赤堀雅秋、三宅弘城|M&Oplays『白昼夢』インタビュー

劇作家で演出家の赤堀雅秋の新作『白昼夢』が3月から4月にかけて東京・本多劇場にて上演される。現代社会に取り残された人々のもがきと再生の物語となるという本作は、三宅弘城、吉岡里帆、荒川良々、風間杜夫、そして赤堀の5人芝居。果たしてどんな作品となるのか。赤堀と三宅に話を聞いた。

『白昼夢』はどんな作品になりそうですか?

赤堀「『8050問題(はちまるごまるもんだい/80代の親が50代の子供の生活を支えるという社会問題。背景に、子供の引きこもり問題がある)』が最初の足掛かりで、そこをテーマに書きたいなと思いました。以前からずっとそういう思いはあったのですが、今までちゃんと真正面から書いたことがなかったので、書いてみたいなというのがきっかけです。だからといって別になにか啓蒙したいということではないんですけどね」

社会問題を斬るというわけではなくて。

赤堀「それは今回に限らずそうです。特に今はコロナもあって大変な時期ですが、そういうことに特化するわけではなくて。今漂っている空気感というか、うまく言語化できないものをどうやって掴み取れるかというのは、自分の劇作家としての仕事だと思っています。だから今回も、ただ単に『8050問題』を社会派風に描くということではないですね」

三宅さんは、赤堀作品には初参加ですね。

三宅「はい。僕が赤堀さんの作品を初めて観たのが『女の足の裏』(’02年)で。そこから約20年ですか。長年の夢が叶いました。今までずっと、ことあるごとに「赤堀さんのTHE SHAMPOO HATに出してくれ」と言ったり、マネージャーに話したりしていたんですけど、なかなかタイミングが合わなかったりして。念願の赤堀作品出演という感じですね」

どうして出演したかったのですか。

三宅「赤堀さんの書く世界と、演出する空気感がものすごく好きなんです。赤堀さんの作品は、劇的なエンディングを迎えるとか、そういうことがあまりないですよね。僕自身も、演劇に“起承転結がなきゃダメ”とか“劇的なエンディング”とかは別に求めていなくて、“その場の空気感”であったり“役者がちゃんとそこにいるか”というものを体験したいタイプなんです。赤堀さんの演出作品は、それを大切にしている空気が感じられるので、ぜひその世界に入ってみたかったんです」

赤堀さんは三宅さんが出演されることはどんなふうに思われていますか?

赤堀「うれしいですよ、そりゃ。劇団の公演でやった『女の足の裏』っていう、とち狂ったような作品……」
三宅「(笑)」
赤堀「あの時、もうちょっとウエルメイドな作品がつくれていれば、今の僕ももうちょっと違う感じになってたのではないか……大河ドラマとか一本くらい書けるところまでいけたんじゃないかなっていう作品ですからね(笑)。劇団が一番注目されているときに、一番わけわからないことをやってしまったので」
三宅「それが面白かったんですけどね!」
赤堀「そんなふうに言ってくれたのが三宅さんで。それから交流はありましたし、もちろん僕もいつかご一緒できたらなという、積年の思いがあったので。よかったと思っています」

三宅さんは内容についてはどのように思われていますか?

三宅「内容に関しては、赤堀さんの書くものだったらなんでもいいやみたいなところがちょっとあるので。これがラブストーリーだったとしてもやりたいし……正直なんでもいい(笑)。赤堀さんの書く、演出するものをやりたいっていう」

全幅の信頼ですね!

三宅「そうですね」

でも、赤堀さんはなぜ今「8050問題」を真正面から描こうと思われたのですか?

赤堀「『美しく青く』(’19)でも震災を背景に書いたのですが、そういう、今まで自分が避けてきたようなものにも、真正面から逃げずに取り組まなければいけないなと、年齢を重ねれば重ねるほど思うようになりました。だからといって説教くさいものを書きたいということではないんですけどね。いま日本に根付いている問題には向きあわなくちゃいけないなというふうには思っていて。ただ僕は、どの問題も……これはなかなか言い表しづらいことですが、この8050問題にしても、死刑制度にしても、基地問題にしても、中国との関係にしても、なにか、根底に流れているものっていうのは変わらない気がしていて。震災の時にも味わった、内面のモヤモヤしたなんとも言い表せない感情と、今の感情は実は変わらない気がする……というと語弊があるんですけども。でも、そういう空気感みたいなものをどうやって描けるか。そういうことでしかないです、毎回」

三宅さんは、こういう生々しいテーマを演じることは、そうでないものと何か違ったりするのですか?

