーマーとスタッフ両方の視点で舞台芸術を広く学び、それぞれの専門性を高めながらプロフェッショナルな人材を育成することを目的としている(学科ホームページhttp://www.tamabi.ac.jp/sdd/ 参照)。教員には錚々たるアーティスト、パフォーマー、スタッフ、研究者が名を連ねており、“現役の表現者”からの実践的な学びが、この学科の強みであることがうかがえる。卒業制作を東京芸術劇場で上演するという、学生にとってはかなり挑戦的で贅沢な環境も、魅力のひとつだろう。
約2週間後に劇場入りを控え、本番さながらの美術が建つ中で、初めての通し稽古を見学した。
※主催者の意向により写真は美術が建つ前のものを使用

広い倉庫のような演劇スタジオのシャッターや窓は開け放たれ、サーキュレーターも稼働し換気万全の中、30名ほどの出演者やスタッフがマスク姿で集まっている。入り口で手指を消毒し、靴を履き替え除菌マットを通過し、適度な距離を保って置かれた椅子に座る。寒さのせいか、通しを控えているからか、どことなくピリッとした空気を感じる。学生時代の稽古場ってこんな感じだったかしら? と、なにやら真面目そうな若者たちだなぁという第一印象を受けた。後に「コロナ世代」とか呼ばれてしまうだろう彼らは、たくさんの困難の中で稽古場を創っている。当たり前に演劇ができる環境は当たり前ではなくなり、常に感染症対策に気を配りながらの生活は、精神的にもかなりすり減るだろう。無事に幕を閉じるまでは、気を緩める余裕などないのかもしれない。

それでも稽古が始まると、だんだん空気が和らぐ。瑞々しくチャーミングな演技に笑みがこぼれ、ちょっとしたしくじりに笑い声が上がり、稽古場が暖まっていくのを感じた。二階建ての舞台を駆け回り、声を張り上げて歌い、踊る。「流れて!流れ続けて!」という振付家の指示が飛び、ラストシーンに向かって躍動する。

『□□□・ミーツ・□□□』は、『ナニカ・ミーツ・ナニカ』と読む。ミーツ=密。文字通り“出会い”の芝居。“まだ見ぬナニカにあなたは出会う 新しいジダイに新しいワタシが” を標榜に、さまざまな出会いと変化、人々の願いが描かれる。移動や接触を制限された今、この時代を生きる彼らだからこそ生まれたアイディアを結集して、彼らなりのニューノーマルを物語ろうとしている。

創作のプロセスも面白い。
企画立案、脚本、演出、俳優やスタッフ各セクションの配置すべてを、生徒たちが担っている。たとえば制作という役職ひとつとっても、13名から成るプロデュースチームの学生たちが、予算組みから協賛金集め、広報、コロナ対策に至るまで分担して、公演の土台を支えている。コロナ禍での孤立を懸念して、有志でメンタルヘルスケアの相談窓口を立ち上げたという話を聞き、プロの制作者と同じ目線で実践していることに、思わず感心してしまった。

教員はアドヴァイザーという立場で伴走者のように関わり、主体はあくまで学生たち。それぞれのプランをコンペ形式で磨きあげ、プランナーを選出し、出演者もオーディションで決定された。8月からリモートと対面を合わせて稽古を開始したが、進行するうちに大きく方向転換して積み上げてきたものを一度まっさらにし、シーンごとにみんなで意見を出し合って創作するスタイルに舵を切ったらしい。

ヒエラルキーの解体は、目に見えぬ新たなピラミッドを作り出す危険性も孕んではいるが、「とにかくみんなで創りたいんだ!!」というまっすぐな欲望に感じられた。実際に、演出家と俳優の垣根を超えて提案や質問が飛び交い、お互いにフォローし合いながら一本の筋を通すような、風通しの良い創作が少しずつできはじめているようだ。不足しがちなコミュニケーション(なにしろ座組み全員が同じ部屋にいることができない!)を補うべく、壁には付箋が貼られた掲示板のようなものが作られていた。未解決スペースの【「全員」が創作できる卒公にしようね…!】という言葉が一際目を惹き、いつかこれが剥がされる日が来ますように…と願わずにはいられなかった。

公演当日の劇場ロビーでは、美術・衣裳・照明セクションの創作過程を公開する展示も行われるほか、劇場の隣にあるアトリエウエストでは、作品とリンクする内容の体験展示も同時開催するという。美術大学と名のつく多摩美ならではの、演劇作品を一味違う視点で楽しむ仕掛けにも期待したい。
演劇と出会った彼らは、4年間の学びを経て、どんな“新しいワタシ”になるのだろうか。数ヶ月後にはそれぞれバラバラな将来を歩みだす彼らの最後の集いを、ぜひ劇場で(配信の場合はお好きな場所で)見届けてほしい。

 

文責:坂本もも
1988年生まれ。プロデューサー。高校時代に蜷川幸雄作品の魅力に取り憑かれ、演劇の世界に。日本大学藝術学部演劇学科在学中より、学生演劇で演出助手をしながら、外部公演や商業演劇の制作部・演出部を経験。2009年よりロロ、2011年より範宙遊泳に加入し、劇団運営とすべての公演制作を務める。2017年に娘を出産し、育児と演劇の両立を模索中。