『喜劇 老後の資金がありません』製作発表記者会見レポート

2021.07.01

渡辺えり&高畑淳子がダブル主演で舞台初共演の新橋演舞場8月・大阪松竹座9月『喜劇 老後の資金がありません』製作発表記者会見が行われた。

 

出演者挨拶

《マギー(脚色・演出)》
今日、緊張しながら会場に来たのですが、ちょうど(渡辺)えりさんと高畑さんがご挨拶をされているタイミングで、お二人が「あ~!!!」「いや~~!!!」とご挨拶されているのが本当に明るく、大きな花が2輪そこに咲いている雰囲気があり、緊張もなくなりました。
原作がとても面白く、誰もが抱える問題を描いており、そこに具体的な数字、身につまされる数字があります。これを舞台化するにはどうしていこうかと。「老後の資金がありません」と、内向きな独り言が書かれているセリフを、「老後の資金がありませ~~~ん!!!」と明るく歌い上げることで、お客様に表現していければと思います。
生活感あふれるこの作品を、歌や踊りや笑いでエンターテインメントにしていきたいと思っています。

《渡辺えり》
本当に「老後の資金がない」んですね。今66歳で、「老後の資金がない」なと思いながら、この芝居をやるということが興味深いですし、楽しみです。
老後の資金がないのだけれど、もっと必要なことがあるな、ということをこの一年間考えていて。それは友情関係や愛情関係、家族との関係など、目に見えないものが大きいんだなというのを考えた一年でした。
資金だけではなくて、何か足りないものがある、それをマギーさんが本当に面白く脚色してくださったと思うのですが、長年暮らしていて信頼関係があると思っていた夫婦に、資金がないと分かった時に亀裂が走っていく。そして、信頼していたものがそうでないのではと疑いを持ち、乗り越えていく話だととらえています。
私は、高畑さんとずっと共演したいと思っていたのですが、1回も共演がなくて。30年ほど前、『女たちの十二夜』という作品で高畑さんがサー・トービーという酔っぱらいの男役をなさっていて、いつかご一緒したいと思っていました。
今回、歌もあって、踊りもあって、夢のように明るく演じたいと思います。だって、「老後の資金がない」んですから(笑)。
こういう時代だからこそ、みんなが触れたくなるような、楽しい芝居を目指して、皆で力を合わせて頑張っていきたいと思います。

《高畑淳子》
(渡辺)えりさんはエネルギッシュな方で、演舞場の公演日程も私にとっては中々エネルギッシュ。私はこうみえて意外にか細くて、お芝居の中日くらいには無声映画のようになってしまって、千穐楽には声も出なくなってしまった・・・というのが前に演舞場に出演したときにございました(笑)。自分の体力を帳尻を合わせつつ、最後まできちんとお客様に満足していただけるようと思っております。
今、枯渇しているのは心の滋養だと思っております。私自身もそうですが、心が不安なんですよね。この間、映画館の客席に座ってスクリーンを見た時点で号泣してしまって。こういう場所に来ること自体、魂が震えるというか、「あー、来てなかったな」と。劇場には不思議な力があって、何かを強くして帰ってもらえるという、魔法のような場所だと思います。
演舞場という劇場自体もお芝居小屋らしいので、お客様の何かを満たして帰っていただける、そんな作品になればと思っております。

 

――渡辺さんと高畑さんに、お互いの印象を教えていただけませんでしょうか。

(渡辺) 高畑さんの舞台は、井上ひさしさん、明治座、青年座など様々な作品で拝見していますが、全部違う、というのが好きです。役を演じるときに心根を変えてらっしゃる。黙っているときの表情が面白い。具体的に役として感じることのできる、稀有な役者さんの中のおひとりだと思っています。

(高畑) 20、25年前くらいでしょうか、パルコであるお芝居をやっておりました。その中で出演者の一人に「ちょっといけてないな」と思う方がいたんですが、えりさんがお客さんとしていらした際に、ドドドドと楽屋に来てその俳優さんを捕まえて「あんた、あの役わかってる!?」と言い出して、「すごいなぁ、この人は」と。それが焼き付いていて、その人と今回、お芝居をするのかと(笑)。

(渡辺) 演出家ですので、若い時に友達に関しては、持ちつ持たれつで本当のことを言って高め合わないといけないと思っていたので、本当にそういうことをやっていたんですよ。今はそんなことはやっていません(笑)。若い頃は亡くなった(中村)勘三郎さんとも、彼が「おかしいよ」といえば、私も「(役として)嘘ついたでしょ!?」というやり取りをして高め合っていく、という時代にやっていたのだと思います(笑)。今では絶対そういうことはやりません(笑)。

(高畑) 物を作るというのは刺激をしあってのことで、自分で気が付いていないことを教えてもらえるからこその芝居なのに、だんだんそれから年齢を含めて遠ざかっていく、裸の王様になりつつある年代ですので、お芝居を久々につくれるという楽しみにあふれています。

 

――歌あり、踊りありの作品ですが、どう取り組もうと思っていらっしゃいますか?

