昨年放送されたドラマ『先生を消す方程式。』が記憶に新しい鈴木おさむ×田中圭のタッグが、今度は舞台に挑戦する。このタッグによる舞台は『芸人交換日記 ~イエローハーツの物語~』(2011年)、『僕だってヒーローになりたかった』(2017年)に続き、この『もしも命が描けたら』で3作目。前作のときに「また一緒にやろう」と誓った約束の舞台となる。なぜ2人はタッグを組み続けるのか、押しも押されもせぬ実力派俳優・田中圭に話を聞いた。
――本作の脚本・演出を手掛けられる鈴木おさむさんとは、昨年秋のドラマから約半年という短いスパンでの再タッグとなりますね。
「元々はこの舞台が先に決まっていたので、本当は『数年ぶりに一緒にやりましょう』という形になるはずだったのですが、去年のドラマが急遽決まりまして、久々感がなくなってしまいました(笑)」
――ドラマはかなりヘビーな現場だったようですが。
「去年のドラマは、おさむさんにとっても僕にとってもチャレンジでした。僕自身『おさむさん、すごいことさせるな……』と思いながら取り組んでいましたが、地上波の連ドラでああいうチャレンジをしようとする人はあまりいないと思うので、そのチャレンジをできたというだけでも価値があったかなと思います」
――ドラマからは一転して、この『もしも命を描けたら』はとてもピュアなラブストーリーです。
「実はまだ内容を詳しく知らないんです。自分が絵を描く役で、それに命を与えるらしい、というくらい」
――そうなんですか!でもそうして身を委ねられるのも、鈴木さんとの信頼関係があるからこそですね。では、清川あさみさんやYOASOBIさんという、今をときめく方々がクリエイティブスタッフに入られることはご存知ですか?
「いえ、今初めて知りました。それは……すごいですね! きっとおさむさんがやりたいことがあって動いたんでしょうから、僕も楽しみです。どうなるんだろうってワクワクしかありません」
――小島聖さんや黒羽麻璃央さんとは、今回が初共演でしょうか。
「そうだと思います。今はまだ顔合わせもしていないので、どういう方なのかわからないというのが本音ですが、おさむさんが選んだ方々なのでめちゃくちゃ楽しみです。下手に先入観を持っていない分フラットに、楽しくご一緒させていただける気がします」
――今回はアンサンブルも入らず、この3人だけでお芝居されると伺っています。3人芝居となると、役者としての力量を問われる舞台になりそうですが。
「正直、そういう舞台には慣れているので、何とも思わないです。『芸人交換日記』も3人でしたし、他の演出家さんの舞台でも3人、4人、多くても8人とか。2人芝居はありませんが、そういう舞台出演が多いので。逆に大人数の舞台の経験がないので、少人数という点での不安やプレッシャーはありません」
――これまでの鈴木さんとのお仕事で、特に印象に残っているものは何ですか?
「特にと言うと、やはりAbemaTVの『田中圭24時間テレビ~24時間生放送しながらドラマは完成できるのか?!~』(2018年)。あれは一生忘れられないですね」
――ありましたね!24時間でドラマを作る様子を生放送するという、前代未聞の番組でした。あれも大きな挑戦だったと思いますが、鈴木さんからそういう無茶振りとも言える挑戦のパートナーに選ばれることに、嬉しさはありますか?
「嬉しい……のかな?嬉しいは嬉しいですが、うーん……まあ『嬉しい』になるんでしょうね(苦笑)。でも、確かにAbemaTVや去年のドラマは無茶振りと言われますが、おさむさんに対して“無茶振りをする人”というイメージはありません。確かに『煽られてるな』とは思いますよ。だから無茶振りと言えば無茶振りなんですが、それに対して僕も『よし、やりますか』と思うので、無理なことをさせられているとは思っていません。おさむさんは常に『田中圭、どこまでやれんの』と僕を限界まで引き出そうとしてくださるので、僕もそれに応えたいし、それ以上のものを蓄積していかなきゃいけないなと」
――昨年のドラマから間が空いていませんから、「また違う田中圭を見せられるか」というプレッシャーはありませんか。
「それほど心配はしていません。僕は、鈴木おさむ作品はものすごく役者に左右されると思っていて。だからこそしっかり取り組みたいし、絶対に自分だからこそのキャラクターになると思うので、そこに向き合うのは怖さもあるけど楽しみな気持ちのほうが大きいです。おさむさんはすごく面白い世界観をお持ちですし、オリジナルで脚本を書かれていますが、『これは誰がやっても面白い話だね』という巧みな脚本を書く方ではないと思うんです。そうではなくて、誰が演じるかによってガラッと変わるような、振れ幅が非常に大きい脚本を書く方。おさむさんの脚本は、それこそ表現の仕方が千通りくらいあるんです。大抵の役は選択肢がある程度限られていますし、原作がある作品だとさらに守らなきゃいけない部分が増えていく。もちろん演じる役者によって必ず味付けは変わりますが、役の方向性は大体絞られているもので。だけどおさむさんの脚本は、その形がまったくない。それこそ“演じる人の形そのまま”みたいな役もあるので、おさむさんの作品は本当にキャスティングがとても重要だと思いますし、僕自身しっかりと取り組もうと思います」
――稽古期間は3週間強と短めですが、小島さんや黒羽さんとお芝居するのが楽しみですね。
「はい、楽しみです。でも稽古は短いほうが僕は嬉しいので、そのくらい短期間でいいですね。おさむさんも稽古をがっつりやるタイプの方ではありませんし。あとはとにかく早く台詞を覚えて、いつ僕のモチベーションが上がってくるか……かな」
――もしかして、稽古より本番がお好きなタイプですか?
「稽古は大嫌いです(笑)。基本的にいつも舞台の稽古は、モチベーションが低い状態で入りますから。僕自身もいつからモチベーションが上がるか本当にわからないし、前回の『僕だってヒーローになりたかった』も最後の通しくらいまではまったく上がらなくて。本番に入ったらずっと高いんですけど。でもそれはおさむさんもご存知なので、稽古では『7、8割でいいから見せてね』って。正直な話、稽古しないで本番できるならそうしたいくらいで、あくまでやらざるを得ないからやるという感覚です」
――率直ですね(笑)。例えば一人舞台で、自分が台詞さえ覚えていれば本番ができるという作品なら、稽古なしでも構いませんか?
「舞台のテイストにもよりますが、別にぶっつけ本番は嫌いじゃないので、構いません」
――今のお話を伺って、鈴木さんと田中さんが何度もタッグを組まれている理由がわかった気がします。きっとその、ぶっつけ本番のライブ感を楽しめるところが合うんでしょうね。
「そうかもしれません。もちろん稽古はとても大事なんですが、稽古で完璧に作り上げてしまうとそれも違うし、バランスが重要なんですよね。その辺りは本当に難しい話なんですが、とにかく稽古は嫌いです(笑)」
――では最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
「この作品はきっと、すごくわかりやすいお話になると思います。シンプルなお話の中に誰もが共感できるメッセージが込められているのが、鈴木おさむ作品の一番の魅力。それにこんな状況でやらせていただく舞台ですから、本当に敷居が低くて誰でも気軽に観に来られるような作品にしたいと思っています。きっと損はさせませんので、ぜひ観に来ていただけると嬉しいです」