「天才てれびくん the STAGE ~バック・トゥ・ザ・ジャングル~」矢部昌暉(DISH//)インタビュー

1993年に放送が開始されたNHK『天才てれびくん』(以下、天てれ)シリーズは、ウエンツ瑛士や生田斗真、前田公輝、小関裕太、岡田結実ら数多くのスターを輩出した人気番組。この番組から巣立った“てれび戦士”たちと舞台版オリジナルキャストが集結して仕掛ける新たなエンターテインメントが『天才てれびくん the STAGE』だ。前田公輝らが出演し話題を呼んだ第1弾『~てれび戦士 REBORN~』(2020年)に続き、第2弾となる『~バック・トゥ・ザ・ジャングル~』(6~7月上演)で座長を務めるのは矢部昌暉(DISH//)。アーティストとして活動しつつ役者としても舞台を中心にキャリアを重ねてきた矢部に、この舞台の見どころやコロナ禍の今、エンタメを仕掛ける側として感じていること、『天てれ』に受けた影響などについても聞いてみた。

 


――『天てれ』に関わるのは約10年ぶりになるそうですね。これまでの役者としてのキャリアは舞台が中心だと思いますが、今回の脚本の川尻恵太さんや演出の小林顕作さんとお仕事をされたことは?

矢部「お二人ともはじめましてですね。でも小林さんのほうは(NHK教育『みいつけた!』で演じた)オフロスキーさんとしておなじみですし、川尻さんが脚本・演出をされている舞台を観に行かせて頂いたことがあったので、一方的には知っていました。」


――“てれび戦士”の方々が再集結するということはもちろん、このお二人は笑いやギャグ要素を盛り込むのがお得意なイメージがあって、すごく面白いコラボになりそうな予感がしています。

矢部「小林さんとお会いしてお話したんですけども、お芝居に音楽、ダンスといろんな活動をされていて多才な方ですし、いい意味で“頭のネジがぶっ飛んでる”方だなと思ったので(笑)、すごく楽しい作品になりそうだなと思います。」


――この舞台ではご自身役として出演されるそうですが、役作りについてはどう考えていますか?

矢部「小林さんの演出のアプローチとして、なるべく役者自身のパーソナルな部分を出していけたらという風におっしゃっていたので、キャラクターを作り込むというよりは素の自分に近い感じでやっていけたらいいのかな?と今は思っています。」


――何者かの企みで日常から消えつつある娯楽を取り戻すために、歴史が改ざんされる前の時代にてれび戦士たちがタイムスリップして……というストーリーですが、台本を読まれた第一印象はいかがでしたか?

矢部「僕が『天てれ』に出演していた当時にも毎年夏にイベントがあったんですけど、今回の設定やストーリーにも少しリンクするものがあって、はじめましてなのにどこか懐かしい印象がありました。“娯楽”がテーマということで、コロナ禍でいろいろなことが規制されたりしている今のこの時代にやる意味がある作品だとも感じています。ストーリーの中で“娯楽をなくして本来しなければいけないことに集中するべき”という敵チームの言い分にも一理あると思うし、自分たちの存在意義もかけて娯楽を取り戻そうとするてれび戦士チームの気持ちもすごくわかるし、どっち目線でも共感できる部分があるんじゃないかと思います。あと娯楽の持つ意味や大切さがわかりやすく描かれてもいるので、お子さんが観ても楽しめると思いますし、大人の方が観ても感じ取れるものがあるんじゃないかなと。」


――現在はちょうどバンドのツアー中(取材は5月中旬)で、アーティスト活動をしていても発表の場が限られてしまったり、エンタメに対して考えることが多い時期かと思います。

矢部「ずっとライブや舞台の場にお客さんがいるのは当たり前だと思ってきましたけど、“有観客”という言葉を多く目にするようになったり、今までだったら考えられないような事態になっていて……やっぱり改めてエンタメや娯楽の重要性や大切さ、自分はそれを提供する側としてどんなものを表現していけばいいのかと考え続けたこの1年ではありましたね。」


――話はそれますが、アーティストとしても俳優としても忙しく活動されていて、それぞれのお仕事のモードの切り替えはうまくできるほうですか?

