演劇の毛利さん -The Entertainment Theater Vol.1『天使は桜に舞い降りて』毛利亘宏×荒木宏文インタビュー

【左】毛利亘宏 【右】荒木宏文

劇団「少年社中」を主宰する毛利亘宏が立ち上げた、演劇ユニット「演劇の毛利さん -The Entertainment Theater」。2021年1月には、Vol.0と冠した音楽劇「星の飛行士」を上演し、音楽劇と同時に朗読劇を展開するという実験的な公演としても話題を呼んだ。
そして、Vol.1となる「天使は桜に舞い降りて」がついに1月6日から開幕する。今回は、「桜」の物語から生まれる「再生」をテーマにした作品。桜の下に舞い降りた天使たちが、桜の精と出会い、桜の下に眠る物語から人間の本質に迫っていく。
本作の作・演出を手がける毛利と、主人公の天使・ラウムを演じる荒木宏文に本作への想いや意気込みを聞いた。

 

――まずは、毛利さんが演劇ユニット「演劇の毛利さん」を立ち上げられた経緯から教えてください。

毛利 劇団(少年社中)を長いことやっていて、それに加えて劇団以外でもさまざまなシリーズものやコンテンツに携わらせていただいていますが、地道に自分のやりたいことを全力でぶつけていく場を作りたいと思っていました。それぞれの場で必要なことをやっているだけでは、成長が止まってしまうという思いがあったので、自分の名前を冠したレーベルを作って、演劇、それから自分がやりたいことに心から向き合おうと考えたのがスタートでした。

 

――2021年1月に、Vol.0として「星の飛行士」を上演されましたが、同作を上演したことで新たな発見はありましたか?

毛利 コロナ禍であることを配慮した作品を作ってはいましたが、やっていくことは変わらないんだなと改めて気づいた公演でもあったと思います。僕は僕のやれることをして社会に貢献するしかない。我が道を行こうと思い、今回の公演につながっています。

 

――荒木さんは、本作のオファーを受けてどう感じましたか?

荒木 毛利さんとは久しぶりのお仕事なので楽しみです。(2015年上演の)ミュージカル『黒執事』以来ですね。

毛利 『黒執事』も楽しかったけれど、(『黒執事』は)原作ものだったので、いつかオリジナル作品でやりたいなと思っていたんですよ。一緒にキャラクターを1から作って、荒木のやりたいことやみんなのやりたいことを持ち寄って「バーン!」と(弾けるようなものが)やりたいんです。ディスカッションを重ねて、役者たちもお客さんもみんなが「演劇が好きだ」と思える作品を作りたい。6年ぶりにその想いが叶いました。

――毛利さんから見た、荒木さんの俳優としての魅力は?

毛利 まず、色艶を持っているところがすごく魅力的です。その上で、変幻自在に何でもできる。それはすごい才能だと思っています。今回も荒木をイメージしながら脚本を書きましたが、イメージ通り…というより新しい荒木を想定して当て書いたので、荒木本人とディスカッションをして、いっしょにつくっていきたいと思っています。いろいろな色の荒木を見たいんです。彼は現場によって表情をいかようにも変えられるんですよ。だから、38歳で2.5次元の第一線で活躍している。そんな役者はなかなかいないですよ。リスペクトしています。

 

――荒木さんは、演出家としての毛利さんにどんな印象がありますか?

荒木 毛利さんは、現場では“ゲラ”(笑い上戸)なんですよ(笑)。だから、役者陣はいい意味で調子に乗れる。「もっと見せてやろう」と思えるし、僕はあまのじゃくだから、「笑わないならもっとディープな表現をしてやろう」と普段以上に引き出してもらえている気がします。

 

――今作の脚本を読んだ感想は?

荒木 脚本を読むことで、自分の立ち位置を想像できることが多いのですが、今回のラウムは、「僕の芝居を信用してくださっているんだな」と感じられる一方、新たな一面を見せられる役どころと感じています。自分で言うのもなんですが、僕は割と器用と思っています。だからなのか、若い役者が多い現場で、物語を深めたり、芝居をサポートして欲しいという要望があって呼ばれることもよくあるんです。お話しした通り、僕が主役であることを前提にいろいろと考えてくださり、僕に信頼を置いてくれているからこその物語なんだと感じた上で、さらに僕自身にとっても挑戦といえる作品になりそうで、とても難しい役がきたな…という感想です。

――毛利さんはどういう気持ちでその「難しい役」を荒木さんに当て書きされたのでしょうか?

毛利 (荒木が話していることは)当たりですね(笑)。でも、それを狙ったというよりは、彼のいろいろな面を見せたいというのが最初に考えたことでした。僕は、演劇は台本で完結するものではなく、稽古場で生まれるものだと思っています。今回も荒木と顔を合わせてからスタートすると思っているので、ここから荒木と作り上げていきたいと思っています。役者がやりたいことをやってもらうのが、本人にとってもファンにとっても一番うれしいだろうと思いますし、そんな舞台作りをしたいと思いながらいつも作っています。

 

――今作は、「『桜』の物語から生まれる『再生』をテーマにした作品」ということですが、どんな思いからこのテーマを選んだんですか?

