舞台『千と千尋の神隠し』橋本環奈×上白石萌音

まさかの舞台化の発表から、納得の、あるいは意外性の効いた豪華な顔合わせが実現することなどなど、話題が尽きない『千と千尋の神隠し』。11月上旬に行われた製作発表でも、原作の再現度満点の2パターンのポスターが披露され、さらに期待値は上昇中だ。この会見当日に行われた、主人公・千尋をWキャストで務める橋本環奈と上白石萌音の対談取材の模様をここでご紹介。

 

――お二人の場合は、先に行われたポスターのビジュアル撮影が第一歩だったのかなと思いますが。本日いよいよ製作発表の会見が行われ、作品が本格的に動き出した現時点での率直なお気持ちをまずはお聞かせください。

橋本 「本当にやるんだ!」という気持ちです(笑)。このお話を最初に聞いたのは一昨年だったので、その間ずーっとドキドキしていたというよりは、ポスター撮影の時に改めて「現実味を帯びてきたな」と思ったりして、そうやってどんどん実感が湧いてきた感覚ですね。特に今日は、製作発表会見、いよいよ後戻りできないなと(笑)。でも私にとってはこれが初めての舞台なので、舞台がどんなものかが全然想像できないんです。だからなのか逆に不安や緊張は特になくて、ワクワク感がとてもあります。

上白石 今日、会見場に入場する時に『千と千尋の神隠し』の音楽が大音量でかかっていたことに、私はまず感動してしまってずっと鳥肌が立っていました。音楽の力ってすごいですよね。まだわかりませんが、きっと来年の春、帝国劇場で生演奏でかかるんだと思うと特に。今回、オーケストラアレンジを手がけるブラッド(・ハーク)さんってものすごい人なんですよ。久石譲さんとブラッドのタッグが、ますます楽しみになりました。そして今回のキャストには、さまざまなジャンルの一流の方々が集められていて。どういう雰囲気になるのか想像がついていなかったんですけど、みなさん明るくて楽しい方が多くて。実際にずっと笑いの絶えない会見だったので、きっとお稽古も楽しいものになるのではないかな、楽しいカンパニーになりそうだなと確信しました。

 

――映画を観て感じた千尋の印象や魅力、そして現時点ではどういった点を意識して演じたいと思われていますか。

橋本 千尋は大人でも子供でもなく、成熟しきれていない、ちょうどいい年齢というか。逆に、だからこそ演じることは難しいだろうなと思っています。自分自身は今、22歳なんですけど、演じる千尋は10歳ですからね。あまり大人びていてもいけないし、かといって子供っぽ過ぎても演じている感が出てしまいますし。そこのバランス感覚は、考えていきたいところです。でもやっぱり、千尋が『千と千尋の神隠し』という作品の世界観の中でどんどん成長していく姿というのは、観ていて応援したくなるし、感情移入もしやすいですからね。舞台を観に来てくださる方々にも、そういう千尋を応援したくなるような、千尋と同じように油屋の世界に飛び込む気持ちになってもらえるように、客観的な部分も忘れずに、千尋として演じるというより舞台の上で生きたいです。カッコイイし可愛いというような、いろいろな要素があると思うんですけれども、まずは何事も新鮮に感じることが大事。私自身も初舞台だということは、千尋の初めて体験する出来事にもつながりそうな気もします。ぜひ私も、いろいろなものを吸収していけたらいいなと思っています。

上白石 千尋って本当に勇気がある子ですし、強い子。同時に“持ってる”子だと思うんです。本当に、運がいい(笑)。目の前に現れたチョイスで、正解を選べる勘の鋭さも持っていますしね。それに、一歩踏み外したら奈落の底に落ちるような階段でも無事にのぼり切れますし。

橋本 アハハハ、確かに!