矢部「自分の中でスイッチを切り替えているというより、その各現場に入ったら勝手に脳が切り替わっているというか。僕自身の中でどちらも違う脳を使っているからこそ、ある意味息抜きになっている部分があります。芝居のほうで頭がいっぱいいっぱいになっている時に音楽に向き合うと、違うことをやるので自然とリフレッシュできますし。逆に音楽のことでいっぱいいっぱいになった時に舞台の台本を読んだりすると、またそこでリフレッシュできる。特に僕は舞台を主にやらせて頂いていて、音楽のほうはライブ中心で、どっちも生ものなので通づるものがあるというか、だから相乗効果が出るんだろうなっていう風には思っています。」


――なるほど。話を舞台に戻しますが、ストーリー以外の見どころとして、大人になったてれび戦士が歌う『天てれ』楽曲を楽しみにしている方も多いのではないかと思います。2020年の第1弾作品ではかつての視聴者の方々の反応がすごく熱くて、「『夢のチカラ』(2009年度の楽曲)を聴くといまだに鳥肌が立つくらい感動する」とか、SNSでいろんな感想を拝見しました。

矢部「『天てれ』の音楽って子どもにも親しみやすいっていうのが一番のテーマだと思うんですけど、当時の楽曲を大人になって聴いてみると意外と深いなぁと思ったり、今でも響くようないい歌だなと思うものもあったりしますね。今回の舞台でも何曲かやりますけども、久々にやる曲だったり、自分がテレビで見ていた楽曲を歌えたりするので僕自身も楽しみです。」


――あと台本をちらっと拝見したら、“一発ギャグをやる”とだけ書かれたシーンがあってびっくりしたんですけど、自信のほどは……?

矢部「僕も台本を最初読んだ時に口に出して「マジか!」って言っちゃいました。本当に『天てれ』って、そういう無茶ぶりをするというか(笑)。何しろオーディションの時点で“モノボケ”(アイテムを使って笑わせるギャグ)の審査があったくらいですから。僕が2月にやった朗読劇で一発ギャグをやっているのをスタッフの方が観てくださったらしくて、今回の舞台にも発表の場が用意されてしまって……でも舞台で一発ギャグやる機会なんてなかなかないですし、せっかくやるなら大爆笑をかっさらいたいと思います! DISH//のライブでも一発ギャグ担当みたいなところがあって、普段からネタ帳も用意してギャグをストックしているので、日替わりで稽古の時から全部変えてやっていこうかなと。」


――それも見どころの一つですよね。ホームであるDISH//のライブはもちろん、たとえば事務所のイベントの『EBiDAN THE LIVE』なんかでも、そういう場面での矢部さんのハートの強さを感じた記憶がありまして。

矢部「僕がそういう振り切ったことができるようになったのは、やっぱり『天てれ』のおかげなんですよね。さっきのオーディションでのモノボケもそうですけど、番組の中でけっこうぶっ飛んだ企画に挑戦したりもして鍛えられた部分があって。そういう経験があったからこそ、今大勢のお客さんの前で一発ギャグとかできたりしていると思うので、そういう意味でも『天てれ』が原点なんですよ。なのでそこにまた帰ってこられる喜びを感じていますね。」


――今回は長江崚行さん、伊倉愛美さん、千葉一磨さんとのてれび戦士チームで、敵である娯楽を禁止された村の村人たちと戦う流れですが、実際の4人の関係性はどうなんでしょうか?

矢部「崚行とは番組でも同期で一緒に出ていて、この間まで一緒の舞台(『青山オペレッタ THE STAGE ~ノーヴァ・ステラ/新しい星~』)をやっていたりもしましたし、ずっと交流があって幼馴染みたいな間柄です。伊倉愛美さんと千葉一磨くんは僕が視聴者だった頃に出ていた“先輩てれび戦士”なので、今でも「テレビに出てた方たちだ!」みたいな感覚がめちゃくちゃ強いですね。コロナ前とかは、てれび戦士同士でたまに同窓会みたいなのが開かれたりしていたんですけど、お二人とこうやってお仕事するのは今回が初めてなんですよ。作品中では先輩後輩関係なくみんなてれび戦士で同列っていう扱いなので、僕が「愛美!」とか「一磨!」って呼んだりするんですけど、呼び捨てにまだ慣れてないのでドキドキしてます(笑)。」


――長江さんとは2作続けての共演ということで、この作品についても何かお話はされましたか?