毛利 まず最初に「再生の物語、かつハッピーエンドのお話を作りたい」という思いがありました。この約2年間、コロナ禍で大変な時代が続いてきましたが、オリンピックも終わったし、そろそろ再生に向かってゆっくり動こうよ、と。では、その再生を描くとして、「その象徴には何を」と考えたときに浮かんだのが『桜』でした。桜は、毎年きちんと咲いてくれますよね。ですがこの2年、われわれは桜の下で集まることもかなわず、宴をすることもかなわずという状況でした。もう一度桜の下で宴会をしたいというのが、僕の一つの地に足が着いた願いであり、それは再生の証になるんではないかと思ったんです。そんな思いから物語を発想していきました。

 

――本作の発想の上でも「コロナ禍」というのは大きな影響を与えたのですね。お二人は、コロナ禍でのエンターテインメント、演劇に対してこの2年間でどのように感じましたか?

荒木 新型コロナは、エンタメに携わる人に様々な課題を突き付けたかと思います。エンタメの重要性は、人それぞれ答えを出せばいいものだとは思いますが、それを届ける側にはある種の覚悟が必要になったと感じます。エンタメを届けたいがために、プライベートを削りに削って、本当に辛い時期を乗り越えて今がある。だから、きっと今は「それでもエンタメを続けたい」「エンタメを手放すことができない」という人たちを中心に作品作りがなされているんじゃないかなと。現実を見て、それでも憧れて、夢を見ている人たちが今、続けていると思うので、その人たちには「純粋に演劇を作りたい」という思いが少なからずあるんじゃないかと思います。

 

――荒木さんご自身は、「演劇を届けたい」という思いは強くなりましたか?

荒木 もちろんその思いは持っていますが、自分が携われるエンタメは限りがあることを感じたので、やるべき作品はきちんと考えないといけないという責任感が強くなったように思います。

 

――毛利さんはいかがですか?

毛利 「演劇をやめたくない」というのが率直な気持ちです。このコロナ禍では、公演を行っても赤字になることも多く、正直なところ、つらい状況です。でも、それでも演劇は嫌いになれなかったし、演劇が天職だと思った。なので、僕はこれからも、現実と戦いながら演劇は続けます。きっともっとひどいことが起こっても大丈夫だという耐性はついたと思います(笑)。戦争が起こっても演劇を続ける…というシミュレーションだったと思えば、この2年間は無駄ではなかったのかもしれないと思いました。

――まさにコロナ禍の中走ってこられた2021年。改めて振り返ってみて、どんなことが印象に残っていますか?

荒木 2020年に新型コロナが初めて流行して、戸惑いながら過ごした1年間を経て、2021年は共存の仕方を模索した年だったと思います。それぞれが答えを出して、それぞれのアプローチで、それぞれのやり方を見つけてきた。変化に順応しようとした1年だったと感じています。もちろん、再流行する可能性もあるでしょうし、新型コロナではない何かが起きるかもしれない。でも、僕たちは常に何かしらが起こり得る環境下で生きていかないといけないと学びました。なので、2022年は、それを理解し受け入れた上で、一歩踏み出す年にしたいと思います。

毛利 僕は、コロナ禍だったのに仕事は増えて、死ぬほど働いた1年でした。どう効率よく働くかを考え抜いた1年だったな…2022年はもっと仕事を増やして、もっとクオリティの高いものを作るぞとより前向きな気持ちでいます。今が僕の成長期だと思えた1年でした。

 

――2022年にチャレンジしたいことは?

毛利 マグロ釣りです。僕は釣りが趣味なのですが、キハダマグロに来年は初挑戦してみるか、という気持ちになっています。相模湾で釣れるんですよ、50キロぐらいのものが。釣り人にとっては勲章みたいなものなので、ぜひチャレンジしたいですね。

荒木 僕は、来年の目標として「全部やる」と掲げています。30代ラストの年なんで、やり切らなくちゃいけないと思っています。

 

――「全部」というのは?

荒木 チャレンジできることは全部という感じです。僕は、50年で人生を終えるつもりなのですが、残りの10年は下降でしかないと思っているんです。そこを下降しないようにと抗い続けて、100パーセントを出し切るということが40歳から続くと思います。なので、ラスト1年は、40歳でピークを作るためのラストスパートの年。限界値を上げるために全部をやるというのが目標です。

 

――50年って、早くないですか!?

荒木 どんどんと下降していって、徐々に光が弱くなっていくくらいなら、100パーセントで続いていたものが0になってスパッと終わるのが理想なんです。もちろん、実際には無理なことは分かっているのですが、50歳で人生の全部をやった、パワーを使い切ったと思えるように、まずは30代では無理をして、40代ではそれまで作り上げたものをキープする。100パーセントのまま生きるという努力を40歳からの10年間はするので、そこに向かうための1年、ラストスパートを頑張ります(笑)。

 

――なるほど、奥が深いですね。では、改めて上演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。

荒木 オリジナルストーリーはすごく時間と熱量が必要な作品づくりになりますが、今回は特に世界観や文化といったものから構築していく作業になると思うので、新しい世界観に触れたい方はぜひ、観にきて欲しいです。こんな演劇の楽しみ方があるんだと感じていただける作品になると思いますので、ご興味がある方はぜひ、ご来場ください。

毛利 「見に来て欲しい」ではなくて、「やっています」とお伝えしたいです。僕たちは、ずっと演劇を続けているので、お客様自身の環境や気持ちが整ったら、劇場に足をお運びください。劇場に来る時間とお金に見合った「エネルギー」を劇場でお渡しいたします。劇場でお待ちしております。

取材・文:嶋田真己