「パンドラの鐘」気鋭の演出家・熊林弘高が、野田戯曲に初挑戦!コメントも到着!

2021.02.15

気鋭の演出家・熊林弘高が、野田戯曲に初挑戦!

日本の現代演劇の源流を探るため「RooTS」と題して、アングラ時代の戯曲を掘り起こし、若い演出家がチャレンジする企画を実施してきた東京芸術劇場の自主事業。つかこうへい作『ストリッパー物語』を三浦大輔が、唐十郎作『秘密の花園』を福原充則が、竹内銃一郎作『あの大鴉、さえも』は小野寺修二が演出を行うなど、伝説の戯曲に若い世代の演出家が挑み、それぞれが成果を上げ、寺山修司作『書を捨てよ町へ出よう』(演出:藤田貴大)では海外公演も果たした。

この「RooTS」の延長戦上にあるのが、野田戯曲を野田芸術監督以外の人が演出することにも積極的に取り組む企画。アングラ演劇に影響をうけて劇作を開始し、現在日本の演劇を牽引する劇作家である野田秀樹の戯曲を若手演出家や海外の演出家が新たに解釈して上演することで、その戯曲の魅力を再発見する。この意欲的な試みではこれまでに、若手としては、藤田貴大、野上絹代、海外の演出家としてはオン・ケンセン、マルチェロ・マーニが手掛けている。昨年はコロナ禍の中、ルーマニアの鬼才として世界に名高いシルビウ・プルカレーテが30年以上前に野田が書いた『真夏の夜の夢』を演出し、好評を博した。先日、『真夏の夜の夢』で主演の鈴木杏が読売演劇大賞・最優秀主演女優賞・紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞した。

演出家・熊林弘高は2015年に「RooTS」企画で清水邦夫作『狂人なおもて往生をとぐ』に挑戦。その次のステップとして野田作品に挑戦したいという気持ちを抱き、数ある戯曲の中でも最も心をつかまれ、数年にわたって構想を温めてきた作品がこの『パンドラの鐘』であった。

東京芸術劇場は演出家・熊林と、充実した共同作業を積み上げてきた。1年に1作か2作程度と、演出家としては寡作で知られる熊林だが、その世界観に名だたる名優・人気俳優がほれ込み、続々と出演を希望するまでになった。初めて800席超のプレイハウスでの演出作品となったチェーホフ作の『かもめ』(16)やシェイクスピア作『お気に召すまま』(19)で広い空間を効果的に使い、非常に挑戦的かつ魅力的な作品に仕立てた。また去年は日生劇場で行われた三島由紀夫没後50周年企画「MISHIMA2020」にて『班女』(麻実れい、橋本愛、中村蒼)を演出し、高い評価を得た。

熊林は戯曲と向き合うために、稽古に先んじて「勉強会」と呼ばれるテキストの講読会を繰り返し実施。劇作家の紡ぐ言葉を一つ一つ紐解いていき、その本質を丁寧に見抜いていく。今回熊林が挑戦する『パンドラの鐘』は1999年、NODA・MAP第七回公演として世田谷パブリックシアターで初演され、紀伊國屋演劇賞個人賞・読売演劇大賞最優秀作品賞・芸術選奨文部大臣賞(演劇部門)などを受賞した名作。20世紀末に、野田本人が演出を手掛けたバージョンと、シアターコクーンで蜷川幸雄が演出をしたバージョンがほぼ同時上演され、二人の演出対決が演劇界を席捲した。「遺跡の発掘」「古代の天皇の殉死」「長崎への原爆投下」などのモチーフを扱い、<現代>と<古代>という2つの時間軸を行き来する物語だ。

野田戯曲らしい言葉遊びや複数のモチーフと時間・空間が交錯し、イメージが乱反射する、極めて独創性あふれる作品として評価されている『パンドラの鐘』。熊林演出では一人の俳優が<現代>と<古代>の登場人物を1人2役で演じる。熊林が、上演に際する自身のこの構想を野田に相談した際に、野田は「そういう話なんだよ!」と快諾した。

