「ビロクシー・ブルース」濱田龍臣×宮崎秋人 インタビュー

ブロードウェイを代表する喜劇作家ニール・サイモンの自伝的戯曲「ビロクシー・ブルース」が11月3日(金・祝)~19日(日)に東京・日比谷のシアタークリエにて上演される。1985年にブロードウェイにて上演され、トニー賞最優秀作品賞を受賞するなど高い評価を得ている本作。この戦時中の訓練所で繰り広げられる青春グラフィティに挑む、濱田龍臣と宮崎秋人の2人に話を聞いた。

――まずはご出演が決まってどのようなお気持ちになりましたか?

濱田 共演の方々が年上の方が多いんですよ。僕も23歳になって最近は年下の方との共演も多くなり、この仕事を始めてから時間が経ったんだなと思っていたんですが、今回は一番年下ということなので、改めて気を引き締めて頑張りたいと思いました。ニール・サイモンの自伝的な青春グラフィティとのことで、台本を読んでみると、僕が演じるユージンは、ストーリーテラーをしつつ…という役。過去を回想しながらじゃなく、現在進行形で伝えていく感じなので、難しい部分も出てくるんじゃないかと思っていますが、そこをどう落とし込んでいくかが課題ですね。

宮崎 今回演じるエプスタインは、自分が今までやってきた役とは、かなりかけ離れているんですよ。まだ自分が演じるエプスタインが想像つかないな…と役が決まった時から今もずっと思っています。だから、今回はかなりの挑戦だと自分では感じています。演出の小山ゆうなさんや、共演のみなさんのお芝居の中に自分の身を置いてみて、少しでも見えてくればいいなとは思っていますね。翻訳物だからか、言葉遣いに特徴があるので、それをひとつひとつ、自分が腑に落ちるように繊細に言葉を発しないと、チグハグな役になってしまいそうな気がしているんです。そこは焦らず、自分がやる意味を考えながら捉えていきたいですね。

――役どころについての今の印象をお聞かせください

宮崎 エプスタインはちょっと人の輪から外れているというか…。でも、別に外れようと思っているわけではないんですよね。ただ、輪の中にいる必要性とかも別に感じていないんです。簡単な言葉にするならマイペースで、本が大好きな男の子だから、その分、言葉や知識も豊富。彼なりの芯が1本通っているようには思います。自分と似ているところは、実は腹の中で別のことを思っていたりすること。思っていることを言っているようで、もう一段階が腹の中にあるんです。表面的な部分は似ていないんですけど、そこは近いんじゃないかな。

濱田 ユージンは、最初のインパクトとしてはすごく自己顕示欲が強い人。そこまで書いちゃうんだ、というところまで書いてるし、自己顕示欲が強すぎて意外と嫌な奴だな、と思えてきて。それでも、憎み切れない部分があるからこそ、ああいう場に居ても何とかなっているんですよね。こういう、ちょっと鼻につく役との出合いがなかなか面白いなって思っています。その人となりはセリフの言い方とかに乗せていくことになると思うんですけど、自分はどうするんだろう?って、ちょっと他人事のように楽しみにしてます。出会った人のことを、こういう人なのかな?って勝手に想像するようなところは僕にも多少はあるんですけど、それを紙に書き落としていくってどういうことなんだろうか、って言う部分は深さが違うので。共通しているかもしれないですけど、もっと深く掘り進めなければ、と思っています。

――お2人は今日が初顔合わせとお聞きしました。お互いの印象はいかがですか?

宮崎 まず顔立ちが優しくて可愛らしいんですよね。台本を読みながら脳内でイメージはしていましたが、結構骨太な部分もあって、考え方も含めて芯がしっかりある人だと思いました。きっと自分が脳内で作っていたユージンとは異なる予感がして、稽古初日が楽しみになりました。

濱田 最初にもお話したんですが、今回はみんな年上なんですよ。秋人さんも10歳上で、初めはすごく緊張していたんです。舞台の方で活躍されていて、僕は映像がメインでここ数年になって舞台へも出させていただく機会が増えてきましたが、まだまだなのでソワソワしていたんです。実は今日、秋人さんだけじゃなく松田凌さんや鳥越裕貴さんともお会いしたんですが、本当にみんな素敵な方々で。今日でかなり打ち解けられました。稽古中もいろいろとお聞きしたりすると思うんですけど、よろしくお願いします!という気持ちです。

宮崎 今日でイジっていい人とか、わかったでしょ(笑)。

濱田 はい(笑)。でも、今日お会いできたのはカンパニーの半分くらいなので、全員集まったらどんな感じなんだろう?と楽しみにしています。

――今回は青春を描いた会話劇のような部分が大きいと思います。舞台での会話劇の面白さや難しさを、どのようなところに感じますか?

濱田 やはり会話のテンポ感じゃないでしょうか。映像だとカット割りがあって、良くも悪くもごまかせてしまう。舞台だと、引きの画のままで全身を見られながら会話していくので、全員が詰まることなく、役としての解釈を持ったまましゃべり続けるのか、というところは映像では出しにくい難しさ。そして、そこが1番の面白さでもあると思います。

宮崎 誰を見るかとか、何を感じるのか、というのがお客さんに委ねられているんですよね。編集が無いので、俳優がその場の空気に責任をもってやっていくのが舞台。自分がしゃべっている場面だから自分を見てくれ、じゃなかったりするんです。そこで誰を見たくなるか、というのをコントロールできるような感覚もすごく楽しいですし、ほかの誰かがしゃべっているときに端っこでいらんことをしているのも、その役の性格だったりするし。その場の感じを全員で作っていくというのが舞台だと思いますね。

――ニール・サイモンの描く物語や言葉は、どのように感じますか?

