PARCO劇場オープニング・シリーズ『藪原検校』 市川猿之助 インタビュー

悪いことをやっても最後は許される。
そういう検校を作りたい

 

昨年1月に幕をあけた新生PARCO劇場のオープニング・シリーズの一作として、井上ひさしの傑作『藪やぶはら原検けんぎょう校』が市川猿之助主演で上演される。これまで木村光一、蜷川幸雄、栗山民也という演劇界の巨匠が演出してきた本作だが、今回はスーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』でも猿之助とタッグを組んだ、気鋭の若手演出家・杉原邦生が手掛けることも楽しみだ。’11年の主演舞台『雨』以来となる、井上ひさし作品の魅力とは――。

市川「井上ひさしさんといえば、脚本が遅いことで有名で初日が開かないなど、伝説がありますけど(笑)。でき上がった作品は、やはり日本人の心を打つ。『雨』という作品をやらせていただいて思ったのは、日本人のいい面も悪い面も見ておられて、それをお書きになっている。また、言葉の持つ怖さと重要さを大切にしておられる。これは井上先生の全作品に言えることだと思うんです。そういう日本人でないと書けないしできない芝居をやれることは、役者としても日本人としても嬉しいですね」


猿之助が演じるのは、落語や講談、歌舞伎でも描かれてきた、稀代の悪党“杉の市”こと二代目藪原検校。悪人を演じる醍醐味について聞くと、自分と対極にあるものほど演じやすいのだという。

市川「変身の度合いが大きければ大きいほど、役者にとってはものすごくやりやすいんですよね。特に藪原検校みたいな人は、演じていても面白いんだろうなと思います」

藪原検校は単なる悪党ではなく、その裏に独自の悲しさ、罪を犯していくある種の悲劇的な面も抱えている複雑な人物。それをどう表現しようと考えているのか?

市川「お手本にするとしたら、勝新太郎さん。勝新さんが悪党だと言っているわけじゃないですけど、どんなに悪いことをやっていたって、なんか許せちゃうでしょ(笑)。許しちゃいけないんだけど、医者からたばこを止められても、記者会見でわざと吸ったり。普通は嫌味になることも、あの人がやると“かわいい”っていう。勝新さんのその天性の素敵さというのはなかなか出せないですけど、出たらいいなとは思います。悪いことをやったときに、“ごめんね”って言われると許せてしまう。最後はなんか憎めない。そういうふうに検校を作りたいですね」


歌舞伎以外の作品選びで大切にしているのは「共演者」。今作でも、初共演する三宅健さんや松雪泰子さんと芝居をできる機会に感謝していると語る。

市川「歌舞伎では絶対にできないことですから。一緒に食事する機会はあると思うんですけど、お芝居するって、なかなかできないんですよ。役者はいくら一緒にご飯食べても飲んでいても、芝居での会話というものがあるんです。キザに聞こえるけれども、それが楽しいときがあるんです。芝居の会話ができるのが嬉しい。今回は初めてだから、お互いいい意味で懐の探り合いがやれればなと思います」


『新版 オグリ』を共に作り上げた杉原邦生の演出を、
「歌舞伎の時はいつも料理する側(出演だけでなく演出もしている)だから、料理されてみる」と、演者に徹して楽しむ姿勢で臨む猿之助の『藪原検校』、見逃せない。

 

インタビュー・文/井ノ口裕子
Photo/篠塚ようこ

ヘアメイク/白石義人(ima.)
スタイリング/三島和也(Tatanca)

 

※構成/月刊ローチケ編集部 1月15日号より転載
※写真は本誌とは異なります

掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
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【プロフィール】
市川猿之助
■イチカワ エンノスケ 東京都出身。’12年、四代目市川猿之助を襲名。立役から女形まで幅広く活躍。確かな実力で、最も目が離せない花形歌舞伎役者。