野田秀樹 メッセージ

「天上天下唯我独尊」とは、「ジーザス・クライスト」と並び称せられる、あの「お釈迦様」が生まれた時に発した言葉だ。訳せば「この世に俺ほど尊いやつはいねえぜ」である。聞きようによっては、どんだけ傲慢?な響きを持つ言葉だ。だから案の定、この「唯我独尊」が、お釈迦様以外の口から発せられると、「独りよがり」などと訳されもする。だが、熊林氏の演出を見る時、私がいつも感じる、この人の「唯我独尊ぶり」の訳は、「独りよがり」の方ではなくて「お釈迦様」サイドの方である。つまり「尊い」方の「唯我独尊」訳である。世間だろうがコロナだろうが我関せず、熊林氏ならば、脚本をひたすら深く深く読み込み、自分が信じた通りの世界を創るだろう。熊林氏の「唯我独尊」にどっぷり浸った『パンドラの鐘』は、どんな響きをもって、天上天下に鳴り渡るのだろう。I have been looking forward to listening to it. 因みにこの日本語訳は「楽しみだ」である。……短い。
野田秀樹

キャストは熊林が信頼する実力派の門脇麦・緒川たまき、大活躍の若手俳優金子大地ら多彩な顔合わせ!さらに、アーティストとしても活躍する松下優也の出演が決定!注目の俳優陣が競演!

2015年に熊林が演出した『狂人なおもて往生をとぐ』(作・清水邦夫/於・シアターイースト)に出演し、大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)にも話題作に出演し、若手主演女優陣の中で存在感を発揮する門脇麦。『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK)で好演だった今大活躍の若手俳優・金子大地。2人は古代の女王(門脇)と墓堀り(金子)、現代の遺跡発掘研究者(金子)とその恋人(門脇)の2役を演じます。門脇と同じく『狂人なおもて往生をとぐ』に出演し、熊林が信頼を置く俳優でユニークな存在感を示す個性派・緒川たまきが出演。

さらに、テレビドラマ・映画・舞台とジャンルを問わず八面六臂の活躍をする松尾諭、2019年にはKAAT神奈川芸術劇場『恐るべき子供たち』にて好演だった柾木玲弥、野田が東京芸術劇場で次世代を担う演劇人の育成を目指した団体「東京演劇道場」からはオーディションで選ばれた木山廉彬・長南洸生・八条院蔵人の3名が出演します。そして、新たに松下優也の出演が決定!俳優・アーティストとして活動し、連続テレビ小説『べっぴんさん』(NHK)やミュージカル『サンセット大通り』・『ハウ・トゥー・サクシード』で見る人の心を掴んだ松下優也はどんな活躍をするのか?

個性的な実力派が結集した今回の『パンドラの鐘』。熊林の斬新な演出により野田戯曲がどう新しく生まれ変わるのか期待!

『パンドラの鐘』あらすじ

本作は<太平洋戦争開戦前夜の長崎>と<遙か遠い昔の古代王国>の2つの時間軸が交互に物語られる。
歴史の謎に惹かれ長崎で発掘を行う考古学者のオズ(金子)がカナクギ教授の下で同僚のイマイチと掘り起こしたのは、土深く埋もれた巨大な古代の鐘であった。発掘研究の出資元であるピンカートン財団のピンカートン未亡人とその娘タマキ(門脇)はその鐘の謎を明らかにするようオズたちに依頼をする。すると、その鐘は古代王国が諸外国との戦の末に見つけた戦利品であったことが分かる。

ところ変わって、物語は古代王国の歴史を描く。王女・ヒメ女(門脇)は王であった兄の死をきっかけに王位を継承。王族に仕えるヒイバアとハンニバルは王の葬儀を終え、埋葬を葬式屋のミズヲ(金子)らに命じる。王の遺体を埋めるため森深く進んでいく葬式屋たち。とあることから、棺の中に隠された秘密を知ってしまう。ヒイバア・ハンニバルは口封じにミズヲらを処刑しようと企てるが、ヒメ女がそれを阻止、代わりにある任務をミズヲらに命じる。ヒメ女が統べる古代の王国は諸外国との戦を重ね、連戦連勝。戦利品として持ってきた鐘は美しい音色を持ち、パンドラという国から持ってきたことから「パンドラの鐘」と名付けられる。しかし、「パ
ンドラの鐘」は古代王国の秘密と共に埋められてしまう。

そこから時が経ち、長崎で古代王国の秘密をひも解くオズらは隠された真実に気付く。決して覗いてはならなかった「パンドラの鐘」に記された王国滅亡の謎とは?そして、古代の光の中に浮かび上がった<未来>のゆくえとは?