(渡辺) 歌があることで時間が飛べるというか、小説そのままですとかなり長いお芝居になりますので、その部分を歌で解説できる、そして、気持ちも切り替えることができるんですね。歌うことで1週間後になって、解決したつもりで別の悩みに取り組めるような。
踊りは、実生活ではなかなか踊れないじゃないですか。踊りには、気持ちを発散するようなシュールな部分があると思います。
気持ちの説明を端的にできる歌と踊りが好きです。

(高畑) 今、「渡辺えりは演出家なんだな、私はのほほんとやれるぞ」と感動してしまいました。歌と踊りは苦手です。私、声は意外とか細いんです・・・頑張ります。

(マギー) 心象風景や自分の中の独り言を歌と踊りで明るく、時にはバカバカしくさえ伝えることができれば良いなと思い、そのような脚色にしております。それをえりさんがここまでわかってくださっているなら僕は「どうぞ!」と言っていれば良いかなと思っています。
そして、高畑さんの歌が楽しみです。

 

――ご自身の役柄について教えてください。

(渡辺) 普通の主婦が何をしでかすか分からない世の中ですが、その中でも普通の主婦という設定です。契約社員で働いていて、夫もきちっとした会社に勤めていますが、娘が結婚したり、お葬式代が必要だったりして出ていくお金が多くなっていく。主婦が誰でも経験するような事柄が繰り返されていきます。
夫の気持ちを尊重しながら我慢していく、自分を殺して夫や娘の為に尽くしていく。今、コロナ禍で孤立している主婦の方も大勢おられると思います。一般の主婦の皆さんとともに考えながら演じていければと思っております。

(高畑) 私は節約家で、美容院に行かずに自分で切る、節約はサバイバルであるという、パン屋を夫と経営している役です。基本、たくましそうな人に見えて、そうなりたかったんだという一節もあって、そこに胸を打たれて。えりさん演じる篤子さんといるときは「なりたい自分になっていたかった」というのが胸に染みる役です。

 

――このような状況で劇場に立つことについて教えていただけますでしょうか。

(マギー) コロナ禍前に脚色した作品です。コロナになる前の世界として描くつもりでいます。閉塞感のある世の中ですが、マスクをしていてもゲラゲラと解放感をもって笑ってもらって、そのような気持ちで劇場の外に出てもらうことが、我々がお客様に届けるべきことかなと思っています。

(渡辺) 大笑いして、泣いていただきたいと思います。今、自分が孤独で辛いんです。Zoomの打ち合わせでもマスクで意思の疎通が上手くできなくて落ち込んだり。皆さんもそのような生活を送っていらっしゃると思うのですが、その中で生の演劇を観ると本当に救われます。劇場の中にいるときだけはホッとする、落ち着くというか。ここが自分の居場所だな、と穏やかな気持ちになります。
この芝居を観ていただいたお客様には私と同じようにホッとできるような舞台にしたいです。とにかく思いっきり演じさせていただいて、お客様を笑顔にしたいです。

(高畑) 今回、特にご高齢の方のお申し込みが多いんです。「ずっと家にいるのが苦しくて、今回はお芝居行こうと思うの」と。何か心が枯れているではないですが、欲しているんでしょうね。舞台の物語というのは安穏なことばかりではないですが、色々あるのが人生ですし、思いもかけないことにぶち当たるのが生きているということですし、観ていただくことで心が強くなって帰っていただけると思います。
えりさんもおっしゃいましたが、私もこの世界が好きで、小説・映画・舞台が心を強くする存在であり、お客様にもそうなっていただけることを信じて、心を込めて演じていきたいと思います。

 

ものがたり

普通の主婦・後藤篤子(渡辺えり)は、家計に無頓着な夫の章(羽場裕一)、大人しく頼りない長女・さやか(多岐川華子)、優秀な息子・勇人(原嘉孝)と平凡な4人家族です。子育ても落ち着き、契約社員として働きながらコツコツと老後の資金を貯めていました。

篤子の月1回の楽しみは生花教室。教室の若い教師・城ケ崎快斗(松本幸大)は皆の憧れの的で、生徒の関根文乃(明星真由美)も彼に夢中です。

その生花教室で一番仲の良い友達・神田サツキ(高畑淳子)との喫茶店でのおしゃべりはストレス解消の大切なひと時。サツキは夫・克也(宇梶剛士)と小さなベーカリーを営んでいました。

そんな中、次々と篤子の“老後の資金”が減っていく事態が起きます・・・。長女・さやかの派手な結婚資金、舅・英明と姑・芳子(長谷川稀世)への仕送り資金、篤子の職場からの突然の解雇、さらには舅が亡くなったことで義妹の櫻堂志々子(一色采子)に約束させられた 葬式資金、夫の会社が倒産・・・。

一方サツキは、実は認知症の姑・竹乃の年金を当てにしていました。しかし姑は失踪しており、サツキは役所の家庭訪問の際、芳子に身代わりになってほしいと頼みます。これはもしかして年金詐欺になるのでは・・・!?

篤子とサツキ、ふたりの行く末は?果たして幸せな老後を過ごすことができるのか!?

私たち、「老後の資金がありません」!