宮崎 今回の作品に限らずですが、海外の昔からある作品って、セリフや言葉の持つ力がすごく強いですよね。シェイクスピア作品に出演したときに、演出の方から「お前の感情は見せなくてもいい」と言われたことがあって。その言葉をハッキリきれいに聞かせてくれたら、言葉が全部持っていて、気持ちを込めなくたって伝わるって言われたんですね。それってスゴイことですし、ハッとしたんですよ。このキレイなセリフたち、完璧な言葉をお客さまに届けられたら、最低限成立するんです。でも、じゃあ何で自分が演じるのか。そこで初めてスタートに立てるんですよね。今回であれば、そういうニールならではの言葉にはこだわりたいと思います。

濱田 本当に言葉選びだったり、言葉の並びだったりのきれいさがあるので、まずそこは崩さないようにしたいと思います。もともと自分は、セリフをカッチリ100%そのまま言うタイプではなくて。あくまでも日本語としてニュアンスが伝わることを優先していた部分があるんです。でも今回は翻訳で、一度フィルターを通しているので、素敵な言葉たちだからこそ気を付けなければいけない。自分の解釈を入れすぎないようにするというのは、大切にしていきたいですね。

――青春でもあり、戦争という思いテーマも含んでいますが、台本を読まれてみて物語としての魅力はどのようなところに感じていますか?

宮崎 エプスタインを演じるつもりで読んでいるので、こんな嫌なやつを演じるのか、と(笑)。性格悪いと思わせつつ、ちょいちょいいいところも出てきて…でもやっぱり嫌だコイツ、と思って。どの役柄も長所短所がしっかりあるんですよね。それをひっくるめて愛せるような人物の作り方があって、そこは魅力的だと思いました。普通は、主役はいい奴で居るとかあると思うんですけど、全部書いちゃってて、そりゃ怒られるわ、みたいなこともあったり(笑)。そこも人間的で、誰にも隙があるんですよね。

濱田 本当に人間らしさが滲み出てるんですよ。隙があるというのも、人って完璧じゃないし、完璧を求めなくていいよ、って言ってくれているような気がして救いがあるんですよね。ユージンには3つの夢があって…かなった夢があっても、また新しい夢を見つけるだろうし、そういう人間の力強さを感じるんです。若いからというのもあると思うんですけど、夢って叶ったら終わりじゃないって言うのも感じられて、そこは自分自身も考えさせられました。

――20代、30代の若いうちに冒険しておけばよかったこと

宮崎 意外と、挑戦したいと思ったことにはチャレンジしてきている気がします。海外にも、今だから感じられるものがあるかも、と思ったら事務所にお願いしてオフを貰って海外の演劇を観に行ったりしてました。正直、以前はライフラインが止まるくらいの時期もあって、稽古場で携帯さえ充電できれば何とかなる!って開き直ってたら、プロデューサーの方が交通費の入ったSuicaをくれたり、差し入れしてくれたり。人の温かみをすごく感じましたね。挑戦して、経験してよかった、と思えることはいっぱいあります。

濱田 実は台本を読んで、リアルに自分の夢を考えたとき、浮かばなかったんですよ。小さいころからお芝居をしてきて、すごく刺激的な中に居ましたが、今でももっといろいろな役に出合いたいとは思うんです。お芝居に関わるものは、毎回挑戦だと思いながらやらせてもらっているんですけど…芝居を離れて、自分自身の夢を考えてみたら、浮かばなかったんですよね。この作品に出合って、そこを考えるようになりました。まだ芝居にとらわれすぎて遠いところにあるような気がしますが、作品に向き合う中で見つけられたらと思います。

――戦争という側面についてはいかがでしょうか?

宮崎 この時代の作品をやったことが無いわけではないんですが、日本兵とかが多くて、アメリカ側の方に想像が及んだことが無かったんですよ。想像するに、もう長いこと戦争をしているから彼らの日常の中にはもう、戦争が当たり前にあると思うんですよね。その異常さは、彼らの中にあるはず。戦争が当たり前だからこそ、逼迫するような雰囲気も無く、青春もしていられる。そこに面白さがあるような気がします。軍事訓練みたいなところは、しっかりやらなきゃな、と思いますけどね。

濱田 台本を読んでいると、ふと戦争しているんだということを忘れるんですよね。そこは本当に秋人さんがおっしゃった通りだと思っていた、だからこそ素でいられるんじゃないかというのは感じていました。。実は米兵が出てくる映画作品を演出の小山さんから紹介していただいているんです。きっとその作品は、戦地にいる人たちの物語だと思うので、訓練所というある種で安全圏に居られる新兵たちの関係性を想像しながら観たいと思います。

――最後に、公演を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします

宮崎 青春模様が描かれる作品で、さっきもエプスタインのことをいろいろ言いましたけど、ひと言では言い表せられない、ちゃんと裏側もある人間たちがいっぱい出てきます。1人1人を噛みしめて、楽しんでいただきたいと思います。

濱田 役との出合いは日々挑戦だと思ってお芝居させていただいています。翻訳劇は自分にとって初めてなので、今回も挑戦です。そして主人公をやらせていただけるということで、今まで得てきたものをすべてぶつけていくことを心に決めています。それはいつもそうではあるんですけども、このシアタークリエで、このキャストだからこそ出てくる雰囲気や、人間模様を楽しんでいただければと思います!

取材・文/宮崎新之