三宅「違わないです。例えばそれがコントだったとしても、やっぱりちゃんと“その人”が発する言葉にならないと伝わらないし、面白くないし、心を打つことはないと思うので」

実感が伴うテーマだとお芝居が変わるのかなと想像したりしました。

三宅「ああ~。でもそのバランスって難しいですね」
赤堀「他の人はどうやっているかわからないけど、僕はいつも役には自分を介在させて演じなければいけないなと思っています。でもじゃあ『自分の親が80歳で』となったときに、そこに変に感情移入しすぎて陶酔してしまうと、それはそれでバランスが良くない。そのリアリティの問題というのは、非常に塩梅が難しいんですよね。『なんで泣いてんだ』『うちもこういう親がいるんで』となっても、知らんがなっていう話にもなってくるので」
三宅「生々しくいると同時に、どこか俯瞰していないと。やっぱり“みせもの”なので」
赤堀「そうですよね」
三宅「なんだかんだ言ってエンターテインメントですからね」

その塩梅なのでしょうか。

赤堀「塩梅は大事です、すごく。そこが一番大事と言っても過言じゃないくらいですね。自分に酔っていないかなとか、他者と自分の比率の問題だったりとか、演じる責任であるとか。各々の塩梅というのは非常に大事。だから、例えば子供だとか、ある意味責任なくやれる人には敵わないなと思います。でもじゃあその人が継続的にできるかというとそういうことではない。職業としてやっていると、嫌でもあざとくなってくるでしょうから。その塩梅が難しいけど、楽しいっちゃ楽しいんですよね」

脚本は今書かれているということですが、三宅さんは、父親(風間)に暴力をふるう引きこもりの弟(荒川)がいて、NPO法人の相談室(赤堀・吉岡)に駆け込むという役どころですね。

赤堀「実は最初は三宅さんが引きこもりの役で書こうとしていたんですよ。あまりそういう三宅さんを僕は見たことがないなと思って。でもなんか、逆のほうが面白くなりそうだなと思い、こうしました。いずれにしてもそれぞれの役者さんの今まで見たことない部分を、劇作家としても演出家としても引き出したいという思いでつくっているつもりではいます。こういう舞台だと当て書きができるので、ゼロから、それぞれに合う役柄が書けるというのは喜びでもあり大変でもありますね」

三宅さん同様、赤堀作品には初参加となる吉岡里帆さんにはどのような印象がありますか?

赤堀「今はそこで一番悩んでいます。彼女はCMで見せるようなほんわかしたかわいらしさがあって、そこが視聴者にとっての魅力なんでしょうけど、なにかそうではない、女優としての、彼女の内面でうごめいているものというか……。きっと癒しとはほど遠い面もあるでしょうし、かわいらしさでは済まされない面もあるでしょうしね。せっかく出ていただくんだったら、そういうグロテスクな部分をいかに引き出せるかみたいなところが、面白味になったらいいなと思っています」
三宅「僕は彼女と連続テレビ小説『あさが来た』(’15~’16)でずっと一緒だったんですよ。それで当時、漫画『四丁目の夕日』(作・山野一)……って赤堀さんご存知ですか?」
赤堀「けっこうひどい作品ですよね(笑)」
三宅「そうそう(笑)。それを貸したら、すごく喜んで」
赤堀「なるほど。そっち側の人間なのか。俺、その漫画は荒川良々にもらいましたから」
三宅「ははは!」

繋がってますね(笑)。

赤堀「なるほど。いいこと聞いた」
三宅「役者として、すごく体当たりな人だなという印象があります。現場でも『私、小手先でできないんです』みたいな話をしていて。寝てなくてウトウトするようなシーンでは、本番で、机にガーン!と頭ぶつけてて(笑)。『大丈夫です大丈夫です。このくらいやらないと私、気が済まないので』って。熱い方だと思います」
赤堀「まあ、じゃなきゃ出ないですよね、この作品には」
三宅「はははは!」

楽しみなメンバーですね。

赤堀「皆さん、舞台の上でちゃんと反応し合えるような人たちだと思うので。そういう化学変化が楽しめる気がしています。でもなにしろ1年以上ぶりの舞台なのでね」
三宅「最後、いつですか?」
赤堀「最後は『神の子』(’19.12~’20.1)です。随分時間が経っているから、感覚を忘れている感じもちょっとあったりして、心配でもあり楽しみでもあります。三宅さんはいつぶりですか?」
三宅「去年の3月以来なので、ちょうど1年くらいになります。劇団☆新感線の『偽義経冥界歌』で博多座に行って中止が決まってぶりなので」

なにか思うことはありましたか?

三宅「演劇は、なくても生きていけるものなんだと思うんです、人間としてね。だけどやっぱり、自分もここから勇気をもらったし、それこそ生業にもなったものだから。なんとも言えないですけど……自分も生きていかないといけないし、みんなが生きていくためにもやりたいし、観てほしいですよね」

1年ぶりとなると、どんな気持ちになるのですか?

赤堀「でも楽しみのほうが大きいですよ。働きたいです、もう」
三宅「そうそう。稽古場通うとか、同じシーンを(繰り)返すとか、そういう当たり前のことをやりたいですね、やっぱり」
赤堀「暇だとろくなことを考えないので(笑)。働いていたいですね」

 

インタビュー・文/中川實穂
写真/ローソンチケット