【特別企画】今キニナルをご紹介!/Mrs.fictions

人生で一番美しい瞬間を切り取りたい

 

出場団体は6団体。上演時間は各15分。指折りの劇団による珠玉の短編舞台が楽しめる『15 Minutes Made』が好評のMrs.fictions。演劇に詳しくない方が入門編として足を運ぶには最適な、小劇場界のフェスイベント的企画だ。

今村「小劇場界のこれからを考えた時、ひとつの団体だけが大きくなったとしても、全体としてはあまり変化がないなと思ったんです。それよりもみんなでシーンを盛り上げて、たくさんの人に演劇を楽しんでもらえる土壌をつくる方が先決。そのための企画として始めたのが『15 Minutes Made』です」

 

柿喰う客、月刊「根本宗子」、梅棒など、今や小劇場界を代表する気鋭の団体にいち早く光を当て、その面白さを広めてきた。昨年の10周年アニバーサリー公演では、演劇界のスタンダード・演劇集団キャラメルボックスとカルトな人気を誇る劇団「地蔵中毒」がまさかの共演。企画力や組み合わせの妙もMrs.fictionsの魅力。セレクトショップ的な目利きのセンスには定評がある。

中嶋「作品の幅と年代の幅はできるだけ広く、というのがラインナップを決めるポイント」

岡野「地蔵中毒さんは面白いけど、地蔵中毒を6つ集めてもイベントは成立しない。自分たちが持っている感覚と持っていない感覚。両方をいかに照らし合わせるかにこだわっています」

異なる個性が集うことで、自分の趣味なら足を運ばないであろう団体の意外な魅力を発見し、観劇の幅が広がる面白さがある。しかも、それが15分の短編だから手軽でいい。

中嶋「15分だと、各団体、自分たちの武器をひとつしか使えない。そこがいいんですよ」

岡野「寄り道する時間がないぶん、その団体のカラーがはっきり出るのが15分の面白さだと思う」

今村「自分たちの色を出しつつ、切れ味の鋭い短篇をつくる上で最適な時間が15分。実は、この15分の短編が劇団史上最も面白い作品になったと言ってくださる方も結構いるんですよね」

一方で、Mrs.fictions自身も、優れた佳作を安定的に送り出す地力を持った団体として、目の肥えた演劇ファンからも信頼を置かれている。肝となるのは、脚本・演出の中嶋が描く世界観だ。

岡野「中嶋くんの世界は優しいんですよ。別にコメディではないのにちゃんと笑えて余韻もいい。描いているものも、僕たちの人生と地続きのお話だからすっと入り込める。人生における美しい瞬間を切り取ってくれるところが素敵です」

今村「中嶋くんは、何かを描こうとした時に、その裏返しにあるものを決して無視せず、人生の苦しさや悲しさをよくわかった上で、それでも温かいものや美しいものをしっかりと描いてくれる。だから、彼の作品は信頼できるんです」

中嶋「一番こだわりがあるのはラストシーン。生き続ける以上は完全無欠のハッピーエンドがないことくらいわかっている。それも踏まえた上で、今が人生で一番幸せだよねと言える瞬間を切り取ることが、僕の理想なんです」

短編のイメージが強いが、8月には5年ぶり4度目の長編作品に挑戦する。今度は、どんな世界を見せてくれるのか、楽しみに待ちたい。

 

インタビュー・文/横川良明
Photo/山本倫子

 

※構成/月刊ローチケ編集部 5月15日号より転載
※写真は本誌とは異なります

掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布

 

【プロフィール】
Mrs.fictions
■ミセスフィクションズ ’07年旗揚げ。『上手も下手もないけれど』(’16年)で同年の佐藤佐吉賞で最優秀脚本賞と優秀作品賞を受賞。