「愛を注ぎ込む」三浦直之×木村達成×桜井玲香×小西遼生『SLAPSTICKS』座談会

KERA CROSS(ケラクロス)第四弾『SLAPSTICKS』が12月25日に開幕する。

KERA CROSSとは、劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の戯曲の中から選りすぐりの名作を、才気溢れる演出家たちが異なる味わいで新たにつくりあげる連続上演シリーズ。今作は、2019年の第一弾『フローズン・ビーチ』(演出:鈴木裕美)、2020年の第二弾『グッドバイ』(演出:生瀬勝久)、2021年の第三弾『カメレオンズ・リップ』(演出:河原雅彦)に続く第四弾となり、演出は、幅広い世代から支持を得る最注目の若手クリエイター・三浦直之(ロロ)が手掛ける。

サイレント映画からトーキーへ転換期を迎えるハリウッドを舞台に、激動の時代に映画作りに情熱を注ぐ人々を、映画への愛と希望に溢れるひとりの青年を通じて描く本作で、主人公ビリー・ハーロックの青年期を演じる木村達成、ビリーの初恋の人アリス・ターナーを演じる桜井玲香、ビリーの中年期を演じる小西遼生、そして演出の三浦直之が出席した取材会の様子をお届けする。

 

――皆さんの役どころと、稽古が始まっての感想をお聞かせください。

木村 僕が演じるビリー・ハーロックは、サイレント・コメディーを愛し、環境に振り回されながらも映画に熱を注ぎ込む助監督という役どころです。すごくピュアで、でもちょっとおっちょこちょいという、とても愛されるキャラクターです。稽古は昨日やっと二幕の頭に差し掛かりまして、一幕では、映画をつくる会社での和気藹々とした感じや、映画に熱を注ぎ込んだ人たちの物語を描いているので、自分も楽しく演技できていたのですが、二幕からは、苦しかったり、時には泣いてしまうような、そのくらいの熱を帯びた芝居になってくるかなと思っています。なので今は、楽しみでもあり不安でもあり、そんな感じです。

桜井 私が演じるアリス・ターナーは、サイレント・コメディーのピアノ伴奏者で、ビリーの初恋相手です。稽古では、脚本のKERAさん色もありつつ、KERAさんとはまたちょっと違う、三浦さんらしい演出をつけていただいていて、おふたりのいいとこどりなお芝居ができていて今すごく楽しいです。これからどんな作品になっていくのか、楽しみつつもたくさん悩みながら取り組んでいけたらと思います。

小西 僕はビリーの中年期を演じます。「中年」「中年」と言われて、初めて自分が中年であることを自覚しております(笑)。中年期のビリーとしては、過去を回顧したり古き良きものを思い出しながら、その頃の良かったものをなんとか残そうという気持ちと、後で思い返してみれば全部笑い話だよねというような穏やかな気持ちを持って、今は稽古を傍観しているところがあります。そういう、時間が経つことで生まれる“味”を、舞台上に出していけたらと思っています。

 

――三浦さんはお稽古が始まってどのようなことを感じていますか?

三浦 この作品はKERAさんが若い頃に書かれたもの(1993年初演)で、当時KERAさんはどんな気持ちで書いたのかなとか、そんなことを想像しながら演出しています。KERAさんの、サイレントコメディを愛する気持ちがすごく感じられる作品なので、当時どんなふうに愛し、その気持ちを伝えたいと思って書かれたか、そういうものも大事にしたいです。この作品の劇中で扱われる事件は実際に起きたことですし、実際にその時代を生きた人たちも登場します。そのノンフィクションとフィクション、1920年代の状況と現代の状況、その関係をどう考えてやっていけばいいのかを考える日々ですが、そこが達成できたら、今この時にやる意味がすごくある作品だと思うので、引き続きがんばりたいです。

 

――今現在、第一線でやっていらっしゃるKERAさんの戯曲を扱うことはどう思われていますか?

三浦 演劇を始める前からKERAさんの作品は観ていましたし……毎日プレッシャーで死にそうです(笑)。でも楽しいです。尊敬している方の戯曲をこうやってやらせてもらえるというのは、すごく貴重な経験だなと思います。

 

――キャストのお三方は実際に演じて、この作品のどこに魅力を感じていらっしゃいますか?