矢部「さっき話に出た一緒の舞台の頃に、この作品に出ることが決まったんですよ。放送当時に僕と崚行ともう一人で歌って踊ってた曲があるんですけど、それを久しぶりに「覚えてるかな?」って一緒に歌ってみたりとかはありましたね。それで「うわぁ懐かしい! よく覚えてるね?」みたいな感じでめっちゃ盛り上がりました。」


――そんな同窓会的な懐かしさもありつつの再集結ということで。『天てれ』の当時の収録やキャストの方々との交流で特に思い出に残っていることというと?

矢部「小中学生が一同に会しての収録なのでとにかくワイワイしてましたし、今思えばそんなガキんちょたちをまとめていたスタッフさんは本当にすごいなって思います。個人的に印象に残っていることでいうと『天てれ』のドラマの撮影で他のてれび戦士たちと地方に泊まりで撮影したことがあって。盛り上がりすぎて夜更かしして、次の日みんな寝坊しちゃって撮影に遅刻したんですよ。さすがにめちゃくちゃ怒られまして、その記憶が鮮明に残っているので、それからは電車の遅延とかの不可抗力の理由以外では一切遅刻しなくなりました(笑)。お風呂にも入らずに寝ちゃってそのまま撮影に行ったので、そのイヤ~な感じもセットで忘れられない思い出です。」


――普通の人よりも一足早く社会の厳しさを知ったということで……。『天てれ』出身で活躍されている俳優さんやタレント、アーティストの方も大勢いらっしゃいますが、仲間たちの活躍ぶりに触発されるものはありますか?

矢部「同じてれび戦士でも出演時期が違うと直接の交流はなかったりするんですけれども、僕の意識としてはチーム感というか、家族みたいな絆があると勝手に思っているので、他の人の活躍が自分のことのように嬉しいんですよ。「みんな、すごい活躍してるな」「僕も頑張んなきゃ」みたいな気持ちにもなりますね。」


――これまでにも『イケメン源氏伝 あやかし恋えにし ~義経ノ章~』(2020年)などで主演を務められた経験があると思いますが、座長として今回はどう作品に臨まれるんでしょうか。

矢部「僕自身はすごい人見知りでコミュニケーションを取るのも下手ですし、どちらかというと座組の中で先頭を切って走っていくタイプではないなと思っているんです。どう振るまえば正解なのかまだよくわかっていない部分もありますけど、この作品自体はすごく楽しいものなので、みなさんとなるべくコミュニケーションを取って仲良くなりながら、座組のコンビネーションをどんどん高めていけたらいいなと思います。まずは頑張ってみなさんに話しかけて、早く仲良くなりたい。あとは真摯に一生懸命やって、みなさんがそこについてきてくれたら嬉しいなと。」


――現時点ではどんな舞台にしていきたいと目論んでいますか?

矢部「『天才てれびくん』は子ども向けのバラエティなので、舞台もまずは子どもから見て楽しくて「てれび戦士カッコイイ!」って思ってもらえるようにしたいですし、大人から見ても「やっぱり『天てれ』は面白いな」って思ってもらえるようなものにしたくて。まじめなお芝居の中に笑えるシーンもあるし、歌って踊れるコーナーもあったりしてかなりバラエティに富んだ内容になっていると思うんです。自分たちが楽しんでいることを全力で表現していけばそれがお客さんにもストレートに伝わるんじゃないかと思うので、とにかく楽しい作品にしたいなと思っています。」


――何度も口にされていましたが、原点である『天てれ』にキャリアを重ねて戻ってこられるということで、感慨深いですよね。

矢部「この作品には大人になったてれび戦士たちが出てきますが、当時を知っているスタッフさんたちや見てくれていた視聴者の方々に「矢部昌暉も成長したな、大人になったな」と思ってもらえるようなものを見せられたら。座長としてしっかり座組を引っ張りつつ、みんなで笑い合えるような楽しい作品にしたいので、これから稽古を頑張っていきたいなと思います。」

 

インタビュー・文/古知屋ジュン