上白石 運動神経がものすごく良くて、ふとした時に奇跡みたいな選択ができて、ツイている子なんです。本人にはもちろんその自覚がないから、きっと「とにかく一生懸命、できることをやろう!」という意識が、あの強い運にもつながっているようにも思える。子供って、結構そういうことがあるじゃないですか。「よくできたね、そんなことが!」ということがケロッとできてしまったり。そういう、何も考えていないが故の強さみたいな部分がうまく出せたら面白いんじゃないかなって思っています。私も、すべてのキーポイントが千尋が10歳だというところにあると思うので。

橋本 そうなんですよねえ。

上白石 映画を観たり、コミック読んだりして、いろいろと想像を働かせておこうかなと思います。

 

――お二人が10歳の時にはどんなお子さんでしたか。千尋と似ているところ、逆に違うところ、小さい頃の思い出も含めて教えてください。

橋本 9歳になったくらいから既にお仕事はやっていましたね。

上白石 あの、有名な写真は何歳くらい?

橋本 あれは中学生です。って、たぶん同じ写真を想像していると思いますけど。

上白石 髪の毛がひゅんってなってて。

橋本 こういう、手になっている(とポーズ)。

上白石 そうそう!(笑)

橋本 あれ、14歳の時です。

上白石 じゃあ、10歳だとそれよりも前だね。

橋本 初めての映画、是枝(裕和)監督の『奇跡』(2011年公開)という作品のオーディションを受けた時期が、ちょうど10歳くらいだった気がします。

上白石 あの作品、劇場で観た!

橋本 本当ですか?あれは九州の、新幹線が開通する頃のお話で。

上白石 うんうん、そうだった、そうだった。

橋本 あの頃の私は、とにかくやんちゃというか、ただのガキんちょって感じでしたね。すごく生意気だったと思います。今も、あまり変わらないんですけど(笑)。昔のメイキング映像を見ると「何言ってんだか」って自分でも思うくらいに目も当てられない、恥ずかしさがあります。すごく活発な女の子だったということはよく言われますし、今でもアウトドアが好きでインドアとはかけ離れた存在で。千尋とは、あまり似ていなかったんじゃないかな。でも千尋が持っている踏み出す勇気、それは私も常に持っていたいと思っているので、そこは共通点といえるかなと思います。

上白石 私、10歳の時にはメキシコに住んでいたんですよ。今、振り返れば人生の転換期を迎えていた頃で、楽しい生き方をたくさん学んでいた時期ですね。そして、たぶん人生の中で一番気が強くてケンカっぱやくてアクティブだった時期でもあります。

橋本 ケンカっぱやいイメージ、ない!(笑)

上白石 すごく正義感が強くて、すぐケンカしてた。やんちゃな子が静かな女の子をちょっとからかったりするたび、立ち上がって「人の気持ちがわかんないの!」みたいなことを言っちゃう、学級委員タイプでしたね。

橋本 うんうん、それならわかる!

上白石 今からしたら考えられないですけどね。その後、中学校で思春期を迎えてからだいぶ変わったので。10歳は、一番明るくて勇気があった時期。そういう意味では千尋と近かったかもしれません。言葉も「わからないけど伝えたい!」みたいな、すごくガッツがある子供でしたし。

橋本 わあ、すごいな。

上白石 怖いもの知らずで、自分のことを無敵だと思っていたんですよね。

 

――橋本さんは、なぜこのタイミングで初舞台に立とうと思われたんでしょうか。もともとやりたいと思っていたんですか。そして上白石さんは現在もコンスタントに舞台に立たれていますが、舞台ならでは感じる面白さとはどういうところですか。