小西 この『SLAPSTICKS』はどちらかと言うと、KERAさんをよく知っている人が観ると、「こんな作品もつくってたんだ」と思うような作品なんです。実際KERAさんも、先日稽古場に来てくださったときに、30歳くらいの時に書かれたもので、かなり自分の中でピュアな作品だとおっしゃっていました。僕は、ビリーとアリスのシーンで描かれるピュアで淡い恋心にめっちゃキュンキュンするんですよ。KERAさんがどんな学生だったかわからないけど、KERAさんにもこんな純粋な恋している時期とかあったんじゃないかなって思うし。だから僕は、そういうピュアさと、本当に映画が好きだったんだなと思うような部分にすご魅力を感じています。

木村 この作品の登場人物のほとんどは実在した人だけど、主人公のビリー・ハーロックはフィクションの人間で。僕、ビリーはKERAさんなのかなと思っていて、稽古場に来てくださったときに聞いてみようかなと思ったんですよ。でも聞いたらつまんなくなっちゃうなと思ってやめたんですけど。でもなんか、この公演をKERAさんが見てくださったときに、過去の自分に浸ってほろりと泣けてくるような作品にしたいと思いました。

桜井 私はKERAさんの台詞の言い回しやテンポ感、女性が話す語尾の雰囲気などがすごく好きで、それがただただ楽しいです。ジョークにも品を感じることが多くとても魅力的だなといつも思います。

 

――三浦さんから見た、キャストの皆さんの印象をお聞かせください。

三浦 木村さんは何度かご一緒させてもらって、本当に素直に演じる方だなと思います。その素直さというのが今回のビリー役にすごく似合っていると思う。あと木村さんのすごくいいなと思うところは、照れる姿が絵になるんですね。

木村 (笑)。

三浦 照れたり恥ずかしがったりするような瞬間が気持ち悪くならない。おどおどしている男の子に見えないんですよ。照れる姿がすごく素敵な俳優さんだなと思います。

木村 ありがとうございます。

三浦 桜井さんは、演じるアリスが実直そうな女の子なのですが、桜井さん自身もすごくそういう実直な姿が似合う方だなと思います。そしてそういう実直な姿が似合うからこそ、ちょっと変なことをしただけですごくおかしく見えるんですね。この振り幅は、コメディエンヌとしての素質がすごくあるんじゃないかと思っています。小西さんは、役どころがすごく難しいと思うのですが、木村さんのビリーを見て中年のビリーを考えてくださっていることを感じます。過去の話の中には、苦しいエピソード、痛々しいエピソードがたくさん出てくるので、過去を見るときには深刻な目線も生まれてくるんだけど、その一方で、これはKERAさんらしいところで、すごく深刻だと思ったら突然ナンセンスなやり取りに切り替わることがある。だから深刻さに引っ張られていくとそのナンセンスに寄っていくのが難しくなるんですけど、そのバランスを考えて両立させるっていうことにチャレンジしてくださっているなと感じます。

 

――木村さんと小西さんはおふたりで同じビリーという役を演じるうえでどうされていますか?

木村 喜劇映画、サイレント・コメディーに対する好き度は色褪せていない、という共通認識はあるのですが、動きみたいなところの統一性は別にあまり求めなくていいんじゃないかなって話は少ししましたよね。

小西 僕が演じるビリーと達成が演じるビリーの間で19年の時が経っているのですが、僕自身、今の自分と19年前の自分ってだいぶ違うんですよね。つまり、ビリーだからということではなくて、時間というものは人を大きく変化させるものだっていうことで。それに癖がある役だったら、寄せていったり、動きの癖を真似ようかなとか思うんだけど、ビリーはかなり普通の人、真っ直ぐな人間なので。達成が演じているのを見て、「こういう実直な部分は変わっていないんだろうな」っていうところを自分の中で落としてみたりとかはしていますが、細かいところのすり合わせとかはあまり必要ないかなって。

木村 そうですね。

小西 でも物語ができあがった時に、彼の過去が、すごく遠いような近いような感覚で、「本当によかったものだな」と思えるものにしたいなっていうところはあります。

木村 劇中で、舞台になる時代が変わって、映画もサイレントからトーキーに変わって、ビリーを演じる役者も変わる。いろんなものが変わるんだけど、そこに(ビリーの)喜劇映画、サイレント・コメディーが好きだっていう気持ちが明確に残っていれば、いいかなという感じです。

小西 それに僕たちは根本の気質がちょっと似てるようなところがあるので。

木村 本当っすか!

小西 達成って、やんちゃな部分と真面目な部分が混在してはいるんだけど、基本すっごい真面目なんですよ。特に芝居のことに関しては。だから、つくり方とか向き合い方とか、「わかる!」ってところがたくさんあるし、達成の気質に自分と同じようなところをいっぱい見つけられるので。だからトリッキーなことをせずに役と向き合えば、意外と重なるなと思います。

 

――開幕まであと3週間というところですが、木村さんから締めの言葉をお願いします。

木村 これからもっともっと深めていって、もっと深くこの作品を愛していけるように、公演が終わってもこの作品への思い入れが強く残るくらいに、作品に愛を注ぎ込んでいきたいと思っています。ぜひ劇場にお越しください。よろしくお願いします!

 

取材・文:中川實穗