南沢奈央×濱田龍臣 二人芝居初挑戦!KUNIO10『更地』

2021.08.20

 

2020年代を牽引する演出家・杉原邦生による作品創造

元号も変わり、新しい時代の到来を告げているいま、今後の舞台芸術界を牽引していく演出家との共同作業として、杉原邦生を迎える。
杉原邦生は、自身が主宰するプロデュース公演カンパニーKUNIOでの活動を軸に、木ノ下歌舞伎の演出では数々の代表作を生み出し、東京・神奈川・埼玉・松本など各公共劇場のプロデュース公演のみならず、新橋演舞場でスーパー歌舞伎IIの演出を手がけるなど、小劇場空間からダイナミックな中・大劇場空間までを自在に行き来し、扱う題材もギリシア悲劇や歌舞伎などの骨太な古典演目から新作現代劇までヴァラエティに富み、まさに八面六臂の活躍をしている。
2020年1・2月シアタートラムにて唐十郎の名作『少女仮面』に取り組み、51年前に書かれた戯曲に「現在」の息吹を吹き込む演出力が高く評価された。同年11・12月にはKAAT神奈川芸術劇場にて新たなギリシャ悲劇の創造と銘打ち『オレステスとピュラデス』を演出し、各方面から絶大な支持を得、21年2・3月には新生PARCO劇場オープニング・シリーズ『藪原検校』にて井上ひさしの傑作戯曲を現代の物語として大胆に甦らせた。

 

コロナ禍による社会の変動期に、問うべき作品『更地』

コロナ禍における社会状況の変化に伴い、これまでの常識が覆され、価値観が揺さぶられているいま、杉原の大学時代の恩師でもある劇作家・演出家、太田省吾の代表作のひとつ『更地』を上演することにした。
バブル経済崩壊期の1992年、太田自身の演出によって初演された『更地』は、阪神・淡路大震災の翌96年に再演。家の解体を終えた更地で過去の記憶を辿る夫婦の姿が観客の胸を打ち、大きな話題となった。杉原は自身のカンパニーKUNIOにて、東日本大震災の翌2012年に上演。戯曲の設定と異なる若い俳優をキャスティングし、二人の男女が「未来」の希望へと向かう新たな物語として再創造し、京都のみの公演でありながら、大きな注目を集めた。
『更地』に登場する夫婦は、互いに一番身近な存在でありながら、わかり合えていない多くのことを抱えているかもしれない。「二人」という人間関係の最小単位で、何が共有できて何が共有できないのか、理解し合うためにどう対話していくのか。家がなくなり「更地」になっても、決して消えることのない経験・想い出・歴史の上で、彼らはその答えを探していく。
平常では見過ごしていた夫婦・親子・家族関係のありようがあぶりだされている昨今、本作を通して、身近な人との関係、ひいては社会との関係を見つめ直す場となることを願っている。

 

演出ノート

『更地』はある夜、かつて自分たちの家があった場所へとやってきた初老の夫婦の物語です。二人は屋根のなくなったその場所に立ってふと、頭上に浮かぶ月に気がつきます。それまでは見えていなかった、もしくは見ようとしてこなかった、けれど、屋根の上にいつも当たり前にあった月――――。僕たちはいつの時も、このことを忘れてしまっているのかもしれません。〈屋根〉がなくならないと気がつけなかった〈月〉の光を。
いま僕たちは、ふたたび〈月〉の存在に気付かされ、〈屋根〉の意味を考え直さなければならない時代を生きています。でも、もっと大切なのは、〈月〉の存在そのものだけでなく、〈月〉を輝かせる光のみなもとが別のところに在るという事実です。そのみなもとに立ち返ることでしか、僕たちがつくるべき〈屋根〉の本当のかたちは見えてこないと思うからです。
だからこそ、僕にとっての演劇の原点でもある『更地』をいま、もう一度演りたい、そう思っています。

杉原邦生

 

二人芝居初挑戦のフレッシュな顔合わせ 南沢奈央✖️濱田龍臣

杉原にとって9年ぶりの上演となる今回も、戯曲の指定とは異なる世代の俳優をキャスティングし、未来の演劇界を担う若き二人とともに、新たな『更地』を創造する。
太田版初演で岸田今日子が魅力たっぷりに演じた「女」役には、安定した演技力で舞台での活躍が目覚ましい南沢奈央。南沢はこれまで数多くの舞台に出演・主演していますが、初挑戦となる二人芝居に意欲を示している。
対する「男」役には、達者な子役から大人の色気を纏う俳優へと変貌しつつある濱田龍臣。濱田は昨夏、三谷幸喜作・演出『大地』で初舞台を踏み、昨冬には杉原演出による『オレステスとピュラデス』でタイトル・ロールのピュラデス役を見事に演じ切り、杉原との二度目のタッグに闘志を燃やしている。
どんな作品にも鋭い「現在性」を見出し、ダイナミックに劇空間へ提示する演出力に定評のある杉原が、“いまこそ演るべき作品”と上演を切望した。