橋本 タイミングに関しては、たまたまとしか言いようがないですね。舞台に関して、まったく気持ちになかったわけではないですし、周りの役者さんたちからも「舞台は、やらないの?」って声をかけていただくことも多かったですし。それに「舞台は楽しい!」って、舞台経験者の方って口を揃えて必ず言うじゃないですか。「楽しいから、ぜひやったほうがいいよ」って。その表情を見ているとすごくイキイキしているし、童心に帰ったみたいな無邪気な顔をみなさん、されるんですよ。それを見るたび、「そんなに楽しいんだ、やってみたい!」と思っていました。役者さんのお友達の舞台を観劇しに行く時も、これまではお客さん側の目線でしかなかったから、自分が立つという想像がまったくできなくて。とにかくすごいことをやられていると感じていたので、だからこそ中途半端な気持ちで「私もやりたーい、やるー!」という気持ちだけではできないだろうな、やるんだったら本気で向き合わなければいけないなとは感じていました。そんな頃に今回のお話をいただいて「これは、やりたいな!」って、純粋に思ったんです。舞台ということは超越したところで、とにかく『千と千尋の神隠し』という不朽の名作で千尋をやらせていただけるなんてすごく光栄なことだし、またとない機会ですから。もちろん、舞台というものはまったく想像つかないし不安もありましたが、挑戦してみたら自分にとっても大きな節目になるんじゃないかなと感じたし、これまで私自身もすごく運良く生きてきたこともあって、今このタイミングで良かったんじゃないかなって思っています。

上白石 ……舞台、本当に楽しいよ!(笑)

橋本 そうですか!(笑)

上白石 舞台の何が好きって、考える時間も、悩む時間もいっぱいあるところです。1行のセリフについて何日も何日も悩めるって、こんなに贅沢なことはないし。そうやって同じ脚本に日々向き合うことで、自分の足りない部分が見えて、もっとこうしたいという欲が出てきたりも。映像だとどうしても時間に追われて、撮っては出し、覚えては出し、という繰り返しになりがちなので。

橋本 そうですよね、時間がいつもない状態だったりする。

上白石 瞬発力の楽しさというものもあるんですけどね。舞台は、本当に根を詰めて考えられて、ちゃんと苦しめる場所でもあって。毎回初心に帰れますし、しっかり地に足が着く感覚がある。しかも、一緒に長い時間を共に過ごしたカンパニーのみなさんとは家族みたいに本当に仲良くなるし。それから、毎日物語が始まって終わるというところも、すごく好きなんです。その上、同じ脚本で同じことを毎日やっているのに、1回も同じ舞台にはならないというのも、まさにナマの楽しさ。そうやって「生きてる!お芝居してる!」という感覚を毎日、舞台の上で痺れるくらいに味わえるところもたまらなく好きです。それと同じくらい怖さや不安や緊張も実はあるので、たまにふと我に返って「なんでこんなに緊張することしているんだろう?」って思うこともあるんですけど。

橋本 (笑)

上白石 でもやっぱり私は小さい時からなにより舞台が好きで。今も、そしてこれからも一番好きなんだろうなって思います。

 

――この作品に出るにあたり、自分自身にどんな課題を与えたいですか。また、どんな期待をしたいですか。

橋本 ある意味、自分の新しい面を見つけられるような気がしています。そもそも私、ひとつの役にこんなに長い期間取り組めるということ自体がまず初めての経験だということもありますし。それに物語の前後にもその役自身の人生はあるので、そこを深くとらえていけたらなとも思っています。さらに今回は、周りのキャストのみなさんが豪華な面々ですから、ぜひ胸を借りたいですし。それから、やはりジョン・ケアードさんの演出ですね。私も『レ・ミゼラブル』や『ナイツ・テイル』を観に行かせていただいていて、本当にすごいなあって思っていますので。「ああ、舞台ではこういう動きをするんだ」とか、「こういう作り方なんだ」と知りましたし、ビックリ箱のような衝撃でガーッと盛り上がって感動するところもあれば、逆にとても癒されるところもある、その強弱。2~3時間の上演時間中にあれだけさまざまな感情を味わえるって、すごく素敵だし、夢が詰まっていると思います。その上で、みんな口を揃えておっしゃるのが「稽古は絶対に楽しい」ということと、「すべてジョン・ケアードさんに任せておけば平気だよ」ということで。

上白石 本当に、その通り!(笑)

橋本 もう、とにかく今はジョン・ケアードさんがどういう演出をつけてくださるんだろうということが、楽しみで仕方ありません。『千と千尋の神隠し』のあの異世界感と、とらえようのない、形のないものも出てきたりするので、そこをどう具体的に作っていくのか……。その作り手側の人間に自分がまわれたということも、すごく光栄です。だって、もし自分が出ていなくても「この舞台、楽しみだな、観に行きたい!」と思っていたはずですから。

上白石 私、ジョンがよく言う言葉で特に好きな言葉があって。「このシーン、リハーサルをすごく重ねたんだねとは思わせたくない」って、いつも言うんですよ。つまり「この場で初めて本当に起きていることに見せたい」ということなんですが、それってお芝居のすべてを表している気がしていて。特に千尋は、実際に初めての経験を積み重ねていって、ちょっとずつ成長していく。物語を動かすというよりは動かされるほうのキャラクターだと思うので、どれだけその場の空気や起きていることに対して素直に反応できるかが大切になってくる気がするんです。初めての感動といっても、大人と子供とではまた感じ方が違うでしょうし。毎回すべてのことに驚きと新鮮さを持って受け止められるよう、柔らかく存在できたらいいなと思います。

 

――お稽古開始はもう少し先ですが、既に準備されていることは。

橋本 映画は観ていますけど、それを準備と言っていいものなのかどうか(笑)。ただ自分が演じるということはわかっていても、つい映画は映画で楽しんじゃうみたいなところがあるんですよね。「ああ、やっぱり何度観ても面白いなー」って思っちゃう。

上白石 わかる!

橋本 自分がどう演じるかはまだ想像できないものの、でも原作がある作品の実写化と向き合う時って、基本的にその原作に対して愛情があれば大丈夫だと思っているところもあるんですよ。もしかしてまったく違う雰囲気になったとしても、原作愛とリスペクトはしっかり持っていたいと。観ている方を全員満足させるのって、厳しいことじゃないですか。だからこそ愛情を持って、真摯に向き合うことが最も大事だと思うんです。だから映画を観ていて自分が千尋になった感覚で、ここはイヤだなとか、ここはビックリするなっていう、リアルに映画から生まれた感情を忘れないようにしないとなとは思います。そこで感じた印象は、きっと千尋も一緒だろうし、それは舞台の中でも変わらず生き続ける部分だと思うので。

上白石 私も一緒で、出演が決まってから何回か家にあるDVDを観ていて、今日の会見に向けて昨日の夜もちょっと観ていたんですけどね(笑)。準備だと思って観始めても、最後普通に泣いちゃうんです。

橋本 本当、そうですよね。

上白石 それほどすごい作品なんだということだと思いますが、以前と見方が変わったなと思うのは、たとえば湯婆婆がバーンと存在感を示していて、その手前で千尋がその話を聞いている場面で、千尋はどんな顔をしているんだろうと観察するようになったんです。目をそらすのか、子供だからじっと見つめることができているのか、とか。そういう意味ではヒントがたくさん詰まっている、おそらくそこにひとつの答えがある。それをどのくらい自分に取り入れるのか、その出来事を目の当たりにした時に感じるナマの感情はどれくらい残すのか、その塩梅の調整になっていくのか。それと、繰り返し映画を観ていて思ったんですが、千尋って身体能力が高くて、すごく動くし、走る。コロンコロンコロンって転がる時にしても、必ず足がものすごく反った形になっていたりするので。

橋本 確かになってた!(笑)

上白石 身体も超柔らかいんですよ。だから、ジョンからどんな動きを求められてもスッとできるように、ストレッチと筋トレはしっかりやっておこうと思います!

橋本 確かに!私もしっかりやっておきます!

 

お互いの答えに頻繁に相槌を打ちつつ、時には「やっぱり?」「確かに!」とリアクションも取り合う、息の合った二人の千尋の様子はとても微笑ましく映った。助け合い励まし合いながら真摯に作品づくりにいそしむ姿が容易に想像でき、そのことは必ずや本番の舞台の成功へとつながるはずだ。それぞれの個性が見事に生かされそうな二人の千尋の大冒険、その開幕の日まで心して待とう。

 

(取材・文 田中里津子)